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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第一章 【アルヒー村】
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0歳7ヶ月 5



 後で聞いたところによると、この日 お兄ちゃんがいたあの場所は、私たち家族にとっては思い出の場所なのだそうです。


 かつてはお父さんがお母さんにこの場所で夢を語り、お兄ちゃんが生まれてからも度々ここを訪れ、そして私もお母さんのお腹にいた頃、ここへ来たことがあるのだとか。

 お兄ちゃんがお父さんと例の約束を交わしたのも、この場所だったみたいです。

 だからお兄ちゃんは家を飛び出した際に自然とこの場所に足が向いたのでしょうし、だからお母さんはお兄ちゃんがここにいるかもしれないと思ったのでしょう。


 メリアーヌさんに警護してもらいながら私たちが村に戻ると、村のみんなは無事に戻ってきた私たちを見てホッと胸をなで下ろしていました。

 この辺りに盗賊が出たという物騒な噂があったようですが、幸いにもそんな連中に出くわすことはありませんでした。

 しかしながら、あのままお兄ちゃんが見つからなければ事態はどうなっていたかわかりません。なので私が多大なリスクを冒してでも行動したことは、無意味ではなかったのだと思いたいものです。


 ……そう、“リスク”。


 お母さんやお兄ちゃん、メリアーヌさんや村の人たちにとっては、みんなが無事に戻ってきてめでたしめでたし、で済むことでしょう。

 しかし私に限っては、むしろここからが本当の修羅場となるのです。

 案の定、私たちが無事だとわかったことによる安堵感が徐々に薄まり冷静になっていくにつれて、自然とみんなの視線が私に集中するのを感じました。


 私は現在、生後七ヶ月です。

 言葉を話すどころか、まともな意思疎通や、立ち上がることさえ困難なはずの赤ん坊です。

 事実、昨日までの私は人前で二語以上の言葉を喋ったことも、立ち上がる素振りを見せたことさえもありませんでした。

 そんな私が、お兄ちゃんの失踪という状況を正確に理解・把握し、さらにはそれに対する対応策を講じて、みんなに伝えてしまったのです。

 こんなの、どう考えても異常としか言い表しようがありません。


 実際、それからの私は村の人たちからの奇異の視線や、ひそひそ話の対象となってしまいました。

 これまでは、ぎりぎり『赤ん坊にしてはやたらとお行儀の良い子』程度の認識で収まっていたものが、決定的に『異常』の烙印を押されてしまったわけです。

 今のところは目に見えて差別などの扱いを受けてはいませんが、今後そう言ったことが起こるようなら対策を講じなければなりません。

 最悪、異常なのは私だけなのですから、例の本を持って行方をくらませれば、お母さんやお兄ちゃんだけでも守ることができるかもしれません。


 そんな風に私は、万が一の事態となれば一人で生きていく覚悟を密かに決めていたのですが……



「ああ、セフィリア様……有難や、有難や……!」



 私は現在、なぜか村のお爺ちゃんお婆ちゃんたちに拝まれていました。


 どうしてこうなった……



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