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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
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1歳3ヶ月 16



「セフィ様!! ケイリスさんも……!」


 私の背後で、ネルヴィアさんが地面に埋まった足を引き抜きながら歓喜の声を上げます。

 それからすぐに沈んだ声色で、


「申し訳ありません……どうやら索敵に秀でた能力のエルフがいたらしく、見つかってしまって……」


 レジィがいるのにどうして見つかってしまったのかと思っていましたが、そういうことでしたか。

 たしかにこれだけたくさんのエルフがいて、全員が戦闘特化というのは考えづらいことです。


 そして戦いが始まってしまった以上は、互いに矛を収めるのは難しい状況のように思います。

 なんせこちらは、再三に渡る降伏勧告をすべて無視して戦闘を続行している上に、エルフ族に被害も出しています。全員峰打ちだとは思いますけど……

 しかも先ほどのルローラちゃんの口ぶりからして、私やケイリスくんをすぐに開放するつもりは無い様子。

 つまりこのまま私たちを見逃す筋合いは、まったくないということです。

 かと言って、このまま私たちが降伏しても座敷牢送りより酷い待遇となることは目に見えています。座敷牢送りというのは、まだ誰にも被害を出していなかったケイリスくんへの処置だったのですから、今の私たちがそれと同じ待遇を期待するのは虫が良すぎるでしょう。


「貴方たち……仲間だったのですね」


 驚きを隠せない様子の族長さんが、立ちはだかる私とケイリスくんを見て呟きます。

 そして良く通る声を張り上げて、


「あれは赤子の皮を被った悪魔です! 全員、散開し警戒しなさい!」


 族長さんの号令に対し、今まで待機していたエルフたちが、動けない仲間を引きずりながら私から距離を取ります。


 拝啓、お母さん、お兄ちゃん。

 私はついに、悪魔になったみたいです。

 帰ったら慰めてください。


 ……まぁ、赤ん坊が魔法を使うなんて普通はありえないですから、そういう結論に至っても不思議はないでしょう。

 しかしこの状況はかなりマズイですね。私だけでもこの状況から抜け出すのはキツイのに、ネルヴィアさんとケイリスくんを庇いながら、しかも動きを封じられているレジィを救出しなければならないというのは無理ゲーも良いところです。


 ここはどうにか戦闘を避けられたらいいのですが……私が赤ん坊でないと見なされた以上は篭絡も通用しないでしょう。

 あれ、これ詰んだ?


 一応最終手段は残されていますが、これはどうしようもない命の危機でもない限りは使いたくありませんし……


 どうにかしてルローラちゃんを倒すことができれば、レジィの拘束が解除されて形勢が逆転するかもしれませんが……それは正直どうなの? って気もします。

 私の希望的観測が正しければ、非常に綱渡り的な算段ではありますが、勝機が無いわけではありません。

 しかしこちらが勝手に押しかけて、被害を与えた上で、里で最も有力なエルフを倒して逃げるって……完全にやってることが悪党!


 ……いえ、この窮状ピンチでうじうじ悩んではいられません! かつて私がボズラーさんとの戦いで追い詰められたのは、この優柔不断によるものだったではありませんか!

 仲間かぞくを危険に晒すくらいなら、無責任と言われた方が遥かにマシです!


 別に私は正義のヒーローでも、偉大なる勇者様でもありません。

 帝国の軍人という立場なのがネックですが、それでも私はちっぽけな一人の人間でしかないのです。

 私が優先すべきは、ネルヴィアさんと、レジィと、ケイリスくんの安全。

 目指すのは百点満点などではなく、ギリギリ及第点で良いのです。


 次に捕まったら、どんな目に遭うかわかりません。人族の常識がエルフ族の常識に当てはまるかなんてわからないのですから。

 ならば、攻勢突破あるのみ! 脳筋上等です!


 ……で、でも、最後にちょっとだけ、お話ししてみようかな……?

 うん、意外と話のわかる人かもしれないしね? そうそう、あくまで一応ね? チキってませんよ?


『ケイリスくん、通訳して。……―――彼の目的は、人族とエルフ族の争いの原因を知り、それを止めるためでした。そして私たち三人の目的は、ケイリスくんを取り戻すことです』


 相手の動向を警戒しながらも、私はケイリスくんに唇の動きが見えるように喋ります。


『不幸な行き違いはありましたが、私たちに争う意思はありません。これから私たちはトーレットで、今回の事件の真相を広めるつもりです。そして二度とエルフを攫うような者が現れないよう、彼らに言い聞かせます!』


 すると私の言葉に、鋭い目つきの族長さんが反論してきました。


「人間たちの……貴女が人間かどうかは知りませんが……とにかく、そういった詭弁は聞き飽きました。すぐに約束など忘れて、同じことを繰り返すに違いありません」

『だとしても、このままじゃ人族の間に反エルフ思想が根付いて、国から軍隊が派遣されるかもしれません! それを防ぐためには、私たちのような第三者が口添えする必要があるとは思いませんか?』


 これは実際のところ、危惧されるべき状況でしょう。エルフ族が魔族に味方をしたと思われれば……エルフ族が中立の立場を捨てたと思われれば、攻撃を受けるのも道理。

 そうなれば、この里には少なからず被害が出ることでしょう。たとえ負けなかったとしても、取り返しのつかない“被害”が。

 今回の事件で彼らが必死で守ろうとした里の子供だって、命を落とすかもしれないのです。


 感情の上では人族への憎しみが強いかもしれませんが、それでも族長さんほどの責任ある立場なら、私の言葉を簡単に突っぱねることはできないはず……と思ったのですが、


「そのように人間に媚びれば、奴らは余計に付け上がるでしょう。だから人攫いなどという輩が現れるのです」


 族長さんはバッサリと、私の意見を切り捨ててしまいました。

 こういう腰の引けた感じの、日本人的な外交はエルフ族には受け入れがたかったようです。わぁ、これがカルチャーショック?

 もう! だから戦争は無くならないんだよ!


「ルローラ」

「あー、はいはい」


 この緊迫した空気に似つかわしくない、気の抜けたような返事を返すルローラちゃん。

 けれども彼女は、周りで倒れてたり蹲ったりしているエルフたちを見て、一瞬目を細めると、


「……めんどいけど……まぁ、しょうがないか」


 そう言いながら、彼女の纏う雰囲気が一変しました。



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