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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
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1歳3ヶ月 15 ―――心眼のルローラ



 私たちが小屋から出ると、先行していたエルフさんたちは遥か前方を走っていました。

 走って……あれ? ララさんとルローラちゃん、空飛んでない? え、なにあれ怖い。


 唯一普通に走っているっぽい族長さんを追いかける私たちは、そこで里の隅っこ……森との境あたりにたくさんのエルフたちが集まっているのを見ました。

 あれがもしも『ドキッ! エルフだらけの相撲大会!』の観客とかだったら嬉しいのですが、残念ながらそんな平和的なものではないでしょう。首とかがポロリしていないことを願います。


 私の代わりに走ってくれているケイリスくんの荒い息を聞きながら、人だかりに駆け寄りました。

 ただ、あんまり近くに行き過ぎて他のエルフたちに見つかると面倒なことになりそうなので、近くのおうちの陰に隠れる形になりますが。


 人だかりの中心ではネルヴィアさんとレジィが背中合わせに臨戦態勢を取っており、二人を取り囲んでいるエルフたちも戦意をたぎらせていました。

 しかしすでに半数ほどのエルフが倒れていたりうずくまってたりしているようですね。……相変わらず強いな、あの二人。

 さっきの爆発音は、エルフ族の誰かが放った攻撃によるものだったのでしょう。地面のあちこちが抉れたり焦げたりしています。


 エルフたちは、空からフワリと舞い降りたルローラちゃんを見た途端、安堵の表情を浮かべました。

 あんな光景を、私は過去に見たことがあります。それは以前、私が獣人たちを追いつめた際にレジィが立ちはだかり、彼らの味方をした時でした。

 ……つまりあれは、助けに来た強力な味方を見た時の表情。

 強大な敵を前にしてあの表情を浮かべるというのがどういうことか、身をもって知っている私は明確な危機感を覚えました。


 とはいえ今の私が使える攻撃魔法はショボいのが一つだけ。残りはもっぱら防御や回避、逃走用ですから、あの二人に大したサポートはしてあげられません。

 しかしルローラちゃんが使えるのは『心を読む能力』なわけですから、頭脳戦や心理戦ならともかく、直接戦闘であの二人が後れを取るとはどうしても思えないのですが……


「貴方たち、何事ですか!!」


 その場に駆け付けた族長さんが叫ぶと、近くにいたエルフ族の男性が、


「奴ら、すぐそこの森に潜んでいたのです! 捕らえようとしたのですが、何分、非常に手強く……」

「得体の知れない相手に、不用意に手を出すものではありません。……ルローラ、手伝ってください」


 族長にそう言われたルローラちゃんは、うんざりしたような仕草で眼帯を取り去ります。


「はぁ……もういいよ、あたしだけでやるから、みんな離れてて」


 ルローラちゃんのその言葉に、近くにいたエルフたちが道を開けるかのように左右へとけていきました。

 自然とネルヴィアさんやレジィの視線は、幼い外見の彼女へと集中します。


 そしてルローラちゃんの顔を……いいえ、きっと“右目”を見た瞬間に、レジィの顔色が変わりました。


「お前……もしかして“心眼のルローラ”か……?」

「あー、そういうあんたは“疾風のレジィ”かぁ……だる」


 険しい視線になるレジィとは対照的に、大した気負いもなくそう返すルローラちゃん。

 心を読めるらしいルローラちゃんはともかく、レジィも彼女のことを知っているのでしょうか?


 そういえばレジィは獣人族の傑出した実力者として、他の魔族にもその名を轟かせるほどの存在でした。

 ならばルローラちゃんがエルフ族の中で傑出した実力を持っていれば、いかに閉鎖的なエルフ族と言えど、同じように魔族の間で知られていてもおかしくはないでしょう。なんせ魔族は“強さ”に対して敏感ですから。


 心底ダルそうに肩を落としたルローラちゃんは無造作に頭を掻きながら、


「ねぇ、めんどいから戦うのはやめにしない? おとなしく捕まってくれれば、あたしもわざわざ攻撃しないよ?」

「ではセフィ様とケイリスさんを返してください!」と、口を挟むネルヴィアさん。

「あー、わかったわかった、いずれ返してあげるからさ。なんなら同じ座敷牢に入ってても良いし。だからしばらくおとなしくしててよ」


 “座敷牢”という言葉に、ネルヴィアさんとレジィの表情が一気に険しくなりました。……なんで?

 一瞬、「そんな場所に入ってたまるか」という怒りかと思いましたが……あれはもしかして、私を座敷牢に放り込んでいるということへの憤りだったりするのでしょうか?

 有無を言わせず戦う構えを見せる二人に、ルローラちゃんは深々と溜息をつきながら眼帯を着け直して、


「ごめん。ねむいから、さっさと終わらせるね?」


 そう言いながら、無造作に右手を前方に向けるルローラちゃん。

 直後、見えない何か……恐らくは空気の塊のようなものが発射されて二人に襲いかかります。え、やっぱり魔法も使えるの!?

 その攻撃を横に跳んで危なげなく回避したネルヴィアさんはすぐに魔剣フランページュを抜刀し、レジィはすでに両手を地面に付けて全身に力を滾らせていました。あの構えは……!


 ただでさえ常人の三倍の速度である獣人が、さらに“開眼シャンテラ”という能力で四倍に加速した“十二倍速”の突進。

 消えたようにしか見えない速度へと一瞬で達したレジィは、まっすぐにルローラちゃんへと迫り……




 しかし直後、地面に這いつくばっていたのはレジィの方でした。




 レジィが加速して飛び出す瞬間、私にはルローラちゃんが“あり得ない速度”で動いていたような気がしました。

 同時に、複数の何かが彼女の周りで巻き起こったようにも……よく見えませんでしたけど。


 ただ、それらの攻防の結果として、地面に横たわっているのはレジィであり、そんな彼を退屈そうに見下ろしているのはルローラちゃんでした。


「ぐっ……くそ、なんだ今の……!?」


 レジィは気を失って倒れているというよりも、何かに押さえつけられて這いつくばっているような感じです。今も頑張って立ち上がろうとしているところを見るに……もしかして、重量を操る能力? しかしあの速度で動くレジィにピンポイントで命中させるなんて……

 ではルローラちゃんは、自分の目の前に過重力の壁を作ってレジィを迎え撃った? いえ、それでは彼女の動きが一瞬あり得ない加速をした説明が……


 そもそも、彼女の能力は“心を読むこと”ではなかったのでしょうか?

 あ、でも人攫いをボコボコにしたのは彼女だという話でした。ということは、彼女は複数の能力を……


 複数の、能力を……?


 ……まさか……!?


 私は最悪の可能性へと思い至り、すぐさまケイリスくんに『もっとあそこに近づいて!』と声をかけました。もう隠れている場合ではありません。


 一方、あっさりとレジィを戦闘不能にしてしまったルローラちゃんは、続いてネルヴィアさんへ目を向けると、


「そっちの騎士は……あー、うん、わかったわかった。降参するつもりはないんだね」


 心を読むまでもなく、険しい表情で身構えるネルヴィアさんは見るからに戦意旺盛。

 そんなネルヴィアさんへ面倒そうに右手をかざしたルローラちゃんは、呆れたような口調で声をかけます。


「たぶんかなり痛いけど、自業自得だよ?」


 次の瞬間、まるで底無し沼にでも嵌ってしまったかのように、ネルヴィアさんの足が地面に沈み込みました。

 驚いて目を瞠るネルヴィアさんが足元へ注意を向けた瞬間、ルローラちゃんの手のひらから再び空気の塊が射出され、一直線にネルヴィアさんへと襲いかかります。

 彼女はとっさに両手で身体を庇い……


 その直前。私とケイリスくんは戦場になりふり構わず駆け込むと、どうにか両者の間に滑り込むことができました。

 そして私はケイリスくんの腕から飛び出すと、右手の親指と薬指を接触させます。


 『絶対領域アイアンメイデン


 ルローラちゃんの放った空気の塊は、私が周囲に生み出した“速度をゼロにする障壁”によって完全に遮断しました。


 その光景を見た、この場に集まっているエルフさんたちは―――もちろん、その中に混じっているララさんも―――目を見開いて驚いています。

 ……さて、もう後戻りはできません。



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