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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
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1歳3ヶ月 14



 ルローラちゃんという少女を引き連れた族長さんは、私と一緒に座敷牢の中にいるララさんを見ると呆れたように嘆息していました。

 しかしララさんの優しさはよく知り及んでいるのか、族長さんは注意するわけでも叱責するわけでもなく、見逃してあげるようです。見かけによらず甘いのですね。

 彼女はケイリスくんの牢の前に立つと、その鋭い視線を彼に投げかけました。


「貴方の言葉が真実かどうか、確かめに来ました」


 そう言って族長さんは、背後のルローラちゃんへ道を開けるように一歩横に退きました。

 するとルローラちゃんは眠そうな左目をとっても嫌そうに細めて、


「……ほんと、うちの里のやつらはエルフ使いが荒いよねぇ……かんべんしてほしーよ」


 どことなく舌っ足らずな感じの可愛らしい声が、座敷牢に響きました。

 ルローラちゃんはもっとダウナー系でぼそぼそ喋るイメージを抱いていたのですが、意外に表情豊かでびっくりしました。心底だるそうではありますけど。


 ……って、そんな呑気なことを言っている場合じゃなくって!


 『心を読む』というのがどのくらいの範囲のものかは知りませんが、現在進行形で考えていることを読むことしかできなかったとしても、ケイリスくんの心を読めば私の正体なんか一発でバレてしまうでしょう。

 そうなれば私がエルフ族の人たちを欺いていたことも一瞬でバレて、おまけに私が弱体化してることまで見抜かれて、あっという間に潰されてしまうことでしょう! ひぃ!


 というか、もしも能力が常時発動型だったら、今この瞬間も私の心が読まれているのかもしれないのです!

 ああっ、今一瞬だけど目が合っちゃった! なんか意味深な視線! バレてないよねっ!?


 ぜ、前世のことは極力考えないようにしなきゃ……と思えば思うほど、蘇ってくる忌まわしい過去。

 ええい、悪しき記憶よ、去れい、去れい!


 私がそんな独り相撲をしていると、やる気が感じられない目つきのルローラちゃんに、族長さんが微妙な表情を浮かべていました。


「ルローラ。里の一大事なのだから、もっとやる気を出してちょうだい」

「ええ~……でもさぁ、あたしの“カタラ”は、簡単に使える力じゃないんだよー?」

「それはわかっているけれど……」


 じつにかったるそうにうな垂れるルローラちゃんは、どうやらあまり能力の発動に乗り気ではない様子……?

 よし、このまま帰っちゃってください! ぜひそうしてください!


「じゃあ、こうしましょう。しばらく貴女の世話係を増やすから、この場は頑張ってちょうだい」

「えぇー? うーん、まぁ、それじゃあしょうがない、やるかぁ……あー、だる」


 どうやらルローラちゃんはやる気を出してしまったようです。ちくしょう!


 彼女は「……めんど」と呟きながら、おもむろに右目を覆っていた眼帯をずらします。

 するとその奥から現れたのは、まるでそれ自体が光を放っているかのような翡翠色の瞳。

 思わず背筋が寒くなるような瞳に魅入られたケイリスくんは、身を硬くしています。


 ルローラちゃんが輝く緑眼を晒してから数秒。

 すぐに眼帯をつけ直した彼女は、しばらく呆然とするかのように立ち尽くしていましたが、やがて無気力な瞳を驚愕にみはると、ぎこちない仕草でゆっくりと私を振り返りました。


 バ、バレた……!? ケイリスくん、今 何を考えてたの!?

 私は左右の手の親指と小指をいつでも接触させられるように、こっそりと準備をしました。


 そしてルローラちゃんが、恐る恐るといった風に小さな唇を開きかけた……その時。




 座敷牢小屋の外から突然、爆発音が響きわたりました。




「……なっ!?」


 最初にそんな声を漏らしたのは、誰だったでしょうか。

 とにかく族長さんも、ララさんも、ルローラちゃんも、もちろん私やケイリスくんも、突然のことに驚きを隠せず、小屋の出入り口へと一斉に目を向けました。


 そして我先にと族長さんが駆け出し、その後ろをルローラちゃんが小さな歩幅で追いかけます。

 しかし私を抱きかかえたままのララさんが座敷牢を飛び出そうとした瞬間、


「そ、その子供を外に出すなっ!!」


 ルローラちゃんが可愛らしい声に焦りを滲ませて、ララさんを怒鳴りつけました。

 ララさんは一瞬だけ逡巡した後、「そ、そうだよね」と私を座敷牢の中に降ろすと、


「ごめんね、リリちゃん。危ないから、ここで待っててね」


 そう言って座敷牢を素早く施錠したララさんは、何か言いたげな表情のルローラちゃんに首を傾げつつも、二人で一緒に小屋を飛び出していっちゃいました。


 エルフたちがいなくなって静寂に満たされた座敷牢には、小屋の外から遠く聞こえてくる騒ぎの音が響いています。

 というか、もうさっきの爆発音の時点で、どうしようもなく嫌な予感しかしません。

 “悪い状況”か、あるいは“最悪の状況”が発生していることは明白。お願いだから、暴れてないでね二人とも……!


「お嬢様、もしかして……」


 うん、まぁさすがにケイリスくんも気が付きますよね。今の私が一人でこんな森の奥に来られるわけがありませんもんね。

 私は強張る表情を自覚しつつも、ゆっくりと頷きます。


 それからすぐに立ち上がると、私は座敷牢の扉へと歩いて行き、右手の親指と小指を接触させました。

 途端に私の左の手のひらへと出現する、一辺五センチほどの黒い立方体。


 『立崩体ピースメーカー


 私はぴょこんとジャンプしながら左手を振りかぶり、座敷牢の錠前に黒い立方体を押し当てます。

 その瞬間、太さ十センチはあろうかという格子木も、扉の錠前も、黒い立方体に触れた部分が削り取られるかのように……しかも抵抗感も音も無く、完全に“消滅”しました。


 壊れた牢から飛び出した私はすぐにケイリスくんの牢も同様に破壊すると、中で呆気に取られていた彼の胸に飛び込みます。


『ケイリスくん、行こう!』

「は、はい、お嬢様!」


 私が彼の首に腕を回すのと同時に、ケイリスくんは私を抱きしめると、そのまま立ち上がって駆け出しました。



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