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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
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1歳3ヶ月 11



 エルフ族の族長が住んでいるという建物は、エルフの森の中でもとびきり大きな樹の根元に建てられているログハウスでした。里の建物がすべて木造なのは、エルフ族のこだわりなのでしょうか?

 私を抱えたエルフ少女・ララさんは、立派な構えの扉をノックして「族長!」と元気な声で呼びかけると、そのまま返事も待たずに扉を開けて入ってしまいました。


 室内には、すらりと背の高い女性のエルフが一人。

 まつ毛の長い怜悧な瞳はすべてを見透かすかのようで、ちょっとギクリとしちゃいました。

 ……彼女がエルフ族の“族長”ですか。なんだか言いしれない威圧感を感じます。


 そしてララさんたちが、私を発見して里に連れ込んだ経緯や、私の暗い背景などを一生懸命に族長へと話します。

 族長さんはいちいち口を挟まずに、彼女たちの言いたいことを全部言わせてから、


「だめに決まっているでしょう」


 あっさりと、彼女たちの懇願を突っぱねたのでした。


「どうしてですかぁ!? かわいそうじゃないですか! 育ててあげましょうよ族長!」

「うちにそんな余裕はないのよ。それに育てるのは貴女じゃないでしょう」

「私も育てます! がんばってお世話しますから!」

「そう言っておきながら、以前拾ってきたポポリ鳥の世話もロクにしなかったじゃない」

「うっ……そ、それは……」

「結局、面倒見るのは私たちになるのよ。ほら、元いた場所に捨ててらっしゃい」


 ……私は捨て犬かなにかですか?

 いやまぁ、エルフ族にとっては同じようなものなのかもしれませんが……


「それに人間を育てるなんて、言語道断よ。彼らが私たちにしてきたことを、知らないわけではないでしょう?」

「……でも……でも、赤ちゃんは悪くないじゃないですかぁ……」


 それでも食い下がるララさんは、私をぎゅっと抱きしめて、弱弱しくも確かな意思を込めた瞳を族長に向けました。

 すると族長は「……言いだしたら聞かないんだから」と呟くと、深々と溜息をついて、


「捨てるのが嫌なら、とりあえず座敷牢にでも放り込んでおきなさい。そこでなら一応、食べ物くらいは与えてあげられるわ」

「座敷牢……ですか?」

「里の住民感情を考えなさいな。今はみんな、人間に対してとてもデリケートになっていることくらい、貴女にだってわかるでしょう?」

「……うぅ」


 族長さんに諭されたララさんは、それでも納得いっていないような表情を浮かべながら、抱きかかえている私にぽつりと話しかけました。


「……ごめんね。ちょっとさびしいところだけど、がまんしてね? 私、毎日会いに行くから……」


 そう言って、本当に申し訳なさそうに謝るララさん。そして、そんな彼女の両脇で事の成り行きを見守っていたエルフ二人が、ララさんを慰めるように肩をぽんと叩きます。


 もしも私が本当に捨てられた赤ん坊だったとしたら、座敷牢行きという扱いはあんまりでしょう。……まぁ、死ぬよりはマシでしょうけど。

 しかしここまでの情報を総括するに、今の私にとって座敷牢送りというのは……


 そして族長の家から座敷牢小屋へと運ばれた私は案の定、そこで待ちわびていた再会を果たすことができたのです。



 座敷牢の一つには、中学生くらいの少年が一人、捕えられていました。

 色素の薄い茶髪の前髪を切り揃え、後ろ髪は三つ編み。

 冷めた目つきと、陶磁器のように白い肌。


 私が何としてももう一度会いたいと願ったケイリスくんが、そこにはいました。



 ララさんに抱かれて座敷牢に入ってきた私を見たケイリスくんは、信じられないものを見たような顔で、こちらを凝視していました。


 そして私はそのままケイリスくんの隣の座敷牢へと入れられます。


「ごめんね……ほんとにごめんね」


 そう謝りながら、名残惜しそうに私の頬を撫でるララさん。

 私が座敷牢の中から彼女の瞳をジーっと見つめていると、彼女は「うぅ、ごめんね……」と再び呟いてから、半泣きになってしまいます。

 良い人過ぎて、騙したり利用したりしてるのが本当に申し訳ないです……。


 族長に借りた鍵で私の牢を施錠した彼女は、「待っててね、すぐに差し入れを持ってくるから!!」と言って、座敷牢小屋を勢いよく飛び出して行ってしまいました。


 ……さて、小屋の周囲には見張りが立っていますが、中の様子までは見えていないはずです。

 これで、ようやく見つけたケイリスくんと二人っきりになることができました。


 本当は、ケイリスくんに言いたい文句が山ほどありました。

 勝手に出て行ったことも、わざわざ自分から危険に飛び込んでいったことも、許しがたいことです。

 せめてもう一度相談してくれたり、頼ってくれたりすれば……。ケイリスくんがこんな暴走まがいのことをするくらい思い詰めていたとわかっていれば、私だって違った答えを返してあげられたはずなんです。

 この数時間、私がどれだけ心配したことか。どんな思いでここまで駆けつけたか。再会できたら思いっきりお説教でもしてやろうと思っていたのですが……


 けれども、こうしてケイリスくんの無事な姿を見たら、その全部が吹っ飛んでしまいました。


 ……まぁ、いっか。無事でいてくれただけで、十分です。


 格子状に組まれた角材の向こうで、わけがわからないといった表情で固まっていたケイリスくんが、「ど、どうして……」と小声で呟きました。

 彼は何を言っているのでしょうか? どうしてもこうしても無いじゃありませんか。

 私は格子木に手をかけると、彼を安心させようと笑みを浮かべながら口を開きました。


『遅くなってごめんね。助けに来たよ』


 そう言って私が格子の隙間から右手を伸ばすと、ケイリスくんはその手に一瞬手を伸ばそうとして、けれどそれを躊躇って……


 しかし最後には、縋りつくように私の手を握ってくれました。目元には、涙まで浮かべています。


「ごめんなさい……お嬢様……、ボク……ボク……!」

『お説教はあとでね。まずは、ここから脱出するのが先だよ』

「で、でも、どうやって……」

『もう……ケイリスくんは、私を誰だと思ってるの?』


 私は右手の親指と小指を接触させると、左の手のひらから“黒い立方体”を生み出します。


『私はね、魔術師・・・なんだよ?』


 そう言って私は、目を真ん丸にしているケイリスくんにウインクをしました。



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