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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第二章 【帝都ベオラント】
69/284

1歳2ヶ月 7



 いつぞや私は、お母さんやメリアーヌさんによって女装させられたことがありました。

 その時は、またいつものお母さんの暴走かと諦めて、されるがままになっていたものでしたが……


「は~い、それじゃあ今度は、こっちの服に着替えてみようか~」


 そんなことを言いながら、クルセア司教は女児向けのフリフリ衣装を大量に抱えています。

 それ全部着せる気なの? おバカなの?


 おかしいですよね。私は自分の発明品についてお話に来たのに、どうしてこんなことになっているのでしょうか。


「司教……何をされてるんですか、もう。そんな服は置いてください」


 呆れたような顔でクルセア司教をなだめるのは、司教の右腕とも言える存在、モモクル・トプラゾール騎士修道長です。

 パッと見では鋭い目つきにポニーテールと、何となく近寄りがたい人だなぁとか思ってましたごめんなさい!

 今はあなただけが頼りです! 司教にもっと言ってやってください!


 モモクルさんは溜息混じりに、うず高く積み上げてある女児用の服に手を伸ばすと、


「セフィリア様は愛らしさの中にも凛とした聡明さを備えておいでなのですから、可愛い系よりも美しい系で攻めるべきです! そんなフリフリは断じて認められません!!」


 ちょっとなに言ってるのかわかんない。


 ダメだ、常識人(まとも)枠かと思いきや、思いっきりあっちの世界の住人でした。

 せっかくのクール系美人な外見を台無しにするような鼻息の荒さでモモクルさんが私に迫ってきて、しかしそれをクルセア司教はぽわぽわスマイルの奥に確かな意思を秘めて阻止します。


「違うよ~、セフィリア様はキュート系で攻めるの~! 絶対そっちのほうが可愛いよ~」

「いくら司教と言えど、異議を申し立てざるを得ません! 断然清楚なクール系です!」


 なんだか勝手にヒートアップしている二人から目を逸らすと、私の視線の先には いかにも内気そうな背の低い女性がオロオロと困り果てていました。

 現在この司教室にいる最後の一人にしてクルセア司教とは幼馴染だという、敬虔な修道士 アルル・エクシャリゼさんです。

 彼女は緊張のためか、自身の長いおさげをせわしなく触りながら、控えめではあるものの二人をなだめるように声をかけました。


「あ、あの……それはべつに、どちらでもいいと思いますけど……」


 おお! よくぞ言ってくれましたアルルさん! 気弱そうですが、言うことは言うタイプみたいです。

 でも主張をバッサリ切られた二人は、やや不機嫌そうな目をアルルさんに向けます。ああ、アルルさんが俯いちゃった! 負けないで!


 しかしアルルさんは小走りで女児服の山へと駆け寄ると、山の中からズボッと何かを引き抜き、大きな声を出します。


「か、可愛い系か綺麗系かはどっちでもいいですけどっ、とりあえず、このウサちゃんを抱いてもらうべきだと思いますっ!」

「「それだっ!!」」


 アルルさんの懸命な主張に、クルセア司教とモモクルさんは声を揃えて叫びました。


 うん、もう、好きにすればいいよ。


 それから私は、司教と騎士修道長の折衷案であるお姫様っぽいドレスに身を包みました。死にたい。

 さらに、アルルさんが主張していたウサちゃんのぬいぐるみを抱きしめます。死にたい。

 極めつけに、三人から指定されたポーズを取らされたり、セリフを言わされたりしました。死にたい。


 この三人を殺して私も死んでしまおうかと半分以上本気で思いかけた頃、ようやくクルセア司教が本来の目的を思い出してくれたようです。


「え~っと、それでセフィリア様が発明した“魔導具”についてだったよね~?」


 そう言いながら、クルセア司教は顎に指をあてて「ん~」と考えるような仕草をすると、


「明星派の宣伝活動は順調だし、そろそろセフィリア様にもなにかしてもらおうかと思ってたところなんだよね~」


 クルセア司教は私の白金の髪を勝手に編み込みながら、そんなことを言います。

 明星派だけでできることはやり尽くして、あとは私自身の頑張り次第というところまで来ているのでしょうか。


 するとモモクルさんが何かの資料を取りだして、目を通します。


「このところ、セフィリア様の帝都における貢献は目覚ましいものがあります。特に下水道の清掃や、土砂崩れへの事前対策。そして獣人に関する真実が発覚してからはそれが顕著ですね。しかもセフィリア様が帝都に現れてから、犯罪率が目に見えて激減しています」


 なんででしょう、犯罪率の低下は素直に喜べません。

 それ、某新世界の神的な扱いですよね?

 あと下水道の清掃とか、帝都近くの山の土砂崩れ予防とかって、誰にも言わずにこっそりやったはずなのに、どうして広まっているのでしょうか……?


 まぁそれは置いておくとして、私は自分の発明品の性能を考えて、どういう風に活用するのが最も私に利益をもたらすか、考えを巡らせます。

 単純にお金儲けしようと思えば、それもできるでしょう。しかし、敢えてここでお金を稼ぎに行かないということも、長期的に見れば莫大な利益を生んでくれそうな気もします。

 それはクルセア司教も同感のようで、今は私のイメージアップを優先すべきという考えみたいです。


「今回はこれを無償で提供する形をとって、より多くの人に使ってもらうことを目的にするのがいいかな~。もしもこの魔導具が普及してみんなの生活に欠かせない必需品になったら、それを支配してるセフィリア様にはもう誰も逆らえなくなるしね~」


 何気に私が想定していた理由よりも腹黒いような気がしますが……ま、まぁいいでしょう。

 綺麗ごとだけじゃ。世の中は渡っていけないのです。


 私が「それじゃあ……」と自身の発明品を公表する方向性で話をまとめようとすると、クルセア司教が今日一番のイイ笑顔で口を挟んできました。


「でも、ただ発表するだけじゃインパクトが弱いよね~」

「……え?」


 クルセア司教がそう言うと同時に、アルルさんが私の目の前に姿見を設置します。

 どこからどう見ても女児にしか見えない姿に私が面食らうのも構わず、司教は相変わらずのぽわぽわした笑みを深めました。


「それじゃあセフィリア様に、素敵なテクニックをご教授するね~」


 そんな軽い感じのノリで、帝国騎士修道会トップの司教による、特別授業が開催されたのです。


 そしてその内容とは、私にとってはある意味で魔法に次ぐ得意分野である……

 “外見を利用した人心掌握術”でした。



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