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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第二章 【帝都ベオラント】
68/284

1歳2ヶ月 6



 帝都ベオラントは街並みも美しくて、文明レベルにしては下水道の整備などもされており清潔です。

 聞くところによると、先々代の皇帝陛下の代から環境面・衛生面に関する施策は積極的に行われていたらしく、おかげでこれまで疫病などが蔓延したこともないそうです。


 しかしながら、私は初めて訪れてみた帝都の南端で驚愕することになります。

 帝都にはいくつかの川が流れ込んでいますが、そのどれもが北を上流としています。

 そのため、下水用に整備されている川の下流では、上流から流れてきて蓄積したゴミなどの汚物が大量に流れることになります。

 必然的に、帝都南端の下水道からは悪臭が立ち込め、長年の蓄積により下水道の表面には、見ているだけで気分が悪くなるようなドス黒いなにかがべったりとこびり付いていました。


 下層階級の帝都民や、各家々で立場の低い使用人たちが駆り出されて下水道の清掃に取り組むこともあるそうですが……

 まぁ普通に考えて、そこまで真面目に取り組むはずもありませんよね。貴族は絶対に下水道なんて見やしませんし。


 ……とまぁ、そんな理由がありまして、わざわざ私がお掃除に出向いてあげたわけです。


 私はこれで結構潔癖のきらいがありまして、間違えても汚物に直接触れるだなんてことは絶対に嫌なタイプの人間です。いえ、汚物に触れるのが好きなんて人間は、そうそういないでしょうけども。

 しかし私には魔法があります。直接触れるのが嫌ならば、触れずにすべて処理してしまえばいいだけの話です。


 これは別に、誰かから命令されたからやっているわけではなく、単純にボランティア活動です。

 もしも疫病なんかが流行りでもしようものなら、大惨事も良いところですからね。

 さすがに私の魔法をもってしても、体内のウイルスを除去できるかどうかはわかりません。なので、それらの被害が生じる前に対策を打っておく必要があるのです。


 きっと皇帝陛下も、黒死病(ペスト)などの疫病の恐ろしさを知っているとは思えません。単純に、帝都の清潔を保つことが目的のような口ぶりでしたから。

 幸いというか、生憎というか、この世界で大規模な疫病が蔓延したことはないようです。大昔は知りませんが、少なくとも多方面での深い知識を有しているであろうセルラード宰相に訊いても、そういった事例は聞いたことがないとのこと。


 そう、つまり深刻な疫病の脅威を知っているのは、前世で社会科の授業を受けていた私だけなのです。社会科の木下先生、ありがとうございます!

 前線で戦ったりしない分、こういった縁の下の力持ちとして人族に貢献しようではありませんか。


 私は下水道の上流から侵入すると、まずは私の背後から強風を吹かせる魔法を発動。強烈な下水の匂いを吹き散らします。ついでに照明用の光魔法も発動。

 続いて、『空気』、『水』そして下水道を構成している『岩壁』にそれぞれ名前を付与。

 そして下水道内の『空間』に名前を付与して、さきほど名前を付けた物質以外のすべての物質量にゼロを乗算……つまり、物質量をゼロにして“消滅”させます。


 魔法が発動した直後、下水道にこびり付いていた頑固でしつこい汚れが消滅して、ピカピカに生まれ変わります。まぁ素敵。

 今ならこのダイヤモンドシャープナーも付けて、一万九八〇〇円! 安い!


 そんな一人芝居でモチベーションを保ちながら、私は薄暗い下水道をてくてくと歩いて魔法を連発していきます。

 魔法の効果範囲をうっかり間違えようものなら、下水道が崩落してしまう危険性もあります。きちんと集中して、慎重に領域を切り取り、汚れを次々と消滅させていきました。

 あと、上から降ってくる汚物を被らないようにも注意が必要です。そんなものを食らったら、死にたくなるとかそんなレベルじゃ済まされません。


 下水道は迷路のように地下へ張り巡らされていて、最初は軽い気持ちで始めたものの、次第に気分が滅入ってきました。

 それでも途中からは慣れてきて、移動速度を速める呪文も併用したり、魔法の範囲を大幅に拡大したりしながら清掃活動を続けていると、ようやく前方に光が見えてきました。どうやら出口みたいです。


 多少はやり残しがあるかもしれませんが、特に汚染の酷い南部は重点的にやりましたから、まぁ大丈夫でしょう。

 今日のところはこの辺で勘弁しといてやります。


 私は地下の清掃を終えて、満足げに下水道の出口から脱出します。すると、その出口は見覚えのない人たちに囲まれていました。

 びっくりして彼らの姿をよく観察すると、どうやら中央司令部の南方守護局に所属している騎士の方たちみたいです。

 彼らは私の顔を見ると、とても困惑したような表情を浮かべて話しかけてきました。


「あ、あの……セフィリア卿ですよね? 下水道で、一体何を……?」

「ちょっと、おそうじをしていました」


 私の返答を聞いて、騎士の数人が下水道を覗き込みました。そして、あまりの綺麗さに「えっ!?」と驚愕の声を上げます。

 ふふふ、そうでしょう、そうでしょう。さっきまで上下左右のすべてがヘドロで覆われていた暗黒空間が、ここまでピカピカになっていれば驚くのも仕方ないでしょうとも。

 ……私の服、汚れてないよね? 匂いとかついてたらやだな。レジィに嫌な顔されそう。


 汚れても良いように着ていた安い服の匂いを確かめていると、そんな私に彼らはまた質問をしてきました。


「へ、陛下の御命令なのでしょうか? このような予定は伺っておりませんが」

「わたしが、じぶんでやろうとおもったの。きたなかったから」


 私の答えに、信じられないものを見るような目を向けてくる騎士の皆さん。

 貴族が自ら下水掃除っていうのは、あんまりよろしくなかったでしょうか? まぁ、貴族って言っても窓際族ですけども。


 それにしても、彼らがここで待機していたということは、私が地下で何かやっているのは気づかれていたようです。どうしてでしょう?

 ああ、もしかしてずっと地下で風を吹かせていたから、下水道の出口から悪臭が漂っていたのでしょうか?


 私はまだ何か言いたげな彼らから逃げるように、重量操作魔法『浮き足立ち(ムーンウォーク)』を発動して体重を六分の一にすると、そのまま垂直に飛び上がって、近くの建物の屋根に着地しました。


「このことは、ナイショにしてね」


 一応彼らに口止めはしておきつつ、私はその場を後にしました。

 あとで『汚物処理卿』とか変な異名が付いてたら、さすがにぶっ飛ばしちゃうと思いますからね……。

 

 その後、ついでに帝都から流れ出した川の下流を見に行ってみると、案の定、生ごみとかが蓄積してるみたいだったので、それらも魔法で消滅させておきます。

 ふむふむ、やっぱり魔法は便利ですね。素晴らしいです。

 前世での科学も素晴らしいものでしたが、科学ではできないことっていうのもありますからね。

 逆に、魔法ではできないことなどもあるわけで、その辺りは一長一短でしょうか。


 科学かぁ……電化製品とかがあったら、家事が楽になるのでしょうか。

 あれ? でも今の私なら、電化製品の再現くらい余裕なのでは?


 ハッ……!? 圧倒的お金儲けの予感! きゅぴーん!

 これを事業にして本格的にお金を稼ごうと思ったら、一生お金には困りそうにありませんね。


 まぁ、私の技量をもってすれば、金だろうが宝石だろうが増やしまくれるんですけど。

 ……それをやると魔力的な制約で面倒なことになる上に、法律で禁止されているのでバレたら即死罪ですがね。


 よーし、ちょっと帰りに帝国図書館の禁書室に寄って、また魔法の研究でもしましょうかね……!



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― 新着の感想 ―
[一言] 食物連鎖の法則が乱れる! …ファンタジー世界だからいいのかな?
[一言] 汚物処理卿は笑ったw
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