表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第一章 【アルヒー村】
6/284

0歳7ヶ月 2



「おにーちゃん! ほん、かえして!!」

「うわっ! いきなりなんだよ、おまえ!?」


 私は赤ん坊のフリをするのも半ば忘れて、お兄ちゃんから本を取り返そうと掴みかかりました。


 お兄ちゃんの話が本当で、私の考えが正しければ、あの本は ほぼ間違いなく魔導書!

 だって文字も読めないお父さんが、わざわざ形見として“本”を受け取るなんて、ちょっとおかしいなとは思ってたんです!


 あの本は、お約束とか運命とか補正とか、そういうご都合主義的なパワーが一切味方してくれない私への、神様からの小粋な出生祝いに違いありません!

 絶対にあの本を取り返して、解読してみせます!! 神様ありがとうございます!!


 私は生まれてこの方、ここまで全力を出したことはないというくらい本気でお兄ちゃんに襲いかかりました。

 もうお兄ちゃんを引きずり倒してでも本を奪取せよと、私の全細胞が叫んでいるのです。


 ……しかし悲しいかな、私は生後七ヶ月の乳児。

 五歳児の健康的な男児を相手取るには、あまりに非力でした。


「しつこいぞ!」


 そう言ってお兄ちゃんは、腰にまとわりつく私を強引に突き飛ばしました。

 まだ頭が重くてバランスの取れない乳児である私は、支えを失って後ろにひっくり返ってしまいます。

 しかも後ろにあったデスクの足に背中をぶつけて、その際、頭もゴチンと打ってしまいました。


「あ……」


 お兄ちゃんが漏らした声を遠くに聞きながら、私は床に横たわりました。

 そしてぐわんぐわんと回る脳みそを抑えるように、ぶつけた頭を両手で抱えます。



 ……痛い。



 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!


 頭が割れそうに痛い! 死んじゃいそうなくらい痛い! 血が出てるかもしれない痛い!!


 なんで!? どうしてお兄ちゃんこんなことするの意味わかんないよ痛い痛い痛いよ痛い!!


 お兄ちゃんなんて嫌い要らない酷いお母さんに言いつけてやるみんなに言いつけてやるっ!!


「ひっく……うぐ……ぐすっ……」


 痛みと怒り、それから味方だと思っていた家族にひどい事をされた悲しみと、五歳児に簡単に負かされた情けなさで、涙がどんどん溢れ出してきました。

 乳児として半年以上も過ごしてきたせいで、精神年齢が肉体に引きずられていたのかもしれません。

 私はぶつけた頭を押さえて、床に這いつくばりながら、唇を噛みしめて泣き声をかみ殺すことしかできませんでした。


「うぅぅ、うぇぇええええええん……!!」


 けれどもその我慢もすぐに限界が来て、堪えきれずに泣き声まであげてしまいます。

 みっともないと頭ではわかっているのに、どうしても抑えきれませんでした。


「うっ……お、おまえがわるいんだぞ! まどーしさまになんて、なろうとするからっ……」


 そんな声が頭上から降ってきたかと思えば、バタバタと走り去る足音がそれに続きました。


 お兄ちゃんが部屋から飛び出してすぐに、私の泣き声を聞きつけたお母さんが駆けつけてくれました。

 痛みと、いろんな感情がぐちゃぐちゃになってパニックになっていた私は、それからしばらくお母さんの胸に縋りついて泣き続けました。



 ……お兄ちゃんが村からいなくなったことが発覚したのは、それから三〇分ほどが経ってからでした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ