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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第二章 【帝都ベオラント】
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1歳1ヶ月 4 ―――サルフェ村



「あっ!」


 景色がとてつもない速度で後方へと流れていく中、私はネルヴィアさんの腕に抱かれながら前方を指さしました。


「おねーちゃん、『サルフェむら』ってあれかなぁ?」

「そうですね、おそらくそうだと思います」


 私の家の使用人にしばらく留守にすると伝えてから、帝都を飛び出して一時間ほどが経っています。

 地図を念入りに確認しつつ、時々空高く飛び上がっては地形を確認したりしながら走ったり飛んだりしているうちに、やがてそれっぽい小さな村が見えました。


「……ほ、本当に一時間ほどで着いてしまいましたね……さすがはセフィ様です」


 いつも私の村までの往復は私一人で行っているので、ネルヴィアさんが私の移動魔法を体験するのは今日が初めてです。

 普段より操作する体重も、起こす風の範囲も、移動距離も、すべての負担が大きかったので、正直それなりに疲労してしまいました。

 まぁ、それでもボズラーさんを吹き飛ばすくらいなら、あと十回は楽勝ですけど。


 私は中和魔法を発動しながら速度を殺し、着地と同時に魔法を解除して一息つきました。

 いやぁ、魔法を発動状態にし続けられる“状態継続文”を使うようになってから、すごく便利で助かっています。

 おかげで何度も何度も魔法を発動しなくて済みますし、それに『条件式』が設定できるのが特に素晴らしいです。

 条件式……つまり、『条件Aを満たしている場合、Bを実行する』という文に付随する式のことですね。

 ちなみにこの術式は、どうにかして私の村と帝都を簡単に往復できる手段はないものかと、禁書室に篭って死に物狂いで研究をしまくった末の「愛の成果物」です。そう、愛は偉大なのです。


 これまで移動魔法で二人同時に移動したことはなかったので、保険として硬度を操る魔法も準備していたのですが……杞憂でしたね。

 まぁ、いつ獣人に襲われるかわからないので、こっちはかけっぱなしでもいいでしょう。条件文によって、私の右手の親指と小指をくっつけた時にしか発動しないようになってますし。


「んー、みたかんじ、むらは ぶじみたいだね?」

「はい。食糧庫を荒らされている気配もありませんし、獣除けの防柵も綺麗なものです」

「いちおう、ちょっとようすをみていこっか。おねーちゃん、いい?」

「もちろんです!」


 ネルヴィアさんは元気に返事をすると、私を抱えたまま村の方まで歩きだしました。

 そして村の入り口っぽいところまで行くと、ちょうどそこで村から出てきた村人Aに遭遇します。


「ん……? あれ、誰だアンタ?」


 それは、あどけない表情をした少年でした。

 帽子から覗く短い髪は赤茶色で、同色の瞳はクリッとしていて可愛らしい印象。背はネルヴィアさんよりも頭一つほど低く、長袖に半ズボン、腰には上着を巻いた格好です。

 その小さな村人はポケットに手を突っ込みながら、突然村を訪れた私たちに怪訝な表情を向けてきます。


 そして急にそんな少年と遭遇したネルヴィアさんはと言うと、


「えっと、あぅ、あの……わ、私、ネル、ィァ……」


 めちゃくちゃテンパっていました。


 ネルヴィアさん、あなた、こんな子供相手にも人見知りするんですか!?

 そんなネルヴィアさんの様子を見た少年は、ますます不審そうに目を細めながらも、律儀に聞き返してきます。


「え、なに? 聞こえないんだけど」

「うあっ、ご、ごめ、なさぃ……! あ、その……えっと……」


 ネルヴィアさんは顔を真っ赤にしながら目をぐるぐるさせて、もう半泣きになっていました。


 ……ああ、そういえばネルヴィアさん、乳幼児(わたし)との初対面でもパニクってましたっけ。

 あの時は帝都を追い出されて心が弱っていたせいだということで納得しましたが、そもそもが人見知りだったのですね。

 思えば、ネルヴィアさんが私たちや彼女の家族以外でまともに喋ってるところって、あんまり見たことないような気がします。


 そして私たちが村の入り口でそんなやり取りをしていると、それに気が付いたらしい数人の大人たちがこちらへと近づいてきました。

 当然、子供一人でこんな有様だったネルヴィアさんは、もう可哀想なくらいにパニクり倒してしまいます。


 ……うーん、本当だったら、無駄に彼らを驚かせることもないだろうと思って黙っているつもりだったのですが……

 あんまりネルヴィアさんの負担になるようなことはさせたくありませんし、仕方ないですね。

 私はネルヴィアさんに黙って抱かれているのはやめて、営業スマイルを浮かべながら口を開きました。


「はじめまして。われわれは、ていとベオラントよりまいりました。わたしはセフィリア、こちらはネルヴィアともうします」


 私がそんな風に自己紹介をすると、さっきの少年や、後から現れた大人たちは目を丸くしてポカンと呆けてしまいました。

 ……うん、まぁそうなりますよね。


 私はネルヴィアさんの頬に手を触れて「おちついて、おねーちゃん」と優しく呼びかけます。

 すると彼女はハッと我に返って、「も、申し訳ありませんセフィ様……!」と頬を染めました。うん、かわいいから許しちゃうよ。


 私たちがそんなやり取りをしていると、続々と集まってきた村人たちが囁き合う声が聞こえてきます。


「セフィリア……って、もしかして……!?」

「あ、ああ……あんなに流暢に喋る赤ん坊なんて、他にはいないだろう」

「白金色の髪だし、羽織ってるマントに帝国魔術師の紋章が……じゃあ噂は本当だったの……?」

「癇に障った者は、部屋中が血に染まるほど残虐に処刑するっていう、地獄の魔術師……!」

「……御前試合では、すでに戦えなくなった試合相手に『湖割りの刑』を執行したらしいぞ」

「どうして血染めの逆鱗卿が、こんな村に……!?」


 ちょ、ちょっと待ってー!?


 え、何? 何なのそれは? みんな、ストップストップ!

 おかしい! 噂の悪化が留まるところを知らない!! どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!

 なんかすでに処刑の相手が盗賊ですらなくなってるし! それはもう魔王と呼ばれる者の所業なのでは!?


 あと、『湖割りの刑』って何!? もしかして、ボズラーさんを湖の反対側まで吹っ飛ばしたアレのことですか!?

 帝都の皆さんもアレは死体蹴り(オーバーキル)だと思ってるみたいですけど、最後の風魔法はボズラーさんを助けたんですからね!? 皇帝陛下でさえも信じてくれなかったけどもっ!!


 ……ま、まぁたしかに、咄嗟のことだったのと怒りで、若干威力を間違えたことは認めますけれど。

 でも結果としては、中途半端に飛ばして湖に沈むよりかは、向う岸までたどり着いた方が安全だったと思いませんか? 思いませんか。はい。


 私はもうすでに全力で帰りたくなってきましたが、しかしそこは理性でグッとこらえました。

 私、えらい。私、大人だもん。


 とりあえず、この村がまだ獣人に襲われていないということはよくわかりました。

 なので、今後そういった危機が迫っているということを彼らに通告して周知させておくのと、その危機の予防に向けた情報収集のために、私はもう少しだけこの村に留まって話を聞いてみることにします。


 そういうわけだから、皆さん、そんなに怯えないで? 私、怖くないよ?

 みんな私の趣味が「処刑」だと思ってるみたいだけど、誤解なんだよ?



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