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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第二章 【帝都ベオラント】
54/284

1歳1ヶ月 3



 私はベオラント城を後にすると、城門で待っていてくれたネルヴィアさんとすぐに合流しました。


「お疲れ様です、セフィ様」

「うん、ありがとう。ごめんね、ちょっと“ていこくとしょかん”によってくよ」

「はい、お供いたします!」


 私はネルヴィアさんに抱えられると、彼女の首に腕を回しました。

 金属よりも光沢のある彼女の金髪が、ちょっぴりくすぐったいです。

 でも、すごく良い匂いです。おかしいなぁ、お風呂は一緒に入ってるのに……


 帝国図書館へと運ばれていく道中に、私は上等会議で話された内容を彼女にも説明します。

 すべてを説明し終えた時、ネルヴィアさんは少しだけ顔色を悪くさせていました。


「獣人ですか。それは大変な敵ですね」

「やっぱり、そうなんだ?」

「はい。一対一で、かつ広い場所でなら勝てるでしょうが、そんな好条件で戦える状況はないでしょうし、厳しい戦いを強いられるはずです」


 一対一で勝てるのはネルヴィアさんだけだからね? 普通は五対一くらいでやっとだよ?

 あれ、じゃあネルヴィアさんの戦闘強度って、五人級以上? やべぇ。


 その後 帝国図書館に着いた私たちは、すぐに帝都付近の詳細な地図を探し出して、テーブルに広げました。


「ていとがここだから……ひがいのあったばしょは、ここと、ここと、ここだね。わたしのむらは、ここ」

「確かに、帝都へ近づいてきているようにも見えます。アルヒ―村は、延長線上からは外れているのですね」

「うん。でも、わたしのむらはこっちだけど、あんしんはできないよ」

「帝都への襲撃が目的でなかった場合、こっち側に軌道が逸れていくことも考えられますからね」


 私の村は、位置的にそこまで危険ではないはずです。

 しかし、この被害報告は被害のあった村からの報告や、調査隊による調査をまとめたもの。つまり、最新の情報ではありません。

 地図の縮尺を見るに、最も帝都に近い被害地でも馬車で五日以上はかかりそうな距離なので、早馬を走らせても二日三日はかかると見ていいでしょう。

 それに、もし獣人に襲撃されたとしても、馬や連絡鳩を殺されれば帝都まで情報は上がってきませんしね。

 つまり現状は、どうなっているかわからないと言う他ありません。


「つぎは、このむらがあぶないとおもう」

「『サルフェ村』ですか。確かに、被害地の延長線上にありますからね。しかしそれでしたら、帝都も兵を送っているのではないでしょうか?」

「なんにんくらい?」


 私の問いに、ネルヴィアさんがハッとしたような表情を浮かべます。

 獣人は平均で五人級。目撃情報によると獣人は十数匹ほどの集団らしいですから、ざっと見積もっても八十人近い部隊を送り込まなければ勝負になりません。

 敵が総力戦を仕掛けてくると想定して、かつ夜戦を視野に入れるのなら、百五十は欲しいところです。

 ……現実的に考えて、帝都の守りを疎かにしてまで、周辺の村々全てにそれだけの兵を配置するのはリスキーでしょう。


 そもそもこれだけの兵士が殺到して、食料や寝床はどうするのかといった問題もありますしね。

 しかし数が少なければ焼け石に水なわけで、なら調査兵を送る程度が関の山だと思います。


 と、そこまで説明したところで、ネルヴィアさんは瞳を輝かせて私の顔をまじまじと見つめだしました。


「もしかして、セフィ様。被害地の確認をしているということは……」

「うん、まぁ……ちょっと、みてくるつもり」

「さすがは勇者様です、セフィ様ぁ!」

「いや、ゆうしゃじゃないけどね!?」


 私が先手を打って獣人を探すのは、このままだと面倒な仕事を押し付けられて、働かされそうだからだもん。他意はないもん。

 べ、べつに、みんなのために戦うわけじゃ、ないんだからねっ!


 するとネルヴィアさんは舞い上がった表情から一転して、何やらもじもじし始めました。


「あの、セフィ様……もし、よろしければなのですが……相手は獣人で、何があるかわからないので……」

「うん。こんかいは、おねーちゃんにもきてもらうからね」


 私があっさりそう言うと、ネルヴィアさんはポカンと口を大きく開けてフリーズした後、「え……良いのですか?」と放心気味に呟きました。

 私は魔法で地図を縮小コピーして、本物の地図を図書館の本棚へとしまいながら、


「わたしだけじゃ、こまることもあるかもしれないしね。それに……」

「そ、それに?」

「おねーちゃんは、わたしの“きしさま”でしょ? だから、わたしをまもっていいのは、おねーちゃんだけなんだよ」


 そう言って私が笑いかけると、ネルヴィアさんは顔を真っ赤にしながらわなわなと震え出します。

 そしてとてもトロけきっただらしない表情を浮かべながら、目にもとまらぬ速さで私を抱きしめました。


「セフィ様ぁぁぁああああああっ!! ご安心を!! このネルヴィア・ルナヴェントがいる限り! セフィ様に楯突く不逞の輩は一人残らず剣の錆にしてみせますっ!!」


 う、うん。そこまではしなくていいよ?

 あと、図書館ではお静かにね? さっきから司書さんの目線が超痛いんだよ? 気づいてる?


 私はネルヴィアさんの頭を撫でて「どうどう」と落ち着かせてあげながら、地図へと視線を這わせます。


 ……とりあえず、まずはこの『サルフェ村』の様子を見に行ってみようかな。



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