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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第二章 【帝都ベオラント】
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1歳1ヶ月 1 ―――帝国軍中央司令部魔術幕僚長セフィリア



 先日、私はついに生後一年を迎えました。

 それに伴い授乳期間が終了したため、お母さんのおっぱいからも卒業です。

 早くいろんな食べ物を食べてみたいと思い、この日が待ち遠しかったはずなのに……いざ終わってみれば、どこか名残惜しい気もするから不思議です。


 お母さんは「いつでも吸っていいのよ……? 吸っていいのよ……!?」とか言ってくれてましたけどね。

 とりあえず気持ちだけ受け取っておくことにします。


 そんなわけで、私は「魔法乳児」から「魔法幼児」へと進化を果たしたのでした。


 あの御前試合……なぜか通称『ルハー湖の処刑』と呼ばれているらしい一件を経て、私は晴れて帝国軍中央司令部魔術幕僚長という肩書きを賜りました。

 陛下から『必要以上な威力の魔法を禁ずる』を言い渡されていたので、反則負けとかになるまいかと冷や冷やしたものですが……

 しかしあれだけ圧倒的に吹っ飛ばしておいて負けとするのは、よろしくないという判断だったのでしょうか。一応、風の魔法でしたしね。

 というわけで、私は約束通り帝都防衛の要職に就けてもらえたというわけです。


 聞けば幕僚(ばくりょう)というのは、参謀に近い立ち位置で司令官を補佐する役職らしいです。

 つまり帝都を防衛するため、魔法に特化した参謀としての立場を任されたわけですね。

 ……まぁ、魔術幕僚なんて役職は私のためだけに創設されたらしいので、現状は私一人しかいないようです。なので、幕僚長なんて肩書きはお飾りも良いとこですけどね。


 ですが幕僚長クラスの軍人は中央司令部上等会議へ出席しなければならないらしいので、今からすでに気が重いのですが……

 魔術幕僚長というのは、実質階級や表向きの権限は特務曹長相当、つまり軍隊の中では中の下か、あるいは下の上くらいに設定されているらしいです。

 なので普通に見れば、貴族軍人集団である魔術師団の皆さんより立場は下のはずなのですが……

 けれども特別階級章を与えられているため、一部の権限が騎士団長や魔導師団長にも匹敵しているそうです。なにそれ怖い。


 まぁ、そのおかげで帝国図書館の禁書室にほとんど顔パスで入れるようになったので、そこだけはとっても素晴らしいと思いました。

 おかげさまで私は日々、様々な魔法の習得に励んでいます。




 そして現在、私は果てしない平原を走っているところでした。




 いえ、走っているというより、跳んでいる? むしろ飛んでいる?

 魔導書から新たに解読した“速度指定子”と、それから相対領域離隔や重量指定子、風魔法を駆使し、たった一歩の踏み込みで五十メートルほどをひとっ飛びします。

 帝都ベオラントと私の村は馬車で三日ほどの距離があるのですが、それを私は毎日三十分で走破しています。

 普通に魔法で飛んでも自動車くらいの速度は出るのですが、そこへ速度指定子で五倍速くらいに設定しているので、さながら新幹線みたいな速さでした。


 赤ん坊が時速何百キロで走る光景……うーん、なかなかにシュールです。


「……あ」


 そんなことを考えていると、地平線の辺りに見覚えのある外壁とお城が見えました。

 ようやく帝都に戻ってこられたみたいです。


 私は帝都防衛の要職を任されているため、帝都から長期間離れることはできません。

 かといって、いつまでもお母さんやお兄ちゃんを帝都で過ごさせるのも可哀想ですし、どうせなら村のみんなと過ごす方が二人にとっても良いでしょう。

 でも、私は二人と離れたくない。

 お母さんも私と離れたくない。

 お兄ちゃんも私と離れたくない……のかな? いや、離れたくないはず! 確実!

 しかし帝都と村の間には、“馬車で三日の距離”が横たわっていました。


 そこで私は悩んだ末に、ある結論に至ったのです。


 『じゃあ、私が超速く走って毎日往復すれば良くね?』


 かくして私は、帝都から村に向けて三十分ほど平野を走り、うちの村のみんなと昼食を食べたりお話したり、ついでに村周辺の魔法罠を増設してから、また三十分かけて帝都まで走って戻るというスケジュールを過ごしているのです。


 あ、ちゃんと司令部の皆さんからの許可は得ているので大丈夫ですよ?

 なぜか私が「お母さん」とか「お兄ちゃん」に関することをお願いすると、大抵は快く聞き入れてもらえるので、皆さんとっても優しいです。

 でも、どうしてそんなに青い顔をして震えているのですか……?


 私は目前まで近づいてきた帝都へ超特急で迫ると、勢いそのままに風魔法で一際高くジャンプして、帝都の周囲を覆っている巨大な防壁のてっぺんに軽々と着地します。

 これはもはや いつもの光景なので、帝都外周壁に詰めている警備兵さんたちは死んだ目をして見逃してくれます。

 ……だって、いちいち帝都から出入りするたびに申請とか記帳とかするのめんどくさいんですもん。

 ごめんね、警備兵さん。あとで差し入れするから許してね。


 私は外周壁からさらに跳躍。賑わう帝都の街並みを空から見下ろしながら、何か変な事が起こっていないかをざっと確認しつつ、そのまま吸い込まれるようにして、陛下から賜った邸宅のテラスへと着地します。

 それと同時にすべての魔法を解除すると、減らしていた体重が元に戻り、途端に身体がぐっと重くなりました。それはちょうど、プールで泳いだ後に地上へ出た時のような感覚に似ています。


 体の重みを感じながら私がマジカル☆帰宅を果たすと、すぐに室内からネルヴィアさんが出迎えてくれました。


「セフィ様! お帰りなさいませ!」

「うん! ただいま、おねーちゃん」


 ネルヴィアさんはすぐに私を抱きかかえると、とても上機嫌になります。

 そしてテラスから寝室に入ると、そのままベッドへ直行しました。


 さすがに一時間も魔法を使い続けると少し疲れるので、私は帰ってすぐに十五分ほどの仮眠を取るようにしています。

 聞くところによると、普通の魔術師が私と同じことをやろうとしたら、城から走り出して十分で死ぬらしいので、魔力の消費はそれなりのようです。


 魔力消耗による程よい脳の痺れを感じつつ、私はネルヴィアさんに抱かれながら目を閉じました。

 ああ、良い匂いだなぁ。柔らかいなぁ。優しい手つきだなぁ。

 このままずっと眠っていられたら幸せなのですが……現実はそうもいきません。


 その後、私が目を覚ましてからしばらくすると、連絡兵が私の屋敷を訪ねてきて、中央司令部上等会議が緊急招集されたことを知らせてくれました。

 緊急招集ですって……?


 ……なにか、良くないことがあったようですね。



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― 新着の感想 ―
[一言] 年の方は満なのに、月は数えなのね
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