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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第二章 【帝都ベオラント】
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0歳12ヶ月 10 ―――御前試合、開始



 帝都、ベオランド城には美しい庭園があり、その向こうにはルハー湖という湖が広がっています。

 晴れた日のルハー湖は鏡のように風景を映し出し、湖の向こうに建てられた小さな休憩所に座って眺めれば、上下に向かい合った二つのベオラント城を望むことができるそうです。


 そんな豆知識を教えてくれたルルーさんは少し前に私の元を離れると、ボズラーさんに何事かを耳打ちしてから、ヴェルハザード皇帝陛下のおわす天覧席の傍らへ向かっていきました。

 すでに観客たちは闘技場の左右を埋め尽くすようにひしめいており、思っていた以上の注目度に私は圧倒されてしまいます。


 湖の傍らに製作された特設闘技場は、簡単に言えば、学校のプールを大きくしたものに、四角い足場を二つ浮かべたような感じです。

 幅は二十メートルほど、長さは三十数メートルくらいの、だいたい体育館くらいの広さでしょうか。

 そこに四方約五メートルの足場が浮かんでおり、互いの足場の間には十五メートルほどの距離がありました。

 闘技場全体には水深一メートルほどの水が張られていて、どうやらこの水は、闘技場に接しているルハー湖から直接流れ込んでいるみたいです。

 聞くところによると、この闘技場を作ったのはマグカルオさんとのこと。意外に器用なんですね、あのオシャレ仁王像。


 ちなみに私側にある足場の後方にはベオラント城が、ボズラーさん側の後方にはルハー湖が広がっています。

 ……私の魔法が信用ならないから、城の方向に撃たせたくなかったとかじゃないですよね……?


「よくぞ逃げ出さずに来たものだな!!」


 早くも闘技場の足場へと移動しているゴズラーさんが、全身ずぶ濡れで大きな声を出しています。

 ……あなた、水深一メートルだからって、わざわざ歩いてそこまで行ったんですか……?


「さぁ、早く闘技場へと上がってくるがいい! もっとも、恐れを為したと言うなら、逃げ帰っても良いがな!!」


 左右の観客席―――と言っても、岩で作られた段差に椅子が設置してあるだけですが―――にはたくさんの観客が詰め寄せています。

 ゴズラーさんのテンションがやけに高いのは、衆人環視の状況で興奮しているためでしょうか。それとも、御前試合を盛り上げようというサービス精神かもしれません。


 私はどうやって足場までたどり着こうかと少し考えてから、ちょっとしたサービス精神を発揮してみることにしました。




ฎธๅ 冷脚水╞ ข๏ฎค ╡

ฉßญ๏ำษๅ€ ฎธๅ ¢๏ำค╞ ₀ͺ ó₀ͺ ∸ο₀ͺ ó₀ͺ Î₀₀₀ͺ ÎÎ₀ ╡Ƃ

¢๏ำค•ๅ€๓ฦ ฿ ¢๏ำค•ๅ€๓ฦ ∸ σ₀Ƃ

โ€ๅษโธ ¢๏ำคƂ


整数制御魔法「冷脚水」╞ 受け取る値は無し ╡

我が身より横軸0、縦軸30、高度軸-160の地点を基準として、

横幅30、縦幅1000、高度幅110を満たす領域に整数値と「¢๏ำค」という名を与えよ。

¢๏ำคの温度メンバに整数値50を減算し、その値を¢๏ำคの温度メンバへと代入せよ。

処理後の¢๏ำคを返却せよ。




「『冷脚水(アイスカーペット)』」


 私の頭の中心部を絶対地点として空間座標を指定。

 さらにその空間座標を基点として、立方体上の空間を作成。

 そして、その空間全体へと魔術的な数値操作を行う。


 これが、ルルーさんとの修行で身につけた新たな方式の一つ、『絶対領域離隔』です。


 私の思い描いた通り、闘技場を満たしていた水へと一直線にカーペットでも敷くかのように、真っ白に凍結された『道』が作られました。

 わざわざ濡れるのも泳ぐのもイヤですしね。こうやって水を凍らせて、その上を悠々と歩かせてもらいましょう。


 私の魔法に、観客席から「おおーっ!!」みたいな歓声とどよめきが広がります。

 「あんな赤ん坊が、本当に魔法を……!」とか、「あれだけの魔法を呪文無しで簡単に……!?」とか、「あ、あれが鮮血の処刑人……」とか、そういった声も聞こえてきました。

 おい、最後の奴はあとで私のところに来なさい。怒らないから。


 私がちょっと注目を集めてしまったせいで、ずぶ濡れのボズラーさんが「ぐぬぬ……!」みたいな顔でこちらを睨んでいます。

 そんなに睨むくらいなら、自分も風魔法で飛べばよかったのに。

 まぁ、試合に向けて、ちょっとでも魔力を節約したかったのかもしれませんが。


 私は氷の道を歩き終えて足場までたどり着くと、すぐに魔法で氷を()かして、それからボズラーさんに向き直ります。


「おてやわらかに、おねがいしますね」

「……保証しかねるぜ」


 先ほどまでのパフォーマンスじみた態度はどこへやら、ボズラーさんは瞳の奥で静かに闘志を燃やしているのが見て取れます。

 今の私の魔法を見て、油断とか侮りの気持ちが吹き飛んでしまったのだとしたら、ちょっと失策だったでしょうか。

 ……これは、もしかしたら激しい戦いになるかもですね。


 思えば私は、冷静な状況での戦闘というのは初めてです。

 というよりも、以前の戦闘だって一方的に攻撃するだけのワンマンゲームでしたから、戦いと言えるかどうかも怪しいものです。

 今更ながらに、ちょっと緊張してきました……だ、大丈夫かなぁ。

 お母さんやお兄ちゃん、ネルヴィアさんには試合を見に来ないようにお願いしてるので、多少無様な戦いを演じてもべつに構いやしないと言えば構いやしないのですが。


 私がネガティブな思考にとらわれ始めていると、天覧席からこちらを見下ろす皇帝陛下が、聞く者の背筋を伸ばさせるような迫力溢れる声を張り上げました。


「セフィリア。ボズラー。互いに、準備は良いか」


 陛下の問いに、ボズラーさんは気合十分と言った様子で「はい!!」と元気よく返事をしました。

 私は少し戦いに対して消極的な気分だったので、「は、はい」とやや元気のない返事になってしまいましたが。


 私たちの返事を聞いた陛下は神妙に一つ頷くと、スッと右手を天高く掲げました。


「それではこれより、セフィリアと、ボズラー・トロンスターの試合を執り行う」


 先ほどまでざわざわと騒がしかった観客席も静まり返り、辺りを風の音だけが支配します。

 そして、掲げられた陛下の腕が勢いよく振り下ろされました。


「始めッ!!」



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