0歳12ヶ月 8
お母さんの病室に着くと、案の定 お兄ちゃんもお見舞いに来ていたようです。
お母さんはすっかり元気そうで、もうだいぶ背中の傷も癒えてきたらしいです。
お母さんの大好きなお兄ちゃんが毎日お見舞いに来てくれれば、そりゃ傷も治るってもんですよね。
しかし私の顔を見るなり、お母さんの溌剌とした表情は暗く沈んでしまいました。
別にケンカをしているとか、そういったわけではありません。……ルルーさんの母乳の件でひと悶着あったにはありましたが、それもすでに解決した過去のことです。
ではなぜお母さんがそんな表情を浮かべるのかといえば……それはやはり、明日にまで迫った御前試合の件が心配なのでしょう。
いくら怪我をしないように万全の体制を整えたって、魔法を直接叩きつけ合う戦いなのです。決して安全とは言い切れません、
私もお母さんの立場だったら、我が子の身が心配でしょうがないでしょう。
私はネルヴィアさんの腕の中から、お母さんのベッドに降ろしてもらいます。
ベッドに横たわっていたお母さんは寝返りを打つようにして私に身体を向けると、そのまま私へ腕を伸ばして抱きしめました。
「セフィ……お願いだから、くれぐれも危ないことはしないで。本当なら、御前試合にだって出てほしくはないんだけど……」
「でも……へいかの、ごめいれいだから」
「本当は、違うでしょう? セフィも御前試合に出たいって思ってるんじゃない?」
「!」
私は急に図星を突かれたことで驚いて、言葉に詰まってしまいました。
雄弁な肯定となってしまった私の反応を見て、お母さんは「やっぱり」と儚げに苦笑します。
「セフィが何か企んでる時の顔なんて、すぐにわかるわ。だって、あなたのお母さんだもの」
「あ……えっと……」
「セフィは意味もなく私に心配をかけるような子じゃないものね。きっと御前試合に出ると、良いことがあるんでしょう?」
私の白金色の髪を優しく撫でるお母さんが、何もかも御見通しといった目で笑います。
まるで中学生のような彼女の体には、けれども“母親”としての大きな器が宿っているようです。
侮っていたわけではありませんが、それでも、子供のことをここまで深く理解していたという事実に、驚きと、そしてそれ以上に嬉しさを感じました。
「……ふふ。さすがは、おかーさん。わたしとおにーちゃんのおかーさんなだけはあるね」
「これくらい当然よ? あなたたちのことなら、ホクロの数だって知ってるわ」
いや、それはちょっと気持ち悪いかな……
私はお母さんの首に腕を回すと、お母さんのほっぺたに私のほっぺたをくっつけるように抱き付いて、
「おかーさん、だいすき」
「知ってるわ。でも、私の方がもっと大好きってことも知っておいてね?」
どうやら魔法が使えても、お母さんには敵わないようです。




