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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第二章 【帝都ベオラント】
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0歳12ヶ月 4 ―――ダメ男製造機



 翌日。

 私は……いいえ、私たちは、ルルーさんのスペックを侮っていたことを思い知らされました。


「す、すげー、うまい……」

「こ、こんな美味しい料理、初めて食べました……」


 場所は私の借りている宿屋の一室。

 フリルエプロンを装備して、キッチンミトンをちっちゃな手に嵌めたルルーさんが運んできた料理は、どれもありえないくらいに美味しそうでした。

 というより、キッチンでルルーさんが料理している時点ですごく美味しそうな匂いが漂ってきていて、料理を見るまでもなく美味しいというのはわかっていたのですが。


 なぜ天下の魔導師様が、うちのキッチンで料理をしてくれているのか……

 それは、遡ること一時間前―――


 お昼前に私たちの宿を訪れたルルーさんは、何気ない日常会話の中で「食事はどうしてるの?」といったことを訊いてきました。

 そこで私たちは当たり前のように、「その辺りの安いお店で食べてます」と答えます。いえ、私はまだお母さんのおっぱいを吸ってるんですけどね。

 うちの宿屋は一応頼めば食事を出してくれるのですが、外で食べたほうが安い上に、あまり美味しくないんだそうです。

 なので、お兄ちゃんとネルヴィアさんはすっかり外食三昧になってしまっているのです。


 それを聞いたルルーさんは、ネルヴィアさんに「じゃあアンタが作ればいいじゃない」と言い出したのですが、残念ながらネルヴィアさんは料理が全くできません。

 幼少の頃から剣の修行に明け暮れていたネルヴィアさんは、花嫁修業っぽいことなんて一切やらせてもらえず、胸部や性格以外の女子力が残念なことになっているのです。


 ルルーさんは私たちのご飯事情を聞くと、深々と溜息を漏らして肩を落としました。

 そして「ちょっと待ってなさい!!」と言って部屋を出て行ってから、三十分後。

 お料理セットと材料を手にしたルルーさんが帰ってきて、現在に至るわけです。


「あのね、ログナくんも、ネルヴィアも、ちゃんと栄養を取って丈夫な身体を作らなきゃいけない時期でしょ? 外食ばかりで栄養の偏った食事をしていちゃ、ダメなの。わかった?」


 なんだか田舎から様子を見に来てくれたお母さんみたいなことを言いながら、どんどん二人のお皿に料理を取り分けてくれるルルーさん。

 料理を美味しいと褒められてもまったく表情を変えないどころか不愉快そうですらある彼女は、自分の料理に手をつけようとはしませんでした。


 私はそんなすごく良い匂いのする料理たちを見て、「ぐぅぅ~」とお腹を鳴らしてしまいます。

 あと一ヶ月ほどの我慢だと自分に言い聞かせて空腹に耐えていると、不意に私は、ルルーさんによって体を持ち上げられました。

 そして彼女の膝の上に乗せられると、ルルーさんはおもむろにロリータ服の首元のリボンをしゅるりと外して、それから胸元を大きく開くと、そのまま片側のおっぱいを露出させました。


 何をしているのか理解が追い付かない私たちを置いてけぼりに、ルルーさんは当たり前みたいな表情で、私の顔におっぱいを近づけます。って、あれ? こんなに大きかったでしたっけ? 昨日抱っこされたときは、全然……


「はい、どうぞ」

「え? な、なにを……ええっ?」

「おなか、すいてるんでしょ? 母体が病院食ばかりの母乳は栄養も足りてなさそうだしね。だから、はい」


 え? これは、何の冗談なんですか? いつぞやのペリアちゃんのような、おままごと?

 私は助けを求めるようにお兄ちゃんとネルヴィアさんに視線を送りましたが、二人ともポカンとしていて、助けは望むべくもない様子です。

 見るからに小学生といった体躯のルルーさんの、真っ白な肌と桜色の先端が、私の顔のすぐ近くにありました。

 ルルーさんの表情を窺うと、彼女はいつもの不機嫌そうな表情ではなく、とても優しい笑みを浮かべて、私の頭を撫でていました。


 ……もうこれは、吸わないと先に進まない感じでしょうか。


 私は覚悟を決めて、見た目小学生の少女のおっぱいに吸い付きました。


「―――っ!?」


 そして驚きのあまり急いで顔を離すと、私は何食わぬ顔をしているルルーさんに大慌てで詰め寄りました。


「なっ、なんででる(・・)んですか!?」

「出るようにしたからよ」


 で、出るようにした……?

 私が混乱していると、ルルーさんは私の耳元でそっと囁くようにして、


「昨日、私の魔法を知りたいって言ってたでしょう? 特別よ」


 おっぱいを大きくしたり、母乳が出るようにすることがルルーさんの魔法?

 いえ、違う……きっと彼女の魔法の本質は―――


 大体何をやっているのかは想像できるものの、何の数値をどうやってイジってるのかまではさっぱりわかりません。

 さ、さすがは魔導師様……この子、デタラメですね……


「ほら、アンタは同年代の赤ん坊と比べても見るからに体が小さいんだから、ちゃんと栄養を取りなさい」


 ルルーさんはそう言って、私の唇におっぱいを押し当ててきます。

 それからゆっくりと私の身体が揺すられて、心地良いリズムで背中をぽんぽんと叩かれると、まるで本当にお母さんに抱かれているみたいな気持ちになってきました。


 いつも不愉快そうな目で私を見ていて、きっと私のことなんて嫌いなはずなのに……どうしてこんなに世話を焼いてくれるのでしょうか……?


 ふと見れば、お兄ちゃんは夢中になってルルーさんのご飯にがっついていて、たくさん量があったはずのお皿はあっという間にその量を減らしていました。

 ああ、お兄ちゃんの胃袋が掴まれちゃった……


 私を含めた三人の食事が終わると、テーブルの上の料理は綺麗さっぱり無くなっていました。

 ルルーさんは一口も手を付けていなかったように見えましたが、空っぽになったお皿を見て一瞬だけ微笑むと、着衣の乱れを直してから立ち上がりました。

 そして手早くあっという間にお皿を洗い終えると、


「この宿屋、定期清掃もないのかしら。埃っぽいわ。乳幼児の住む環境じゃないわね。……セフィリア、アンタも貴族になったんだから、もっと良いところに住みなさい?」

「あ、はい……」

「とりあえず今日のところは私が全部掃除してあげるけど……ネルヴィア、これからはアンタも掃除を覚えなさい」


 ルルーさんにそう言われたネルヴィアさんは、「はひゃいっ!?」と飛び上がって、恥ずかしそうに俯きます。


 それからルルーさんは呪文の書かれた紙を何枚か私に手渡すと、「これ、私が掃除してる間に練習でもしてなさい」と言って、本当に室内の掃除を始めてしまいました。

 エプロンと三角巾を装備したルルーさんは手際よく掃除をしていきながら、ネルヴィアさんに整理整頓や汚れを落とすコツなどを教授しているみたいです。


 そしてその日を境に、ルルーさんは魔法の先生としてだけではなく、私たちの生活全般の面倒まで見てくれるようになったのです。


 こ、この子、ネルヴィアさんとは違う意味で、男をダメにするタイプの人だ……!



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