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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第二章 【帝都ベオラント】
41/284

0歳12ヶ月 2



 ルルーさんはイチゴ色の瞳で私たち三人を睥睨(へいげい)すると、「入ってもいいかしら?」と訊ねてきました。

 ネルヴィアさんが青ざめながら私に視線を送ってきたので、私はあわてて「ど、どうぞ……」と力無く答えます。

 魔導師様が私なんかに、一体何の用なのでしょうか……?


 部屋に入るなり、ルルーさんはきょろきょろと室内を見渡し、


「貴族が住む部屋にしては、随分と質素なのね」

「あ、えっと……すみません」

「なに謝ってるのよ。ばかじゃないの」

「その……はい、すみません」


 ルルーさんは私を不愉快そうに見下ろしながら、部屋の扉をそっと閉めます。

 そして扉の横に立ったまま、なぜか黙りこんでしまいました。


 そんなところに居られたら落ち着かないので、私は勇気を出して目の前の公爵閣下による謎の来訪に疑問を投げかけることにしました。


「あの……レーラこうしゃくかっか」

「なによ、その呼び方。きもちわるいわ。ルルーと呼びなさい」

「あ、えっと……ルルーさま」


 無言でルルーさんが睨み付けてきたので、私はビビリ倒しながら「……ルルーさん」と呼びかけてみたところ、ようやく強烈な視線を和らげてくれました。ふぇぇ、この子こわいよぉ……


「それで、ルルーさん……ほんじつは、どのような ごようけんで……?」

「……はぁ? 陛下から何も聞いてないの?」

「え?」

「アンタが御前試合に向けて魔導書を読んで修行するってことだから、私はその教育係を務めることになったのよ」


 不機嫌そうにルルーさんが告げた事実に、私と、それからネルヴィアさんはポカンとしてしまいます。

 ちなみにお兄ちゃんはこのお方が誰なのかがわからず、きょろきょろしていました。


 でも……えっ? いや、だって、ちょっと待ってくださいよ。そ、そんなはずはありません。


「あの、へいかは、もじがよめないわたしのために、ヒマなひとをよこしてくださると……。えっと、ですから、しつれいながらルルーさんにおはなしがいったのは、なにかのてちがいかと……」

「ちょうど大きな仕事が終わったところだったから、ちょっと暇になってたのよ」

「いえ、その……あなたさまは、まどうしさまで、こうしゃくかっかですよ? わたし、びんぼうむらの、ただのまじゅつしですよ?」


 私がそう言うと、ルルーさんはなぜか非常に目つきを鋭くさせて、怒気を滲ませました。

 ええっ!? なんでそこで怒るんですか!?


「……それが何か? もしかして、不服かしら?」

「い、いえ! めっそうもありません! ですが、どうかんがえてもおかしいです……! いちど、へいかにおはなしをうかがいにいきましょう!」


 もしかしたら本当に何かの手違いかもしれません。いえ、絶対にそうです。

 だって私のために、帝国に三人しかいない魔導師様に一週間も雑用させるなんて、どう考えてもおかしいです。こんな采配、正気とは思えません。

 ルルーさんが陛下の言葉を聞き間違えたとか、認識に齟齬(そご)があったとか、その可能性がとても高いです。

 下手をすれば、いつぞやのリュミーフォートさんの一件のように、また私があとで怒られることになるかもしれません。そんな理不尽は御免です。


「ネルヴィアおねーちゃん、ごめんね。もういっかい、おしろにいこう」

「は、はい! かしこまりました!」


 私が脱ぎ捨てていた上着を羽織って出かける準備を始めると、つかつかと歩み寄ってきたルルーさんが、小動物ならショック死しそうな殺人的な目つきで私を見下ろしてきました。


「……そんなに、私が、信用ならないかしら……?」

「い、いえ、その……」


 イチゴ色の瞳を紅蓮に燃え上がらせているルルーさんから必死に目を逸らしていると、不意にルルーさんが私の身体に腕を回して持ち上げ、そのまま抱きかかえてしまいました。

 「え、えっ……?」と慌てる私を無視して、ルルーさんはそのまま部屋の外へと向かいながら、


「帝国図書館に行ってくるわ。どうせ禁書室は私たちしか入れないから、付き添いは結構よ」


 そう言って、呆気にとられるお兄ちゃんとネルヴィアさんを置き去りに、ルルーさんは私を抱えたまま部屋を出てしまいました。


 ほ、本当にルルーさんが、一週間も私の面倒を見てくれるのでしょうか?

 ……あの皇帝、頭おかしいのではないでしょうか。



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