表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第一章 【アルヒー村】
4/284

0歳6ヶ月 2



 私は投げやりに寝転がっていた身体をすぐに起こして、お母さんと話していた近所のお姉さんに向き直ります。

 その反応に、お母さんたちはちょっと驚いたようでした。

 私も、さすがに今のは露骨すぎたかとヒヤリとしましたが、お母さんたちはすぐに可笑しそうに笑いだしました。セ、セーフ。


「どうしたの、セフィちゃん。もしかして魔導師様に会いたいのかしら?」


 近所のお姉さん―――名前はメリアーヌさん―――が、からかうような口調でそう言って、私に近づいてきました。

 ウェーブの強い、赤みがかった金髪が特徴的な彼女は、お母さんと同年代でありながらスタイルも抜群で、年齢相応の大学生らしい体つきをしています。

 そんな彼女は私を優しく抱きかかえると、あやすようにしてゆっくりと揺すりました。


「それとも魔導師様になりたいとか? そうねぇ、セフィちゃんはとっても賢い子だから、もしかしたら魔導師様になれちゃうかもね」


 メリアーヌさんは冗談めかして言っているみたいですが、それを聞いたお母さんはちょっと興奮気味にはにかんでいました。あれ、まんざらでもない?

 とりあえず抱きかかえてもらったので、私はお礼に、弾けるような満面の笑みで応えます。

 私の笑顔を受けたメリアーヌさんは、もう堪えきれないといった表情になって「いやーん、かわいい~!」とか叫びながら強めに抱きしめてきました。メリアーヌさんはおっぱいが大きいので柔らか苦しいです……。


「セフィが魔導師様……セフィが魔導師様……えへへぇ」


 おっぱいと腕の隙間からお母さんを見ると、お母さんは(とろ)けたような表情で妄想に浸っているみたいでした。

 魔導師様っていうのになるのは、そんなに名誉なことなのでしょうか?


 現在の世の中は、人族と魔族の全面戦争中だと聞きます。

 “魔族”と最初に聞いたときは驚きましたが、しかしそれを言うなら転生をした私の方がよっぽどイレギュラーですし、そこは比較的すぐに受け入れられました。


 この世界には、魔族が存在する。

 そして魔族がいるなら、魔法があるのでは?

 魔法があるのなら、魔法使いがいるのでは?


 そんな三段論法で、魔法使いの存在自体は想定していましたし、ですから魔導師様とやらの存在にも驚くべき点はありません。

 しかし、“様”付けをするくらい偉い存在だというのは、ちょっと想定外でした。

 少なくとも兵士を「兵士様」なんて呼び方はしませんから、一介の雑兵とは一線を画すような存在であることは確かです。

 おそらく「騎士様」と同格か、それ以上の存在なのではないでしょうか。


「あらら、またマーシアの親ばかトリップが始まっちゃった」


 お母さんの妄想癖は今に始まったことではないみたいで、メリアーヌさんは慣れた感じで受け流しながら苦笑していました。


「魔導師様になったら、皇帝陛下から公爵位が頂けるからねぇ。まぁ、魔導師様になれた魔術師様なんて、今まで三人しかいらっしゃらないらしいけど」

「魔術師様でも十分だよ! それだけでも男爵様だし!」

「十分って、あんた……魔術師様だって、帝国に三十人いるかどうかって噂じゃない」

「そ、そうだけど。でもセフィならきっと大丈夫! だってこんなに賢くて可愛いんだから! ね~、セフィリア男爵?」

「……はぁ。ほんと筋金入りよねぇ」


 お母さんの親ばかっぷりに呆れるメリアーヌさんの胸で、私は言いしれない高揚を感じていました。



 魔術師になれば、男爵位が授爵できる。


 さらに魔導師になれば、公爵位が授爵できる。



 たった今、私の夢が決定しました。



「……ま、どぉ、し」


 私がつたない舌で紡いだ言葉を聞いて、お母さんとメリアーヌさんは目を真ん丸にして、それから顔を見合わせました。


「ちょ、ちょっと! 今、セフィちゃん、『魔導師』って言わなかった!?」

「あ……ぁ……」

「すごいわよこの子! まだ生まれてそんなに経ってないのに、もう喋ったわよ!? しかも『魔導師』って!」

「…………」

「これ、本当にセフィちゃん、魔導師様に……えっ、ちょっとマーシア!? なんで泣いてるの!?」


 私が「魔導師」と口にしたことで、お母さんの親ばかスイッチが入って感極まってしまった―――


 ……のかと思いましたが、どうやら違うようでした。


「はじめてしゃべった言葉が「ママ」じゃなかったぁぁ~~~!! ふぇええええええん!!」

「ええええっ!? ちょっ、あんた、マジでめんどくさっ!?」


 それからメリアーヌさんが必死になだめてくれたおかげで、どうにかお母さんを落ち着かせることができました。

 私が「ママ、ママ」って呼びかけてあげたことも効果的だったのかもしれません。

 でもそれからしばらく、お母さんは魔導師の話題になると、ほっぺを膨らませて「つーん」と拗ねてしまうようになりました。


 お、お母さん……ちょっとめんどくさいよ……



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ