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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第二章 【帝都ベオラント】
36/284

0歳11ヶ月 7



「ひとつ、おききしたいのですが」


 私は、できるだけ無邪気に、子供っぽい表情を浮かべるように心がけながら、ボズラーさんの蒼い瞳をまっすぐに見つめます。


「ボズラーさんは、これまでまったく、てがらをたててこなかったんですか?」

「……あ?」


 私の無礼極まりない挑発じみた質問に、ボズラーさんは不愉快そうに目を細めて、声を低くしました。

 会議室内に、ピリッとした緊張の空気が張りつめます。


「どういう意味だ、ガキ」

「あ、すみません。そういうふうに、きこえたもので」

「どこをどう聞いたらそうなんだって聞いてんだよ!!」


 わぁ、沸点低いなぁ。扱いやすくて助かります。

 私は困ったように頬を掻いて、わざとらしく「うーん」と唸りました。


「わたしは、“よじゅうとうぞくだん”とかいうのを、やっつけました」

「だからどうしたってんだよ! たかがそれくらいで、調子乗ってんじゃねぇぞ!!」

「そうです、“たかがそれくらい”なんです!」


 私が嬉しそうにそう返すと、激昂していたボズラーさんが不思議そうな顔をして黙りました。

 私はその絶句の間隙に潜り込むようにして、言葉を続けます。


「わたし、“よじゅうとうぞくだん”なんて、ぜんぜんきいたことありません。それに、すっごくよわかったです。あんなの、ここにいるだれでも、かんたんにかてたとおもいます」


 私は列席者たちを見渡しながら、大げさな身振り手振りで子供っぽく振る舞いつつ、演説をするかのように語り掛けました。

 壮年の男性が多い騎士団上層部も、女性の多い魔術師団の方々も、みんな目を丸くさせています。

 陛下が“あの夜獣盗賊団”という言い方をしていたので、ここにいる誰でも勝てたかはわかりませんが、そんな可否なんてここでは重要じゃありません。


「ボズラーさんも、みなさんも、これまでたくさんのかつやくをされてきたはずです。そんなみなさんが、なんにもじっせきのないわたしなんかと おんなじじつりょくだと、だれがおもうでしょうか? ボズラーさんがしんぱいするようなことは、きっとありません。このていこくに、そんなおばかなひとは、ひとりもいないとおもいますから」


 詭弁だ。

 私は自分でぺらぺらと喋りながら、よくもまぁ、こんなうんざりするような綺麗ごとが言えたものだと笑いそうになってしまいます。

 思いっきり論点がすり替わっていますしね。赤ん坊を軍の要職に据えることへの国民感情と対外的な体裁の話をしていたはずなのに、個々人の実績の差についての話になってしまっています。

 おそらく第三者として冷静に話を聞いていた人たちなら、明らかにおかしい話題展開に疑問を抱いたことでしょう。


 でも頭に血が上ったボズラーさんはそこまで考え至らないのか、私の詭弁に丸め込まれて、すっかり黙りこんでしまいました。

 それに論題が軍上層部の経歴になってしまったことは、彼にとってマズい展開でしょう。

 ここで彼が下手に食い下がれば、ここにいる軍上層部の面々の経歴に疑問を呈しているかのように私が印象操作をすることができますから。勝算もなしに飛び込むには、リスキーすぎます。

 言わば、論理的人質といった感じでしょうか。


 彼の目が覚めてしまわないうちに、もう一発叩きこんでおきましょう。

 二本先取すれば、印象的にはだいたい勝ちです。


「それに、ねんれいなんてかんけいありません。たいせつなのは、なにをなしたかです。そうですよね、ボズラーさん?」

「……あ?」

「わたしたちのたちばは、ねんれいではきまらない。ねんれいなんて、かんけいない。そうですよね?」


 私は嫌味っぽくならないように気をつけていた表情を、ボズラーさんにだけ見えるように一瞬だけ挑発的に歪めます。

 それを見たボズラーさんは簡単に、ムッとしたような顔つきになりました。

 ……本当に扱いやすい。


「ガキは上の人間に従ってればいいんだ」

「もちろんです! たちばが(・・・・)うえのにんげん……ですよね? ねんれい(・・・・)ではなく」

「何もわかりゃしねぇガキは、年上に従ってればいいんだよ!!」


 そうなりますよね。年齢の上下が関係ないと強調されてしまえば、ボズラーさんは否定せざるを得ません。

 なぜなら、魔術師団内でのわかりやすい上下関係は、団長と団員、それだけのようですから。

 もっと細かい規定があるのかもしれませんが、少なくとも若者である彼は、そう高くない地位にいるようです。

 つまり年齢による上下関係などないと言い切ってしまうことは、実質的に私とボズラーさんの間に上下関係がないということになってしまうわけです。

 ましてや私は『二つ名』を賜っています。下手をすれば、陛下の意向次第で今後私が立場的な優位に置かれることも考えられます。

 それに私はまだ実力の未知数なイレギュラー。もしかしたら今後大きな功績をあげてしまうかもしれません。

 その時に、『年功序列』を振りかざせなくなってしまっては困るのです。


 だから、見るからに香ばしい罠に、考えなしに飛び込んでしまったのでしょう。


「としうえのひとのほうが、ずっとえらいんですか?」

「そうだよ、だからもう黙ってろガキが」

「でも わたしは、くちをつつしまなくてもいいんですよ?」

「あァ!?」


 とうとう苛立ちもクライマックスになってきたボズラーさんに、私はとびっきりの笑顔で告げました。


「だってさっき、ボズラーさんより としうえの“だんちょうさま”に「くちをつつしみなさい」っていわれても、ボズラーさん、むししましたよね?」


 私の追及に、ボズラーさんは二度目の絶句を披露しました。

 わぁい、私ってば性格超ワルぅい。でもわりと楽しい。

 なんだか村長をオシオキしてる時みたいな感覚です。まぁ村長と違って、ボズラーさんは(よろこ)んでないみたいですけど。


 私の揚げ足取りが見事なまでに決まると、騎士の皆さんも魔術師の皆さんも、おかしそうに笑いを堪えたり、あるいは堪えきれずに吹き出してしまってました。

 顔を真っ赤にして歯噛みするボズラーさんが私を睨み付けていますが、私は「ええ~なんでおこってるのぉ?」みたいにしらばっくれた笑みを浮かべてやりすごしました。


 もうちょっと噛みついてくれれば「では皇帝陛下も年上の皆さんの言うことをきちんと聞いて政治を行っているのですね」などと、答えに困る屁理屈を叩きこんでやったのですが。


 ここでさらに「ボズラーさんはこの中で、私の次に若輩者ですよね? お互い、皆さんの言うことには逆らわず服従して頑張りましょう」みたいなことを言って甚振ることもできますが、さすがにそこまでやると心証が悪そうなので、ここまでにしておきましょうか。


 あ、やっぱりもう一発。


「みなさん、きちょうなおじかんを、おままごと(・・・・・)につきあわせてしまって、もうしわけございませんでした」


 そう言って私が頭を下げると、私に近い席に座っていた最年長っぽい男性が「わっはっはっは!!」と部屋の外にまで響いてそうな大声で笑いだしました。

 私がびっくりして彼を見上げると、その男性は精悍な顔立ちをおかしそうに歪めながら私に向き直りました。


「いやはや、陛下が赤ん坊を魔術師にすると言い出した時は、お疲れなのかと心配したものだったが……なるほど、これは陛下がお気に召して『二つ名』まで授けるのも頷けるというものだ」


 そう言って彼は、私をエメラルド色の瞳で見つめると、次に魔術師団長へと視線を投げて、


「有望な新人が入ったようで、羨ましい限りだ。どうかな、ちょっと私に預けてみないかね?」

「あら、騎士団長殿の手にも負えますかしら?」

「わっはっは! 違いない!」


 騎士団長……!

 一番年上だし、一番上座に座っていたからそんな気はしてましたけど、やっぱりそうでしたか!

 それにしても、騎士の頭目ということですから、もっと静謐な雰囲気の人かと思っていましたが、案外豪気な方のようです。

 騎士団長殿は再び私に視線を戻すと、


「しかしまぁ、突っかかってきた先輩を自己紹介の踏み台にするのは強かで結構なことだが、なるべくなら仲良くな!」


 うっへへー。やっぱりバレてますか。そりゃそうですよね。

 私が「何のことやら」みたいにニコニコ笑ってやり過ごすと、騎士団長殿は「わっはっは! 本当に面白い!」とか言って爆笑していました。こっちは笑えませんが。

 ボズラーさんが私のことをすっごい目で睨んでるのが視界の端に映っていますが、見えません。全然見えませんよ。



 そんなこんなで、帝国軍前線部隊上層部の皆さんへのご挨拶は、無事何事もなく、終始穏やかに幕を閉じたのでした。



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