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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第二章 【帝都ベオラント】
33/284

0歳11ヶ月 4



 いろいろな意味でくたくたに疲れた私がベオラント城を後にすると、見慣れた顔が出迎えてくれました。


「セフィ様!」


 晴れやかな笑顔を浮かべて駆け寄ってきてくれたネルヴィアさんは、すぐに私に手を伸ばして抱き上げてくれました。

 自分でも時々忘れそうになりますが、私は現在 生後十一ヵ月の乳幼児です。

 身長はせいぜい六十センチかそこら……中学生の上履きを三つ重ねたら、もう私は見上げる形になってしまいます。

 そのため帝都に来てから私が移動しなければならない状況が増えてからというもの、常にネルヴィアさんが私に付きっきりとなって足代わりを務めてくれています。


 ……ちなみにネルヴィアさんはもう全身甲冑(フルアーマー)ではないので、胸部の女子力が豊満な彼女に抱かれると、常に柔らかい感触に包まれることになります。……いえ、お母さんが柔らかくないとは言いませんけどね?


「謁見は、ど、どうでしたか?」

「うん。みんないいひとたちだったよ?」

「そうですか、よかったです……」


 みんな良い人たちだった、というのはあまり答えになっていませんが、ネルヴィアさんは手放しで安心してくれたようです。

 まぁ、私が見るからに落ち込んででもいなければ、よほどの事態に陥ったわけではないでしょうしね。


 ……あっ、そうだ。


「おねーちゃん。もしかしたら、おねーちゃんはわたしの ぶかになるかもしれないんだけど……」

「ええっ!?」


 ネルヴィアさんは驚きのあまり、結構大きめの声を出して立ち止まりました。

 え、えっ、何? 何ですか?


「も、もしかして、だめだった……?」

「いいえっ!! とんでもありません!! そ、そんな、これからもセフィ様にお仕えできるなんて、感無量です!! もう死んでもいいです!!」

「しなないで」


 どうやら喜んでくれているらしいネルヴィアさんの返答に、私はホッと胸をなで下ろしました。

 良かったぁ、「嫌じゃボケ!」とか言われたら立ち直れないところでした。ネルヴィアさんに限って、そんなこと言うはずはありませんけど。


「あのぅ……ちなみになんですが、魔術師様は、たくさんの部下を持たれると聞いたのですが……他の部下は、もしかして騎士修道会から……?」

「え? ううん、おねーちゃんだけだよ?」

「……へ?」

「おねーちゃんだけでいいですっていっちゃった。だって、いらないもん」


 私がそう言うと、ネルヴィアさんはしばし口を開けたまま放心して、それから顔を真っ赤にして涙を浮かべました。


「セフィ様ぁぁああっ!! 一生お仕えいたします! 命に代えてもお守りしますぅ!!」


 ぎゅぅぅ、っと、私はネルヴィアさんの胸にきつく抱かれました。や、やわらか苦しい……

 もう頬ずりでもしかねない勢いで、ありとあらゆる私への忠誠の言葉をまくしたてるネルヴィアさんを落ち着かせるのはちょっと苦労しました。


 本当は最初「誰もいらない」って言ったんですけど……ネルヴィアさんが喜んでくれてるようだし、ちょっと話を盛るくらいは良いよね。

 実際、あの後の話し合いでネルヴィアさんのみが私の直属になったわけですし。


 それからまたネルヴィアさんに抱かれながら移動しているうちに、目的地である病院が見えてきました。

 現在、お母さんたちがいる場所です。


 しかし、ふと視界の端に映ったお店を見て、私は「おねーちゃん」とネルヴィアさんに呼びかけました。

 ネルヴィアさんも私の言わんとしていることがすぐにわかったのか、荷袋から小さな革袋を取りだします。

 じゃらじゃらという音から察するに、金貨袋でしょう。


「ごめんね……? おかねがはいったら、すぐにかえすからね?」

「いいえ! 私のお金はセフィ様のお金も同然です! 何もお気になさらず、好きなだけ使ってくださいね!」


 ふぇぇ、曇り一つない笑顔が怖いよぉ……

 ネルヴィアさん、ちょっとその発言……っていうか姿勢はやばくないですか……?

 完全にダメ男に貢ぐ女じゃないですか……変な男に引っかからないでね?

 あと、たしかに私は『働かない』をモットーに生きるつもりですけど、そういうのはちょっと……


 私はお金を手に入れたら即刻返すことを心に誓って、ネルヴィアさんと果物屋さんに入っていきました。


「おみまいって、どんなくだものがいいかな?」

「そうですねぇ。こちらのベンナや、アペリーラなんかがベターでしょうか」


 わぁ、なんだか前世の果物と似てるものもあるし、全く見たことのないものもあります……!


 私が嬉々として果物を眺めていると、お店の中からおじちゃんとおばちゃんが出てきました。この店を経営している夫婦でしょうか。


「なにかお探しかい?」

「えっと、おかーさんのおみまいにいくの」

「まぁ! こりゃたまげた。何歳なんだい? ずいぶんちっちゃいのに、はっきり喋るんだねぇ……!」


 あっ、やば。

 そういえば、謁見の間に入った直後、一人でちゃんと歩いたり喋っただけで、みんなに驚かれたんでした。

 うちの村では当たり前に歩いたり喋ったり魔法撃ったりしてましたから、なんだか感覚がマヒしてるのかもしれません。

 いきなり乳幼児が喋ったら、普通は軽くホラーですよね……


 驚く果物屋夫婦に、ネルヴィアさんはとても得意げな顔をして、


「当然です。セフィ様は特別なお方ですから」

「はぁー、近頃の子供は大したもんだねぇ。聞いたかい? 近頃盗賊団を壊滅させたって恐ろしい赤ん坊も、帝都に来てるらしいねぇ。たしか名前は……セフィ……リ……ア……」


 果物屋のおばちゃんは話の途中で急激に青ざめると、歯をガチガチ鳴らし始めました。えっ、何? どうしたの?

 かと思えば、次の瞬間には「鮮……の……」と呟きながら倒れてしまいました。旦那さんが「フォーナ! フォーナ!?」と名前を呼びかけながら肩を揺すっていますが、ブクブク泡を吹いたまま起きる気配がありません。


 今、絶対「鮮血の」って言った……「鮮血の処刑人」って言おうとした……


 その後、果物屋のおじちゃんは土下座しながら「どうぞこちらをお納めください……!!」と、果物の豪華詰め合わせを私に差し出しました。

 一応言っておきますが、私は全力で遠慮したんですよ?

 なのに、いらないって言ったら「ひぃぃ、命だけはぁ!!」とか言われたので、周りの視線が痛くて、仕方なく受け取ったのです。

 私これから男爵になるのに、変な噂が流れたらどうしましょう……。


 そしてフルーツセットを受け取って病院へ向かう道中、私が「な、なんかへんなあつかいをうけちゃったね」と苦笑交じりに言ったところ、


「え、何がですか? あれくらい、偉大なる勇者であるセフィ様に対する態度としては当然ではありませんか」


 と、本気で何がおかしかったのかわかってない表情で、ネルヴィアさんが満面の笑みを浮かべていたのが衝撃的でした。

 えっ、だからおばちゃんが倒れた時も、おじちゃんが土下座してる時もニコニコしてたの!?

 あなた、いつの間に狂信者へとジョブチェンジを果たしてたんですか! 村長か!? 村長のせいなの!? あいつめぇ……!!


 ……それからネルヴィアさん?

 みんなの私への認識は「勇者様」じゃなくて「悪夢の処刑人」みたいですよ?



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