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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第二章 【帝都ベオラント】
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0歳11ヶ月 2 ―――三人の魔導師様



 魔導師様たちの外見は三者三様、それぞれかなり個性的でした。


 左端にいる男の人は、身長二メートルはあろうかと言う巨躯に加えて、全身ムキムキです。

 服装は全体的に黒っぽく、胸元はざっくりと開いていて発達した胸筋が覗いています。

 布地が薄いのか体のラインがくっきり出ていますが、裾や袖、襟の部分は金魚の尻尾のようにヒラヒラとしていました。

 やや長めなダークブルーの髪はパーマをかけた上でオールバック。

 肩に引っかけたヒラヒラのストールは、一見する黒い翼のようにも見えます。

 そして顔の彫りは深く、ゴツく、仁王像を彷彿とさせる顔立ちでした。


 その反対側、右端にいるのは二十歳かそこらの女の子でした。

 日焼けなのか生まれつきなのか、肌は健康的な小麦色です。

 そして褐色に映えるような銀色のショートカットヘアー……いえ、襟足だけは長く伸ばして、肩から胸に垂らすという、少し変わった髪型でした。その上から黒い軍帽を目深に被っています。

 彼女は黒地に白で細かい紋様が刺繍されたマントを羽織り、肩から膝までをすっぽりと覆っていました。

 マントの中から伸びる素足には、なぜかつま先だけしかカバーしていない靴を履いています。

 やや幼めではあるものの美人な顔立ちでしたが、常に退屈そうな暗金(ガーネット)色の瞳からは、なんとなくとっつきにくそうな印象を受けました。


 そして最後に、真ん中を陣取るのはとても背の低い少女でした。

 なんと髪の色はピンク色で、長さとボリュームのあるその髪を複雑精緻に編み込んでいます。

 そしてその上から、王冠を模したようなヘッドドレスを着けていました。

 服装はいわゆるロリータファッションで、全体的には白やピンク、アクセントに赤という、ショートケーキみたいな色合いです。

 三人の中ではぶっちぎりで年下のように見えるのですが、最も不遜で自信に満ち溢れた、堂々たる表情をしていました。


「かっ……」


 まず真っ先に口を開いたのは、オシャレ仁王像さんでした。


「ンきゃっわイイぃぃ~~~っ!!」


 仁王像さんは丸太みたいな手足をクネクネとさせながら、こちらへ重厚な足音を響かせつつ駆け寄ってきました。

 って、この人オカマなの!? うわ、近くで見たらまつ毛長っ!? 口紅塗ってる!? きもっ!?

 仁王像はゴツく巨大な手で私の身体をがっちりホールドすると、地上二メートル五十センチくらいのところまで「高い高い」を敢行してきました。

 ちょっ、ほんとに高い! 怖い!!


「なんなのよォ、このベリーキュートな生物は! ちょっと、ねぇヴェル様! ホントにこの子が盗賊団壊滅させたの!?」


 ヴェル様って誰だ、と思っていたら、「そうだ、間違いない」と皇帝陛下がそれに答えました。

 ヴェルハザード陛下!? 怒らないんですか!?


「……しかしマグカルオ、その者を離してやれ。怯えている」

「そんなことないわよぉ! もうこの子はうちに持って帰ってアタシが大事に育てるわ!! ねぇ~ベイビーちゃ~ん?」


 やだ! 私には私の帰りを待っている人がいるんです!

 私がヤダヤダと暴れていると、マグカルオという名前らしい仁王像はニンマリと笑って、


「あらぁ、嫌われちゃったみたいねぇ~。じゃあ、お近づきの印にチューしちゃおうかしらぁ?」


 んむぅ~、とか唸りながら真っ赤な唇を尖らせる仁王像に、私は戦慄します。じょ、冗談ですよね!?

 私にキスしていいのはお母さんとお兄ちゃんだけだから! ほんとやめて! 魔法で吹っ飛ばすよ!?

 私が青ざめて、ひそかに脳内で呪文を構築し始めていると……


「邪魔だよ」


 次の瞬間、マグカルオさんが残像を残すような勢いで横に吹っ飛びました。


 ふわっ、と地上二メートル付近から落下した私は、すらっとした褐色の腕に優しく受け止められます。

 一方、マグカルオさんは空中で何回転もしながら、謁見の間の壁へとノーバウンドで直撃していました。

 いきなり岩みたいな巨体が飛んできたため、近衛兵さんたちは悲鳴をあげながら左右に散らばっています。


 そして私が「アレ死んだんじゃない……?」と一瞬疑ったマグカルオさんは、しかし即座にピンピンして立ち上がりました。


「ちょっとォ! なにすんのよリュミィ!?」

「警告したよ」

「実行する0.1秒前に警告されて反応できるのはアンタくらいよ!? あと、せめて魔法使いなさいよ!」

「面倒だね」


 ハイテンションなマグカルオさんとは対照的に、リュミィと呼ばれた褐色銀髪の女の人は、眠いのか退屈なのかぼんやりした態度でした。

 あまつさえ、マントの中から取り出した干し肉(ジャーキー)を食べ始める始末。

 この素っ気なさ、自由さ、それに凛とした目元から、私はなんとなく“猫っぽい”という印象を覚えます。

 ……っていうか、え? あの仁王像を吹っ飛ばたのは魔法じゃないんですか? じゃあどうやって?

 リュミィさんはあっさりと私を地面に投げ捨てると、口に手を当てて のん気にあくびを始めました。マイペースだなぁ……


「アンタたち! 陛下の眼前でなにやってるのよ!?」


 そこへ、謁見の間の入り口からゆっくりと歩いてきたショートケーキみたいな幼女が、二人をイチゴ色の瞳で睨み付けます。


「アンタたち、仲が良すぎて鬱陶しいのよ! いいからそこに並びなさい!!」


 プチショートケーキに怒られたオシャレ仁王像とハラペコ猫は大人しく従って、皇帝陛下と私の延長線上に整列しました。

 そしてプチショートケーキさんを筆頭として、それぞれが跪きます。


「『慧眼(レヴィータ)』の“ルルー・ロリ・レーラ・ベオラント”。参上いたしました」

「『裁断(マンモーナ)』の“マグカルオ・ドルスターク・ベオラント”。参上よん♪」

「『鍛錬(バルビュート)』の“リュミーフォート・ユジャノン・ベオラント”。参上だよ」


 三人の名乗りを聞いて、私は改めて目の前の人たちがとてつもない大物であることを思い知りました。

 おそらく彼らは皇帝陛下から、魔導師の称号と公爵位だけでなく、『二つ名』と『ベオラント姓』を贈呈されたのでしょう。

 それだけで、彼らがどれだけ皇帝陛下と帝国にとって特別な存在であるかは瞭然です。


「多忙の中、よくぞ集まってくれた。さぁ、この赤子……セフィリアについて、貴様たちの率直な感想を聞かせよ」


 立ち並ぶ三人を眺めて嬉しそうに目を細めた皇帝陛下は、そう言って私を視線で示しました。



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