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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
最終章 【大陸決戦】
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2歳7ヶ月 1 ――― 『神樹跡』



 二度目となるロクスウォードの襲撃からしばらく様子を見ましたが、今のところ敵が再び襲い掛かってくるようなことは起こっていません。

 「もうすぐ手札が揃う」などというロクスウォードの思わせぶりな言葉が気になり、私のグラムに乗って大急ぎで帝都ベオラントへ帰還したものの、それは杞憂だったようです。


 一応、今回の魔族領における調査や、レグペリュムでの出来事は、ヴェルハザード陛下にお伝えしています。

 彼は私たちのことを非常に心配してくれて、特に私にはもう調査任務は切り上げて帝都防衛に専念するように言ってくれました。


 しかしこの状況で敵が帝都を襲うとなったら、まず私を始末しようとするでしょう。

 そして私は帝都にいる限り、大規模な魔法は使用できず、しかも居場所もバレバレな状態で日々を過ごさなければなりません。

 さらに言えば、敵は魔法を封じる手段があり、おまけにリュミーフォートさん並の実力があるとされるロクスウォード。敵に対抗するためにはリュミーフォートさんに守ってもらうしかありません。


 つまり私が帝都にいる限り、こちらの最高戦力であるリュミーフォートさんまで帝都に拘束することとなり、自由に身動きを取れる魔導師がルルーさんだけになってしまいます。

 おまけに私はほとんど有効な魔法が使えず戦力外……そんな愚策を許容できるほど、状況に余裕はありません。


 敵にアペリーラという有用な移動手段がある以上、こちらが『守り』に入れば状況は悪化していく一方です。もし私が敵の立場だったら、帝国全域の街に小規模な襲撃を仕掛け続けるゲリラ戦術に徹するでしょう。これが考えうる限り最悪の状況だと思います。

 ならば敵に攻めさせないためにも、こちらは『攻め』の姿勢を見せなければなりません。敵が最も嫌がるであろう攻撃を仕掛けるということです。


 それは敵を捜索するだとか、先回りをして邪魔をするだとか、そんななまっちょろいものではなく……もっと根本的な『攻め』です。


「……みえた。みんな、エルフのもりについたよ」


 魔法の絨毯のように薄く広げた神器(グラム)の上で、私はみんなを振り返って告げます。


 ロクスウォードへの反撃手段を手に入れるために、私たちが目的地に選んだのはエルフの里でした。

 「過去のある時点にまで戻ることができる魔法はないか?」という私の問いに、ルルーさんが「もしかしたら……」と教えてくれたのが、エルフ族の里に存在する『神樹(あと)』だったのです。


 するとここまで私を抱っこしてくれていたルローラちゃんが、今は三〇歳くらいの年齢となった姿で私の顔を覗き込んできました。大人の色気がむんむん漂う外見には似合わない、子供っぽい仕草が妙にアンバランスです。


「ゆーしゃ様。さすがに無断で『神樹跡』に乗り込むのはマズイよ。私が話を付けるから、いったん里に寄ってくれる?」

「うん、わかった。おねがいね」


 元々そうするつもりだったので、私はルローラちゃんの申し出を快諾して、エルフの里の外れの方に着陸しました。

 里にいたエルフたちにも黄金の板が空から降ってくるのが見えたのか、私たちがグラムから降りる頃には、駆けつけたエルフたちが集まってきます。


 最初は警戒の色濃い表情だったエルフの皆さんでしたが、ルローラちゃんや私の姿を見て安心したようです。すぐに肩の力を抜いていました。

 そして相変わらずエルフの男性たちに熱っぽい視線を注がれているネルヴィアさん。そういえばエルフ族にとって、髪の美しさと胸の大きさは絶大なステータスなのでした。その両方が最高峰であるネルヴィアさんは、エルフ族の基準では絶世の美女ということになります。


「リリちゃ~ん! 久しぶりだねっ!!」


 そして駆けつけたエルフたちの中から、中学生くらいの少女が私に駆け寄ってきました。

 彼女の名は、たしかララさんでしたね。かつてケイリスくんの救出のためエルフの里に乗り込んだ際には、お世話になりました。

 『リリ』というのは私が捨て子だと思い込んだ彼女が、自分たちで育てると決意して私に名付けてくれた名前です。あれから私の正体が判明した後、きちんとセフィリアという名を名乗ったはずなのですが……まぁいっか。


「ララさん、おひさしぶりです。またあえて、うれしいです」

「私もだよぉ~! えへへ、相変わらず可愛いねぇ」


 おまかわ。

 にこにこしながら私に抱きついて、頬ずりをしてくるララさん。なんだか以前にも増してスキンシップが過剰な気がしますが、最近この里に顔を見せていなかったからでしょうか?

 私がララさんにされるがままになっていると、周囲に集まっていたエルフたちをかき分けて、見覚えのある美しい女性が姿を現しました。


「まったく、何をしているのですか。それにララ、彼女はセフィリアだと言っているでしょうに」

「あ、族長……」


 エルフ族の族長さんは、その怜悧な目でキリっとララさんを射貫きます。元より鋭い目つきが細められたことによって、ララさんは渋々といった風に私をルローラちゃんへ返却しました。


「失礼しましたね、セフィリア。それで……見覚えのない人間もいるようですが、どういった用向きなのですか?」


 族長さんは私の後ろにいる皆に視線を向けて、わずかに警戒の色を覗かせました。

 現在の面子は私と、ネルヴィアさんとレジィ、ケイリスくんとルローラちゃんという私の家族たち。ここまでは去年ここを訪れた際に、エルフの皆さんとは顔見知りになっています。

 今回はそこへ、リュミーフォートさんとソティちゃん、さらに黒髪でスーツ姿の執事『ロヴェロ』に変装したルルーさんが加わっていました。


「ええっと、あのひとたちは、しんようできます。わたしがほしょうします。それにきょうは、『神樹跡』というばしょにようがあるんです」

「神樹跡に……? どういうことです?」

「あー、それは私から説明するよ」


 怪訝そうな表情を浮かべる族長さんに、私を抱いているルローラちゃんがこの場所を訪れるに至った経緯を説明してくれました。


 ロクスウォードという古代の英雄が、大陸全土を滅ぼしかねない最悪の災害を引き起こそうとしていること。

 そしてヤツを止めるためには、神樹跡に眠っているかもしれない『時間を超越する術式』が必要であるということを。


 ルルーさん曰く、この里のエルフたちが昔から守ってきた『神樹跡』という場所は、魔神の渦(ルミニテ)の一種なのだそうです。

 そして、かつて私たちが攻略した『獣王の陵墓』が魔王ラキフェールの没した場所だと言われているように、この『神樹跡』は千変万化の厄災と恐れられたレヴィータが没した場所と見られています。


 ルルーさんの二つ名の元ネタにもなっているレヴィータ。彼の持つ能力は大きく分けて二つ。

 一つは、彼の目にしたあらゆるものに変身できるという能力。

 そしてもう一つは、過去・あるいは未来へ、対象を時間旅行させるという能力です。


 かつて獣王の陵墓から脱出する際、私はそこで獣王ラキフェールの持つ時間ループを再現できる『無限の術式』を目にしました。

 おかげで消費する魔力は凄まじいものの、それを使用して獣王ラキフェールと同じような現象を引き起こすことも可能となったのです。これは『黒い石』を真正面から打ち破るに足る切り札です。

 ……ただし敵の不意を突けるのは最初の一回きり。それに今は魔力節約週間なので、敵勢力を一網打尽にできるタイミングまではなるべく隠しておくつもりですが。


 獣王の陵墓でレジィが新たに手にした能力。それと似たようなものを、かつて『神樹跡』に忍び込んだというルルーさんとリルルも不完全ながら手にしたのだそうです。


 ならば過去に戻ることのできる術式だって、もしかしたら手に入れられるかもしれません。

 そしてその術式こそが、私たちの目的とする『攻め』……これを使って、『ロクスウォードが目覚める前』の時間軸に戻って、ヤツを葬り去ってやるのです。


「……なるほど、事情はわかりました。他ならぬセフィリアの頼みとあれば叶えてあげたいところですが……しかし困りましたね」

「やっぱり、エルフのひとしかはいっちゃダメですか……?」

「入ってはいけないのもそうですが、そもそも入ることが難しいのです」

「……え?」


 小首を傾げた私の反応に、族長さんは少し困ったように腕を組みました。すると組まれた腕によって形の良い胸が「むにょん」と歪んでいます。ルローラちゃんの方から舌打ちが聞こえてきそうですね。


「チッ」


 本当にしやがった。


「エルフ族は『神樹跡』の近くにずっと住み続けているせいか、影響はないのだけれど……もしも余所者が『神樹跡』に近づこうものなら、神樹の洗礼を受けることになるわ」

「しんじゅの……せんれい?」


 ルローラちゃんを無視して真剣な表情で語る族長さんの言葉に、私は『獣王の陵墓』での出来事を思い出します。

 おそらく洗礼というのは、魔神の渦(ルミニテ)に存在するという門番と同じものでしょう。

 なぜエルフ族には反応しないのかは知りませんが、とにかく私たちが近づけば魔神の渦(ルミニテ)の防衛機構が働いて攻撃を受けることは間違いなさそうです。


 かつて私たちが攻略した『獣王の陵墓』の門番は過去最高難易度だったそうですが、だからといってこの『神樹跡』の洗礼とやらが簡単というわけでもないでしょう。果たして私たちに攻略できるのでしょうか?


「エルフなら、その『神樹跡』にはいっても、まったくもんだいないんですか?」

「いえ、そういうわけではないわ。洗礼は二段階構造になっていて、『神樹跡』の外周では『山羊(メム)』と我々が呼んでいる不気味な生物が侵入者を襲います。さらに中心部へ向かうと虹色の球体のようなものが存在し、それに触れた者は跡形もなく消え去ってしまうのです。エルフ族に反応しないのは山羊(メム)だけで、虹色の球体はたとえ我々でも触れれば命はありません」


 なんか思ったより物騒ですね……

 この魔神の渦(ルミニテ)は、ルルーさんとリルルが里を抜けるついでに半分ほど攻略したらしいので、すでに魔力とかは溜まっていないはずですが……せめてどこかに記されているかもしれない術式は探したいものです。

 しかしそんな物騒なものが襲ってくるのなら、ゆっくりと探すこともできないかもしれません。


「とにかく、いったんどんなところなのか、かくにんできますか?」

「では私が案内しましょう」


 当然のようにそう申し出てくれる族長さんでしたが、しかしそれはいささか困ったことになります。

 ただでさえ今回の作戦目的地がエルフの里に決まった時点で、ルルーさんがかなり難色を示していたくらいなのです。

 けれども以前『神樹跡』の深部にまで足を踏み入れたことのあるらしいルルーさんには、できれば同行してもらいたかったのでお願いしてみたのです。


 とはいえ、私としては「できればついて来てほしいけれど、どうしても嫌ならしょうがない」というスタンスだったので、そんなに嫌がるなら私だけで頑張るとは言ったのですよ? そしたらルルーさんはため息をついて、同行を約束してくれたのです。

 多分ルローラちゃんが必死に頼み込んでくれたのと、リュミーフォートさんが援護射撃をしてくれたのが良かったのでしょうね。


 そんな事情がある以上、族長さんがついて来てしまうことで、これ以上ルルーさんに窮屈な思いをさせるのは忍びないという気持ちがあります。

 そこで私がルルーさんに視線を送ると、彼女は神妙な表情で頷きました。


「いや、族長。案内くらい私がするよ」

「ルローラ? 面倒くさがりな貴女が自分からそんなことを申し出るなんて珍しいですね。彼女たちと行動を共にしていたことで、少しは成長したのでしょうか」

「……そうかも、ねっ!」


 ズバズバ痛いところを突いてくる族長さんの遠慮ない物言いに、ルローラちゃんは引きつった笑みを浮かべながら族長さんの豊満な胸部にパンチを放っています。


 ちなみにルルーさんの事情もそうですが、族長さんたちが里にいてほしい理由はもう一つありました。それは、ここ最近における私のトラブル体質についての懸念です。

 このところ私たちはどこに行っても妙なトラブルに巻き込まれているので、何か異常事態が起こった時にはいつでも対応できるように、エルフ族の皆さんには一箇所に固まっていてもらいたかったのです。


「本来『神樹跡』は我々エルフ族が守り続けてきたのですが……まぁ貴女たちなら心配はないでしょう。何かあったら無理をせずに戻ってきてください」

「リリちゃん! 気を付けてね!! 無茶したらだめだよ!?」


 族長さんの許可をもらい、さらに心配そうに私を抱きしめるララさんに苦笑しつつ、私たちはエルフの里の皆さんに見送られながら『神樹跡』へと向かったのでした。



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