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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
最終章 【大陸決戦】
277/284

2歳6ヶ月 3 ――― 布石



「久しぶりだね、セフィリアちゃん。大したもてなしもできず申し訳ないが、歓迎するよ」

「いえ、そんな。おひさしぶりです、ルグラスさん」


 ケイリスくんの従兄にして、このイースベルク共和国の現大統領であるルグラス・トリルパットさんが、一点の曇りもない笑顔で迎えてくれました。

 場所はイースベルク国会議事堂にある応接室の一つで、国賓をもてなすときにも使われるようなすごいお部屋です。やけに室内が絢爛豪華なのは、ここがかつて共和国が王制だった頃の宮殿を改装したものだという背景によるものでしょうか。


 突然アポなしで突撃して来た私たちのことを、ルグラスさんは嫌な顔一つせずに歓迎してくれます。

 庶民の年収が軽く吹っ飛ぶくらいお高そうなテーブルを挟んで、私は対面のソファで優雅に微笑んでいるルグラスさんにぺこりと頭を下げました。


「とつぜんきちゃって、ごめんなさい。おしごとのさいちゅうだったのに……」

「何を言うんだい。キミはこの国の英雄で、私たちの恩人だ。いつでも来てくれて構わないよ」


 なんかやたらと持ち上げてくるけど、これは政治的な社交辞令でしょうか? いえ、元々こういう人だったような気もします。穿ちすぎですね。


「……それに、キミが来てくれないとケイリスくんは絶対に来てくれないしね。手紙での近況報告はこまめにしてくれるんだが、やはり元気にやっている姿を見たいものなんだ」


 ルグラスさんが私に向けていた視線を横にずらしながらそう言うと、その視線の先でケイリスくんが居心地悪そうに目を逸らしました。

 ……この件が無事に片付いたら、このプラザトスでゆっくりしようね。


 私は本題に入ろうとして、一度室内を見回しました。

 この部屋にいるのは、私とケイリスくん、ルグラスさん。それからネルヴィアさんとレジィとルローラちゃんに、ダンディ隊長。つまり、かつてミールラクスの陰謀を暴いた際のメンバーですね。


 ちなみに部屋のすぐ外ではリュミーフォートさんが、そして国会議事堂の周辺はルルーさんとソティちゃんたちが、それぞれ警護に当たってくれています。

 街中での私はほぼ戦力になりませんから、襲ってくるなら今が絶好のシチュエーションです。警戒しない理由はありません。


 そして私の視線の意味に気が付いたらしいネルヴィアさんとレジィが、同時に頷きます。どうやら周囲に異状はないようですね。


「すみません、さっそくでもうしわけないのですが、ほんだいにはいってもいいでしょうか」

「ああ、あまり時間が無いのだったね。こちらこそ申し訳ない。リルマンジー第三師団長から大体の話は聞いているよ。レグペリュムに向かう許可だったね」

「はい。ロクスウォード―――あのくろいおとこがあらわれたレグペリュムをしらべ…………リルマンジー“しだんちょう”?」


 なんだか聞き捨てならない単語が聞こえてきて、あまり時間が無いのに聞き返してしまいました。

 第三師団の師団長って、たしかケイリスくんのお兄さん―――ということに法律上はなっている―――ゴルザスとかいうヤツの役職じゃありませんでしたっけ?

 私が驚きの表情でダンディ隊長の方を見ると、彼は気まずそうな顔をしながら、その巨大な手で短髪をかき混ぜました。


「おや、聞いてなかったかい? リルマンジーさんは黒竜討伐、およびキミと協力して父の野望を打ち破った功績によって、第三師団の師団長に収まったのさ。ちょうど前任の師団長が全身骨折で再起不能となった上で投獄されたからね」


 ああ……そういえばゴルザスは、ネルヴィアさんの魔剣でホームランされてボキボキになってたんでした。アイツもちゃんと投獄されてたんですね。


「おっと、話が逸れてしまったね。それでレグペリュムの件だが、一応私の権限で公式に許可を出すことはできる。……が、あの頑固な“彼ら”がキミたちを受け入れるかどうかは別の話だと思うな。あそこは共和国領とは名ばかりの半自治領で、我々の指示になど従いはしない」


 ふむ。聞いていた通りですね。ルグラスさんを頼ればすべて万事丸く収まるということではないようです。


 しかしそれは想定内。私たちが勝手にレグペリュムへ突撃していった結果いざこざが起こり、それが原因で帝国と共和国の関係が悪化するということさえなければ良いのです。

 共和国の大統領直々に、レグペリュムの遺跡を調査する許可を貰った。つまりレグペリュムがそれを邪魔して来たら、帝国から見ても共和国から見ても、悪いのはレグペリュムということになります。


 まぁそうは言っても、もちろんヴェルハザード陛下にもルグラス大統領にも迷惑をかけたくはありませんから、穏便に事を運ぼうとは考えていますけどね。


 と、そのようなことをかいつまんで説明したら、ルグラスさんは「まったく、悪い人だ」と少し苦笑しました。

 すいませんねぇ、おたくのところの国民が言うには、私は魔王らしいんで。


「そういうことなら、こちらからリバリー魔導隊の小隊を調査隊として派遣し、セフィリアちゃんたちにはその補佐としてついてもらおうか。彼女たちなら以前、そのロクスウォードとかいう男の一件でレグペリュムと接触しているし都合がいい。少なくとも帝国軍人の子供たちだけで向かうよりは、ずっと話がスムーズになるはずだ」


 なるほど、それは確かに。この世界では十五歳で成人と言われるとはいえ、私たちはそのほとんどが未成年と間違われてもおかしくない少年少女の集まりです。私に至っては幼児ですし。

 そんな私たちが帝国軍として訪問したら、それは不要なトラブルを引き起こしかねません。

 ここは素直に、ルグラスさんのご厚意に甘えることにしましょう。


「ありがとうございます。おねがいできますか」

「任せてくれ。なに、気にすることはないよ。キミがケイリスくんの“家族”だというなら、それは私の親戚ということだからね。いくらでも力になるさ」


 ルグラスさんが朗らかな笑顔で言い放ったその言葉に、私が『ふむ、なるほどたしかに』と納得していると、なぜかケイリスくんが口パクでルグラスさんに何かをまくしたて始めました。

 そしてそれに同じく口パクで応じるルグラスさん。読唇術の使い手同士の、奇妙なコミュニケーションです。


 まぁこれはいつものことなので、気にしないことにします。そしていつものようにケイリスくんが言い負かされて、顔を赤くしながら沈黙するまでがワンセットです。

 ルグラスさんのような昔からの知り合いの前でしかあまり見せない、ケイリスくんのちょっと子供っぽい表情を一通り堪能したところで、私はルグラスさんに質問を投げかけました。


「ああ、そうそう。ここで入院していた『かれら』は、ぶじにたいいんしましたか?」


 私の何気ない問いで、ルグラスさんは私の意図をすぐに察したようで、再び苦笑を浮かべながら頷きました。


「ああ、そうだね。無事に完治して、レグペリュムに帰って行ったよ。……まさか彼らを利用つもりなのかい?」

「いえいえ。ただ、せっかくちょっとしたコネと“貸し”があるんですから、つかわないのはもったいないかな~って」


 私が笑いながらそう答えると、ルグラスさんは困ったように肩を竦めながら、「やっぱり悪い人だ」呟きました。



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