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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第五章 【魔族領】
265/284

2歳5ヶ月 4 ――― ネルヴィア vs 氷竜アルゴラ



 『それでは『竜舞の儀』、第一の試合を執り行います。―――始めッ!!』


 審判役っぽい灰色の竜の宣言に合わせて、ネルヴィアさんは腰に差した三本の剣に腕を伸ばしながら足を踏み出します。

 一方、アルゴラと呼ばれた青い竜はつまらなそうに目を細めて、ネルヴィアさんの出方を窺っているようでした。


『なんか急に呼ばれて、いまいち事情がわかってないんだけどさ。ほんと、命が惜しいならドラゴンと戦うなんてやめといた方がいいよ』


 どこか呆れたような目をしてそう忠告するアルゴラでしたが、しかしネルヴィアさんはまったく聞く耳を持たず、かつてリュミーフォートさんから賜った魔剣、迅重猛剣フランページュを選んで抜き放ちました。

 波打ち、黒光りする重厚な鉄の塊。重く確かな威力を秘めていそうではありますが、それでもドラゴンの巨体から見れば、どんな名剣だって頼りない小枝に見えてしまうことでしょう。


『はぁ……仕方ないな。一撃で終わらせてあげるよ。せめて先手は譲ってあげようかな』


 アルゴラはそう言うと、その青白い竜麟に包まれた巨体を身構えさせることもなく、今や目の前まで迫っているネルヴィアさんに対して無防備に相対しました。

 そんなアルゴラの提案にネルヴィアさんはこてんと小首を傾げると、フランページュを構えます。


「そうですか? それでは遠慮なく」


 次の瞬間、“ゴギャァァアアアンッ!!”という、爆発音にも似たけたたましい轟音が鳴り響きました。

 ドラゴンと比べれば小人にも等しい女の子が振るった鉄の棒きれ。それがアルゴラの巨大な顔面に叩き込まれた瞬間、その巨体が不自然なほどに揺さぶられ、青白い身体を横転させました。


 一拍遅れてパラパラと降り注いでいるのは、魔剣を叩きつけられたアルゴラの顔面の鱗でしょう。

 地面に倒れ込んだアルゴラは信じられないといった様子で、殴られた頬に触れました。しかしそこには砕けた竜鱗と、滲み出る血液が確かに存在しています。


 絶句。

 周囲で事の推移を見守っていたドラゴンたちは、つい先ほどまで浮かべていた哀れみにも似た表情を強張らせ、すっかり言葉を失っています。


 しかしそこでネルヴィアさんは倒れ込んでいるアルゴラに向けて、さらにフランページュを振り下ろしました。


 再び響き渡る轟音。今度は辛うじて左腕でガードしたアルゴラでしたが、体勢が悪いせいで弾き飛ばされた腕が顔にぶつかり、さらに腕の竜鱗にも深々と亀裂が刻まれました。


『ぎッ……!? なんっ、なんだコレは!? お前、まさかバルビュートか!?』


 咄嗟にアルゴラは右腕を振るってネルヴィアさんへと襲い掛かりますが、彼女はそれを難なくフランページュで叩き返すと、返す刀でアルゴラの横っ面に強烈な一撃を叩きこみます。。

 さらに体勢を崩しかけて踏み止まったアルゴラの負傷した左腕を殴りつけると、彼が絶叫をあげている隙にその顎を下から打ち上げて、無防備に晒された首のど真ん中へと最大威力のフルスイングをぶちかましました。


 情け容赦の一切ない、流れるように圧倒的な連撃。

 ネルヴィアさんはいとも容易く行っているように見えますが、剣先の速度によって重量が大きく変わり続けるフランページュは、本当に扱いの難しい魔剣です。誰に渡したってせいぜい一回二回と振るのがやっと。ああやって手足のように自在に操るなんて、本来ならできるわけがないのです。

 その不可能を、ネルヴィアさんは圧倒的な才覚による力技で実現させていました。


 まさしく『才能が剣を振ってる』ような女の子なのですが……最近はさらに人族最強の教えを受けてパワーアップしているみたいです。

 かつて黒竜と戦った時は、上手く手加減できるか不安で満足に動けず、やがてリミッターが外れてからやっと敵を圧倒できるようになりました。


 しかし今回の彼女は、通常の精神状態でドラゴンを圧倒しています。黒竜との戦いで見せた変幻自在な剣筋ではなく、ルナヴェント家に伝わる由緒正しい剣閃を揮っているのです。

 つまり敵に上手く手加減してあげられるくらい、実力差があるのでしょう。


 そもそもネルヴィアさんの天敵は、レジィみたいに人間の知覚を超えてくる“速度”です。攻撃力や防御力はさしたる問題ではありません。

 対してドラゴンは強靭な竜鱗任せの防御力と、圧倒的質量による攻撃力でのゴリ押し戦法。なので単純に相性が良いというのもあるのでしょうけど。


『このッ……調子に乗るなよ人間がァァアアア!!』


 相変わらずドラゴンというのはキレやすいようで、アルゴラは竜の金眼を深紅に染め上げて逆鱗状態へと移行します。こうなれば痛みや疲れを忘れ、敵を殲滅する事だけに全能力を発揮することができると聞きます。お隣に佇む解説役・ネメシィ談。


 先ほどまでとは違い、アルゴラはその白い手足や尻尾をなりふり構わず暴れ狂わせました。とてつもない風切り音を伴った尻尾が地面に叩きつけられると、相当硬いはずの地面がクッキーのように砕け散って捲れ上がり、時折含まれているらしい竜響岩が甲高い悲鳴を上げます。

 そのあまりの大暴れっぷりに、しかしネルヴィアさんは冷静な剣捌きでそれを弾き、逸らし、躱し、かと思えば再びアルゴラの手足を殴り飛ばして動きを制限し、すかさず鼻っ面に攻撃を叩きこんで吹っ飛ばしてしまいました。


「……!」


 しかしネルヴィアさんがドラゴンを殴り飛ばした瞬間、アルゴラは背中の大きな翼を辛うじて一度だけ羽ばたかせ、巻き起こした風によって彼女の追撃を抑制すると同時に、反動で大きく距離を取りました。

 私はそれを苦し紛れの抵抗だと思ったのですが、どうやら違っていたようです。アルゴラはその白く長い首を無理やりネルヴィアさんに向けると、凶悪な(あぎと)を全開にしました。そこでようやく私は、敵の狙いを察したのです。


 次の瞬間、アルゴラの口から純白の息吹が放たれ、直前に横っ飛びすることで避けたネルヴィアさんの真横を通過。そのまま直線状にあった竜たちの穴倉の一つを掠め、そこにいたドラゴンの半身を凍結させてしまいました。鱗の表面が凍っただけでしょうけど。

 一直線上に霜の道ができたことに瞠目したネルヴィアさんでしたが、続けざまにアルゴラが放った凍結の息吹は、先ほどアルゴラ自身が殴りつけて捲り上げた地面を壁にすることでやり過ごします。


 けれども次から次へと執拗に放たれる息吹は、徐々に火口内を霜と氷で満たしていき、戦場からは大きく離れていた私でさえ肌寒くなってきました。これでは気温の急激な低下によって、ネルヴィアさんの運動機能は見る見るうちに低下してしまうでしょう。思ったより厄介な能力ですね。


 このままではジリ貧……と私が思い始めたところで、アルゴラがその巨大な翼を大きく広げようとするのが見えます。まさか空を飛んで、真上から狙おうというのでしょうか?

 さすがにネルヴィアさんも見過ごせなかったのか、彼女は凍った岩壁の陰から素早く飛び出し、霜が降りる地面をジャリジャリと踏みしめながらアルゴラに迫ります。


 しかしそれこそがアルゴラの狙いだったのでしょう。ニィっと口許を歪めたアルゴラが、その巨大な口から大きく息を吸い込みました。ネルヴィアさんは素早く迫っていますが、それでもアルゴラに一撃を叩きこむには、あと数歩足りません。


 その時、ネルヴィアさんは魔剣フランページュを鞘に納めました。


 アルゴラの口内で収束した冷気が、ここまでにおける最高威力で放たれます。

 勢い、範囲ともに桁違いの冷気が前方へと放たれると、ネルヴィアさんの小さな姿が一瞬にして飲み込まれてしまいます。


 私がその光景に絶句していると、濛々と立ち込める白い冷気がやがて、竜王の峰に渦巻く熱気に押し流されてゆっくりと消えていきました。

 そして、そこで目に飛び込んできたのは……


『―――何だって!?』


 思わず、といった風にアルゴラが悲鳴をあげました。

 かなりの至近距離で冷気の息吹が直撃したはずのネルヴィアさんは、けれども凍結することも吹き飛ばされることもなく、先ほどと変わらない姿でそこに存在していたのですから。

 そしてネルヴィアさんの後方には凍り付いた地面が広がっていますが、ちょうど彼女の真後ろから一直線上には、凍結の及んでいる様子はありません。まるで冷気の方が、ネルヴィアさんのことを避けて通ったかのようです。


 チンッ、という金属音と共に納刀されるのは、彼女の腰に差された聖剣『レーヴァテイン』。

 杖か枝のようにも見える金色の鞘から抜き放たれたそれが、迫りくる冷気の奔流を切り裂いたのでしょう。

 あの剣にはそれを実現するだけのスペックがあります。私がそう造ったのですから。


「……まだやるなら、()はあなたです」


 ネルヴィアさんはそう言うと、一度は納めたレーヴァテインの鞘に手をかけます。

 すると、ぎくりと身体を震わせたアルゴラは力なく笑いながら、


『…………ま、参った……』


 瞳の色を金色に戻しながら、降参を宣言したのでした。


『勝者、人族の剣士!!』


 戦場の上空を飛び回る灰色の竜が、甲高い声で勝利者宣言を行いました。名前がわからないなら事前に聞いといてくださいよ。あと剣士じゃなくて騎士です。そこ重要。


 自身の勝利を確認したネルヴィアさんはあっさりと踵を返すと、凍った地面をジャリジャリ踏みしめながら私たちの元へと戻ってきました。


「セフィ様! 勝ちましたっ!」

「う、うん! 凄かったよお姉ちゃん。おいで?」


 私が玉座から降りて両手を広げると、ネルヴィアさんは嬉々としてこちらに駆け寄り、抱き着いてきました。うわぁ、ひゃっこい! 早く温めてあげなくちゃ!

 そして私の顔に“ネルヴィア山脈”がぐいぐい押し付けられる感触に苦笑しながら、彼女の頭を撫でてあげます。


「お姉ちゃんがドラゴンブレスに呑まれた時は、かなりヒヤッとしたよ。しっかり聖剣(レーヴァテイン)を使いこなしてたんだね」

「セフィ様より賜った神器ですから、他の何よりも完璧に使いこなせるように猛特訓を重ねました!」


 でれでれした表情で嬉しいことを言ってくれるネルヴィアさんに、私の方もつい破顔してしまいます。


 かつてネルヴィアさんの誕生日に私がプレゼントした神器、聖剣レーヴァテイン。それはかつて彼女が黒竜と対峙した際、唯一ドラゴンブレスにだけは対処できなかったという経験を踏まえた、ある意味ドラゴンに対する“メタ装備”としての性能が付与してあります。

 それはずばり、『斬れないものを斬る』というチカラ。


 ただ、もちろんそれはこの剣の持つ能力の一側面に過ぎず、その真の力を発揮すれば、あのままアルゴラが空へ逃げたとしても仕留めることができたでしょう。

 けれどどうやらネルヴィアさんは、このレーヴァテインの刀身をなるべく他人に見せたくないらしく、できる限り鞘から抜かないようにしているようなのです。

 ……そして夜な夜なベッドの上でレーヴァテインを抜き放ち、その青白く輝く硝子(ガラス)の刀身をうっとりと眺めながら、一人怪しい笑みをこぼしていることを私は知っています……


 と、そんな風に私とネルヴィアさんがイチャイチャしていると、ズシンズシンと地響きを慣らしながらこちらへ近づく緋竜ボガルニアと、その隣を小走りで追随する竜人少女ヴェヌスが見受けられました。


『……正直、驚いた。人族が竜族を、あそこまで一方的に追い詰めるとはな』

「それはそうだよ。なんせここにおわすネルヴィア・ルナヴェントは、かつて人族領で暴れていた真っ黒なドラゴンを倒して、竜騎士の称号を授かってるんだから!」


 私が身内自慢半分、打算半分でそんな風に言い放つと、途端に緋竜と竜人少女が驚愕に目を瞠ります。


『も、もしやそのドラゴンは、光を飲み込む漆黒の炎を吐き出してはいなかっただろうか?』

「吐いてたねぇ、真っ黒な炎。……となると、これは私の勘違いじゃなかったわけだ?」


 私が念を押す意味でそう問うと、緋竜ボガルニアは遣る瀬無さそうに目を細め、深々と溜息を吐きました。


『かつて、その高い実力により“竜の山脈”で幅を利かせていた荒くれ者がいた。闇竜ロンザルキムという黒い鱗を持つ竜だ』

「さっきの紫色(あいつ)の言葉でだいたい察したよ。あまりに嗜虐的で問題ばっかり起こすから追放されて、その結果 暴れる先を求めて人族領にまで流れ着いたんでしょ?」

『……その通りだ』


 緋竜ボガルニアは申し訳なさそうに首肯しますが、それでも私はどうしても言わずにはいられないことがありました。


「人間と違って、ドラゴンは単体でも大きな被害をまき散らせるんだからさ。それを追い出して、あとは何も知りません……だなんて、ちょっと無責任なんじゃない?」

『……かと言って、成竜となりドラゴンブレスを使えるようになったドラゴンを、閉じ込めておけるだけの場所もないのだ』

「一人っきりで暴れ回ってれば、いつか誰かに殺されるのは目に見えてるでしょ。貴方たちのそれは、結局身内の“始末”を自分たちの手で付けるだけの度胸も無くて、その責任をよその誰かに押し付けてるだけじゃない。それを私は無責任だって言ってるんだけど」

『……返す言葉もない』


 目を伏せるボガルニアと、同じく顔色を青ざめさせておろおろしているヴェヌス。

 まぁその判断を下したのは竜王だって話だし、この二人に言ったってしょうがないんだけどさ。


 それでも私は、視界の端でこちらの会話を窺っているケイリスくんの手前、どうしても彼らの判断を糾弾せざるを得なかったのです。

 黒竜が野放しにされたせいで、イースベルク共和国の村が一つ滅ぼされたのです。それに私たちがリルルの陰謀に巻き込まれて共和国へ行っていなければ、下手したら共和国の騎士団が壊滅し、さらに被害は拡大していたかもしれません。

 共和国の偽勇者、クリヲトちゃんだって故郷を失い天涯孤独の身となりましたし、黒竜がボボロザ樹海へたどり着くまでにだって、多くの命が奪われたことでしょう。


 人族だって無責任なことはたくさんしてるわけだから、あんまりよその事をとやかくは言えないけどさ。それでも竜王という組織の長なら、責任ある決断をしてもらいたいものです。

 機会があったら、今回のロクスウォードへの協力の件も含めて、竜王さんにはちょっと責任を取ってもらいましょう。


 ……あと、それはともかくとして。


「ねぇ、なんかヴェヌスさんの怪我、治ってない?」


 そう、先ほど紫竜に吹っ飛ばされて血飛沫をあげていた竜人少女のヴェヌスですが、その身に纏う巫女服は破れ、ところどころに血が滲んではいるのですが……肝心の肌には、すでに傷一つ残ってはいなかったのです。


 私の疑問に気が付いたのか、ヴェヌスは「ああ」と得心いったように頷きました。


「竜族の中にもいくつか種別がございまして、わたくしの赤斑(せきはん)竜種は再生能力に特化しているのです」

「赤斑……?」


 赤い斑なんて、どこにも見当たりませんが……。赤い瞳のことを言っているのでしょうか?

 しかし私の予想とは大きく異なり、ヴェヌスは苦笑交じりに真相を教えてくれました。


「わたくしのこの姿は“白児(はくじ)”と申しまして、どんな種類の竜族にも稀に生まれて来る突然変異種なのです。全身真っ白な鱗や髪に、常時逆鱗の瞳。基本的に種族特性が少しだけ強くなる代わりに、病には弱く早逝だと言われています」


 ああ、要するにアルビノだったのですね。てっきりそういう白いタイプの竜種なのかと思いました。

 私が一人密かに納得していると、私を後ろからぎゅうぎゅう抱きしめているネルヴィアさんが、なんてことない風に感想を漏らします。


「なるほど、でも綺麗ですねぇ」


 それを聞いたヴェヌスは呆気にとられたように目を見開いて、ニコニコしたままのネルヴィアさんを見上げたまま固まってしまいます。

 ヴェヌスを近くでよくよく見てみれば、その綺麗な肌は微かに竜鱗を纏っていることがわかりました。そんな純白の鱗が仄かに赤く色づいて、彼女は俯いてしまいました。何その可愛い反応は。でも可愛さならうちの子たちも負けてない!


 そういえば彼女は“逆鱗の巫女”という役目を担っていると口にしていましたが、もしかしてアルビノの竜が“逆鱗の巫女”に選ばれるのでしょうか? それとも……


 私が物思いに耽っていると、不意に緋竜ボガルニアがその巨大な頭をピクリと上方へと向けました。


『む……風竜(ソピーディアス)が来たようだ』


 どうやら先ほどと同じく伝令用の竜にでも呼びに行かせたのでしょう、上空から緑色の鱗をした細身のドラゴンが飛んできて、ズシンと竜王の峰に降り立ちました。そしてまた紫竜と何事か話しています。


『気を付けろ、ヤツもまた風竜派のナンバー2と目されている実力者だ。それに知恵も回ると聞く』

「関係ねぇな。オレ様は負けない」


 ピリピリとした気迫を感じさせたレジィは、嗜虐的な笑みを浮かべながら二、三歩ほど進んで……

 それからくるっと踵を返して、早足で私の元へと戻ってきました。どったの?


「あ、あの……オレも勝ったら、ギュッとしてくれるか?」


 ……ああ、さっきネルヴィアさんが戻ってきた時、抱きしめて迎えてあげたのが羨ましかったのですね。あれは単に身体を温めてあげようとしただけなのですが。

 というか今も後ろからぎゅうぎゅう抱きしめたままですし、私の後頭部あたりで形を変えるネル山脈を見て、ルローラちゃんの目が死んでます。


「うん、いくらでもぎゅってしてあげるよ。怪我しなかったらね」

「……っ!! わかった、無傷でぶっ殺してくる!!」

「殺さないで?」


 ふんすと鼻息荒く宣言しながら、尻尾をぶんぶん振って戦いの場へと赴くレジィ。

 でも大丈夫でしょうか? レジィの爪や牙はドラゴンの鱗には通らないっていうのは、かつての黒竜との戦いで証明されています。聖鎖グレイプニルがある以上は勝機もありますが、相性がかなり悪い相手であることには変わりありません。

 まぁそれは相手にとっても同じことなので、引き分け以下にはならないと思いますが。


 しかしチラリと伺ったリュミーフォートさんは何も言わなかったので、彼女との特訓で何かを身に付けているのかもしれません。

 私はレジィの成長を見届けるつもりで、彼の背中を見送りました。


 まだ霜が降りて白く染まったままの火口中央で、小柄な獣人(レジィ)と巨大な風竜(ソピーディアス)が向かい合います。先ほどの戦いの結果を踏まえてか、緑の竜に油断の色は見られません。


『それでは『竜舞の儀』、第二の試合を執り行います。―――始めッ!!』



//次回は木曜くらいに更新の予定です。

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