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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第五章 【魔族領】
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2歳3ヶ月 3 ――― 獣王の陵墓



 『囁きの洞』に住む情報屋―――ついに最後まで姿を見せることのなかったその魔族によってもたらされた情報に従い、広大な魔族領を移動すること数日。

 砂漠や火山、毒沼など、多様性に富んだ過酷な環境を乗り越えた先に、その秘境は存在していました。


 私たち征伐隊の面々に加え、獣人族全員を引き連れた行軍。

 巧妙に隠蔽された洞窟の入り口を、事前に仕入れていた情報や獣人たちの鋭敏な感覚、そして私の魔法によるゴリ押しによってどうにか見つけ出すまでに約二日。ようやく侵入して、その細長い洞窟を魔法によって照らしながら歩き続けること一時間ほど。一体いつまで続くのかと にわかに不安を感じ始めた私たちは、それから間もなくして、ようやく迷宮のようなトンネルを抜け、かなり広大な空間に出ることができました。


 そこは一言で言い表すのなら、『黒水晶の森』でした。


 真っ黒で比較的均された地面から、黒い水晶のような構造体が剣山のように突きだしています。それはドーム球場のように広大な空間の内壁すべてを、上下左右に関わらずびっしりと埋め尽くしているようでした。


「綺麗……ですけど、ちょっと怖い場所ですね」


 私を胸に抱いているネルヴィアさんが漏らした言葉に、私は首肯します。

 この光景は一見すると、とても壮麗で幻想的です。けれども反面ひどく排他的で、水晶たちはその真っ黒な矛先を私たち侵入者に付きつけ、威嚇しているかのように思えたのです。


 数センチから数メートルにまでおよぶ黒い結晶体たちの中にあって、とりわけ目を引くのは中心にそびえる数十メートルはあろうかという超巨大な黒水晶でした。

 もはや巨大な大樹とでも言うべきそれは、その足元を大小さまざまな黒水晶に固められながらも圧倒的な存在感を放っています。


「ここが……『獣王の陵墓』」


 誰からともなく口にした言葉が、広大な空間へと吸い込まれていきます。普通こういった閉塞的な場所では声が響くものだと思ってしまいますが、これだけ広大な空間で、しかもびっしりと剣先のような水晶が生えている壁面で、反響するような音もないでしょう。


 私がこの非現実的な空間に圧倒されている間に、好奇心旺盛な獣人たちはそれぞれ勝手に散らばって、黒水晶を触ったり嗅いだりしながら興味深げに観察し始めました。


「こら貴様ら、勝手に動き回るな! 戻って来るのだ!!」


 アイルゥちゃんが真剣な声色で叫ぶと、獣人たちはちょっとバツが悪そうにしながらも戻ってきてくれました。

 ここは情報屋曰く“魔神の渦(ルミニテ)”と呼ばれる場所である可能性があり、またそういった場所には決まって“門番”なる罠や生物が配置されていることが常であるそうです。


 しかもこの場所には、獣人族の前族長を殺害したと目されている魔族(ヨナルポカ)がいる可能性もあり、これだけ無数の黒水晶が所狭しと生えている場所であれば、隠れる場所に困ることもないはず。いくら警戒したってし足りないほどの危険地帯なのです。

 そのため獣人たちには『勝手なことはしないこと』と強く言い含めた上で連れて来ているわけなのですが……やはりそこは魔族、どうにも自制心が弱いようです。


 「まったく……」と甲冑の兜の下で溜息をついているアイルゥちゃんの隣で、レジィはショートパンツを吊り上げている鎖型のサスペンダーを指で撫でつつ、巨大な黒水晶を睨んでいました。

 ちなみにこのサスペンダーは、以前私がレジィの誕生日プレゼントに贈った『聖鎖(グレイプニル)』という……白金色の輪っかから赤銅色の細い鎖が三方向に伸びている魔導具です。

 真ん中の輪っかは細い金属製で、チョーカーのように首に装着できるようになっています。取り外せば、微塵(ボーラ)という武器のようにも使えますが。


「なぁ……あそこ、なんか見えないか?」


 首のリングを撫でていたレジィはそう言うと、前方に指を向けました。

 彼の指先を視線で追えば、そこはこの広大な空間の中心、超巨大な黒水晶の根元のようです。私の頭上には光を発し続ける立方体が浮いているのですが、周りのみんなの目が眩んでしまわないように光量を絞っている関係で、その光はそう遠くまで届きません。

 そこで私は頭上の光を一旦消した後、今度はこの広大な空間の天井付近を指定して、広範囲に強い光を生み出しました。さながら日中の屋外みたいな明るさとなった洞窟内は、先ほどとは打って変わって遠くまで見渡すことができます。


 そしてその結果、レジィが指を差した先にいた“ソレ”が、ハッキリと私たちの前に姿を現したのです。


 さながら全身から漆黒の剣を無数の生やしたかのようなシルエット。

 その全長は四~五メートルにも及ぼうかという巨体が、黒水晶特有の光沢に覆われています。

 一見すれば、アイルゥちゃんのような黒い全身甲冑を着込んでいるようにも見えますが、その正体は全身から黒水晶を生やした不気味な巨人です。


 巨人はどこか虚ろなぎこちない動作で、全身から突き出る黒水晶同士が擦れ合う硬質な音を響かせながら、ゆっくりと立ち上がりました。

 もしかして、あれが噂の“門番”というヤツなのでしょうか?


 私はネルヴィアさんの腕からふわりと飛び出し、魔法を発動するトリガーをたくさん仕込んでいる金の首飾りに指を触れます。

 その周囲で、ネルヴィアさんは魔剣フランページュを抜剣し、レジィも深く腰を落として臨戦態勢に入りました。

 ケイリスくんにルローラちゃん、そしてリュミーフォートさんやロヴェロさん、ソティちゃんも、目の前の巨人を警戒して身構えます。

 さらにはアイルゥちゃんを筆頭とした十数名の獣人たちも牙や爪を露わにして戦いに備えました。


 当然、どこかに潜んでいるかもしれないヨナルポカへの警戒も怠らず、周囲の黒水晶や、今まで私たちが歩いて来た細長い洞窟にも意識は向けていたはずでした。


 これだけの実力者が油断なく万全な警戒態勢を取っていたのです。


 けれども―――黒水晶の巨人が立ち上がり、その瞳に不気味な紅い光を宿した瞬間。


「……なッ!?」


 この場にいる全員が、何の脈絡もなく―――突如として全身に、大小さまざまなダメージを負ったのです。



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