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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第五章 【魔族領】
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2歳2ヶ月 12 ――― 樹海の絵画



 ひとしきり勝手にはしゃいでいたオークたちは、やがて満足したのか元の配置へと戻って行きました。

 そして先ほどよりも露骨に生き生きしているオークキングが、恍惚の笑みを浮かべながら改造エロメイド服一式を差し出してきます。


「……え、なに?」

「さぁ姫君、こちらを! さぁ!」

「イヤだよ!? なに勝手に着る流れにしてるの!? 着ないよ!」


 私はド変態どもの視線からソティちゃんを庇うように抱きつつ、オークキングから距離を取りました。

 ソティちゃんはもう涙目になりながら、腰の短剣(ダガー)に手を伸ばしています。血の雨が降りそう。


 でも……実際問題、『黒い男』に関する情報は欲しいんですよね……

 私の勝手の都合でリュミーフォートさんやロヴェロさんを長いことお待たせしてしまっていますし、ここらで本来の目的に関しての情報が得られたら嬉しいというのは大いにあります。

 それに獣人族の前族長さんを殺害したという魔族だって、『黒い男』に関与していないとも限りません。むしろ関与を疑うべき条件はいくつも揃っているくらいです。


 こうなったらルローラちゃんを連れてくる? いえ、あんな未来に生きてる変態の心を読んだら、ルローラちゃんの心が穢れてしまいます。こいつらは存在自体が教育に悪いので、私の身内は誰も近づけさせたくありません。

 かと言ってソティちゃんに汚れ役を押し付けるのは気が引けますし、なにより……何故でしょうか。ソティちゃんにそんなことは絶対にさせたくないという、使命感のようなものが湧き上がってくるのです。


「頼む、逆鱗(シャータン)の姫君! いや女王様! いや女神様! どうかオレっち様たちに夢を見させてくれぇ!」

「いや、でも……いくらなんでもこれは……」

「絶対似合う! オレっち様が保障する! それにちょっとだけでいいんだ! ほんのちょっと! 先っちょだけ! 先っちょだけだから!!」

「似合うとか、ちょっとだけとか、そういう問題じゃなくって……」

「この通り! この通ぉ~~~りッ!!」


 ついにオークキングは、その細長い身体を折りたたんで平伏し、何度も何度も地面に額を叩きつけ始めました。え、そこまで? そこまでしちゃうの?

 なんかここまでお願いされて断るのは、ちょっと気の毒な感じもしてきたような……それに心なしかこいつ、前世の後輩にちょっと似てて複雑です。


 うぅ……うぅぅぅうう~~~ん……。



「………………ちょっと、だけなら……」



 苦渋を滲ませながら絞り出した私の声に、真っ先に反応したのはソティちゃんでした。


「ちょっ、お……セフィリアちゃん!? なに言ってるの!? 正気!?」

「……不本意だけど、でも情報は欲しいし。せっかく終わらせた戦争を、また始めさせるわけにはいかないよ…………私がちょっとガマンすれば、いいんだし……」


 そう言うと私は、オークキングの元へ足早に歩み寄り、彼の手からビキニもどきをひったくります。

 それから表情を輝かせているオークキングに、私は両目を限界までかっ(ぴら)きながら睨み付け、


「私がここまでするんだからね……くだらない情報だったら、ほんと、マジで、冗談抜きで、ただじゃ済まさないよ……生きたまま脊椎を引っこ抜いてやるから」

「お、おぅ……いや、良い情報だとは思うぜ……?」


 ほんとお願いしますよ? 私がちょっと勢い余ったら、それだけでこの樹海は大陸から消滅するんだからね?

 しかし思いっきり殺気(まりょく)を叩きつけても前言を撤回しなかったところを見るに、どうやらオークキングにとっては本当に良い情報だと考えているのでしょう。今はこいつを信じるしかありません。


 私はソティちゃんの隣まで戻ってくると、改造エロメイド服のサイズをおおまかに確認します。

 ……くそっ、サイズぴったりだ! なんでだよ!


「セ、セフィリアちゃん、ほんとに着るの……?」

「うん……できればソティちゃんは、あっち向いててくれないかな……」


 かなり心配そうに、恐る恐る声をかけてくるソティちゃん。その表情は、たくさんの感情がドロドロに混ざり合った複雑なもののように見えます。

 私はかなりの抵抗を感じつつも、しかしどうにか彼女を心配させないように笑みを貼りつけました。


 実際、こんな服を着られるのは多分私だけしかいないと思いますしね。

 私には前世の記憶があり、そして前世の海やプールでは、この程度の露出はわりと普通でした。

 この世界の人たちにとってはかなり過激な露出度だというのはわかっていますが、しかし私にとってはそこまで大したことではありません……ということにしておきましょう。


 ここが樹海で、周囲には舐め回すような視線を送ってくる変態共がいるという状況はかなり苦痛ですが、ガマンです。

 ここは真夏のビーチ、周囲には水着の人たち……よし、やってやる!


 私は魔法で周囲に真っ黒な立方体を出現させて、擬似更衣室を生み出しました。

 光の出入りを遮断する漆黒の立方体の中で、手のひらから生み出した光源を頼りに服を脱ぎ去り、ビキニメイド服に袖を通します。袖なんてないけど。

 外に衣擦れの音が漏れているのか、周囲のオークたちから「オォォ……!」というどよめきと共に、荒い息遣いが聞こえ始めました。くそぅ、音も遮断しておけばよかった。


 一応、着替えは終わったのですが……えっ、着替えておいて何だけど、この格好やばくないですか?

 こんなんで人前に出るの? 何かの罰ゲーム? 私が一体なにをしたって言うのでしょうか。


 でも、ほんの一瞬だけ! ちょっとだけガマンすれば、得難いものが手に入るのです。

 それに地を這う尺取虫(しゃくとりむし)に裸を見られようが、気にする必要なんてありません。どうしても気になるのなら、プチっと潰してしまえばいいのですし。

 よしオッケー、覚悟完了! 行けます!


 私は念のために下着類を外套で包んでから、更衣室としていた黒い空間からひょこっと顔だけ出しました。


「あの……着替えたケド……」


 私が控えめな声量でそう言うと、さっきまで馬鹿騒ぎしていたオークキングたちは居佇まいを正し、スッ……とその場で静かに正座しました。

 そしてオークキングは、悟りでも開いたのかと問いたくなるくらい静謐で厳かな表情を浮かべて、


「いつでもどうぞ」


 と、先ほどまでの下品なしゃがれ声とはまったく違う、武士か何かのように粛々とした声音で促してきました。


 これはこれでやりづらいわっ!


 ……という叫び声をグッとこらえながら、私はすぐ近くであわあわしちゃってるソティちゃんに、「ちょっとあっち向いててくれない……?」とお願いしました。

 旅先での恥はかき捨てと言いますが、ソティちゃんとはまだしばらく一緒にいると思うので、こんな姿を見られるのは非常に恥ずかしいのです。

 私のお願いに頷いてくれた彼女が、両手で顔を覆いそっぽを向いてくれたのを確認して、私は小さく深呼吸をしました。


 ありえないくらい心臓が暴れまくっているのをどうにか堪えながら、やがて私はそっと足を踏み出します。


「…………ツ!!」


 周囲のオークたちが息を呑む気配が伝わってくる中、私は両手で身体を抱いて、なるべくオークたちの視線から身を守ろうと悪あがきしました。


 薄暗い樹海とは言え、衣類で隠されていない肌が日光や外気に晒されているという状況に、血液が顔に集まるのを感じます。

 ここはビーチだ、と自分にどれだけ言い聞かせても、鬱蒼と茂る周囲の深緑がそれを邪魔して、私を現実に引き戻してくるのです。


 あと、ついさっき私から視線を逸らしてくれたソティちゃんが、顔を覆った両手の指の隙間から、ちらちらとこちらを窺っているのが視界の端に映っています。話が違う。

 耳まで真っ赤にしてじたばたしているソティちゃんは、「うわわっ、どうしよう! すっごいイケナイもの見ちゃった……! ごめんなさいおとーさんおかーさん!」などと小声で騒いでいました。


 首から上がかなり熱くなっている私は、対照的にとても落ち着き払った表情で微動だにしないオークキングへと叫びます。


「もっ、もういいでしょ!? もう着替えるからね!?」

「例の『黒い男』はッ!!」


 するとそこで、オークキングはその大きな目を“クワッ!!”と限界まで見開くと、突然大きな声を発しました。

 驚いて固まる私に構わず、オークキングは正座を崩して胡坐をかくと、とても真剣な目つきで語り出しました。


「いいか、例の『黒い男』は……知っちゃいるとは思うが、仲間を集めてやがる。その多くはおそらく魔族で、それも戦争が終わったことに納得がいってねぇアホ共だ」


 なんとなく着替えるタイミングを逃してしまい、私は立ち尽くしたままオークキングの説明に耳を傾けます。

 オークキングは真剣な表情で腕を組みつつ、続く言葉を紡ぎました。


「『黒い男』は神出鬼没にいろんな場所へ姿を現しやがるが、特に魔族の間でも実力者とされるような連中を中心に声をかけて、仲間に引き込んでるらしい」


 そこまでは、私もエクスリアやネメシィに聞いて知っていることです。

 もちろんこれは『良い話』ではなく大前提のお話だったらしく、オークキングは続いて、衝撃の事実を口にしました。


「じつはな……このボボロザ樹海にも、ソイツが現れたのさ」

「えっ!?」


 思わず驚きの声をあげた私に、オークキングは少し満足げに口角を吊り上げます。


「キヒヒヒ、これでもオレっち様はそれなりに有名なんだぜ? ま、オレっち様の場合、個人の能力ってよりは統率力が評価されてるわけだがな。樹海(ここ)に来やがったあの黒竜だって、こっちの被害を覚悟すりゃあ、勝つ算段だってあったんだぜ」


 ……たしかに、魔族は根本的なところで個人主義な面が強く、好き勝手やりたがる個体が集団の中に一定数存在します。

 たとえば獣人族でも、戦闘に際してレジィやアイルゥちゃんがいくら指示を出そうと、みんなが指示通りに動いてくれるとは限りません。まぁ、指導者や統率者といっためんどくさい立場を取りたがる魔族が、そもそも極めて稀ということもあるのでしょうが。

 だからこそ、オーク族を完全に支配し統率しているのだというオークキングは、魔族の中ではかなり稀有な存在なのでしょう。


 すると、オークキングは何やら小さな梯子のような道具を取り出し、そこへ白い板を立てかけました。それはまるで芸術家が絵を描くときに使う、キャンバスのようです。

 というかキャンバスそのものだったらしく、彼はさらにどこからか筆のようなものを取り出して、絵を描き始めたみたいでした。


「その『黒い男』は……“ロクスウォード”と名乗ってやがったぜ。本名かどうかは知らねぇが」

「……ロクスウォード」

「普通の人族には見えなかったが、ありゃ魔族でもねぇな。かと言って耳の形を見る限りじゃエルフ族ってわけでもなさそうだったし、獣人族でもねぇ。しいて言うなら、人族が一番近いと思うぜ」


 オークキングが言うには、その男―――ロクスウォードは浅黒い肌にくすんだ銀色の髪を備え、上半身はネックレスしか身に纏っていなかったそうです。下半身には、見たこともないような幾何学模様の意匠が施された腰布と、それから(とび)職人みたいなダボダボのズボンを穿いていたとのこと。なんかアラビア風味ですね。

 スラリと長い、しかし無駄なく筋肉の乗ったしなやかな手足は、常識外れの膂力を備えているらしく、樹海を巡回していたオーク族五体を一方的に、しかも素手で叩きのめしてしまったそうです。たしかにそれは普通の人族とは言えませんね。


「しかも……ここからが重要だぜ。姫ちゃんにとっては、特にな」

「姫ちゃんって……えっ、私?」

「おうよ。どうやらヤツにゃあ、魔法や開眼(シャンテラ)の類が通用しねぇらしい」

「!」


 そういえば、イースベルク共和国の『リバリー魔導隊』が黒い男(ロクスウォード)を追走していた時、男の周囲では一切の魔法が使用できなくなったという報告がありました。

 そのことをオークキングに伝えると、彼はキャンバスに筆を走らせる手を一切止めずに、「オレっち様の開眼(シャンテラ)も通じなかったぜ」と言いました。

 えっ、オークキングも開眼(シャンテラ)を使えるんですか? 初耳です。


「だがありゃあ、確実にトリックがあるぜ。ヤツ自体の能力じゃねぇはずだ」

「どうしてそう言い切れるの?」

「じつを言うとな、あの(にっく)きアペリーラのヤツが姿を消してやがるのは、ロクスウォードの誘いに乗ったからなんだよ」

「!!」


 なんでも、オークキングが黒い男(ロクスウォード)の誘いを断った翌日から、アペリーラの姿を見かけなくなったそうです。そしてそれから約一ヶ月後、突然オークキングの前に姿を現したアペリーラが襲いかかってきました。

 その時アペリーラは開眼(シャンテラ)を無効化する妙な能力を備えていて、しかもあちらは一方的に開眼(シャンテラ)を使用することができるらしく、オークキングはかなりの苦戦を強いられたのだとか。


 もともとオークキングは戦略的に数の利で追いつめるタイプの戦闘スタイルの上、開眼(シャンテラ)もあまり戦闘向きのものではないとのこと。だからこそ、辛うじてアペリーラを撃退することに成功したそうです。

 「こっちもタダじゃ済まなかったけどな」と言いながらオークキングがシャツをめくると、そこには痛々しい傷痕がいくつも刻まれていました。それも、かなりの深手に見えます。


「このオレっち様の経験からするとだな。個人差はあるのかもしれねぇが、無効化範囲はだいたい……今のオレっち様と姫様との距離の、ちょうど倍くらいってところか」


 私とオークキングは、現在五メートルほどの距離を開けて話しています。となると魔法無効化範囲は約一〇メートルってところですか。

 さらにオークキングによると、上方向や下方向にも等しく“一〇メートル”とのことです。

 でもリバリー魔導隊の話を聞くに、もうちょっと範囲が広いと思っていたのですが……


「……ねぇ。もしかして、そのロクスウォードとかアペリーラは、変な黒い岩を抱えてなかった?」

「岩ぁ? いやいや、そんなもん抱えてたら、さすがに戦えねぇだろうぜ」


 う~ん、そりゃそうか。黒い男(ロクスウォード)が最初に遺跡から現れた時、大きな黒い岩を抱えていたって話だったから、それが何か関係しているのかと思ったのですが。

 しかしそこでオークキングは、熱心に動かしていた筆を一瞬だけ止めて、「あっ」と声を漏らしました。


「岩じゃねぇが、ロクスウォードのジャラジャラした首飾りの一つに、小さな黒い鉱石みてぇなのがくっついてたな。光沢もなかったし、間違いなく宝石の類じゃなかったぜ。金ぴかな宝飾の中で、明らかに浮いてやがった」

「!」

「言われてみりゃ、アペリーラの奴がしてた指輪についてた石、あれも宝石じゃなくて黒い石だったか……? いや悪い、こっちは自信がねぇな。暗かったしわからねぇ」


 もしも例の黒い岩が魔法無効化の魔導具かなにかで、それを砕いたり削ったりしたものにも同じ効果が現れるのだとしたら……

 私の立てた仮説に、オークキングは「無視はできねぇ可能性だな」と首肯しました。


 仮にその黒い石の質量と無効化範囲が比例関係にあるのであれば、怪しい岩には近づかないほうが良さそうです。

 私が内心でそのようなことを自戒していると、オークキングも心配そうに眉をひそめながら似たような指摘をしてきます。


「オレっち様が気にしてんのはそこだぜ。姫ちゃんはそりゃあ他の追随を許さねぇくらい強ぇんだろうが、それでもその石をこっそり仕掛けられてたり、遠くから投げ込まれただけで、何もできなくなっちまうんじゃねぇか? 魔法無しでオレっち様に勝てるか?」

「……まぁ、無理だろうね」

「もしもオレっち様が敵の誘いに乗ってて、その黒い石を分けてもらってたとしてだ。今日、悪意を持って姫ちゃんを迎えてたら、どうなってた?」

「……」


 魔法だけが取り柄の私のことですから、為す術なく捕まっていたことでしょう。

 この変態(オーク)連中(たち)が悪意を持って私を捕まえたとなったら……うぅっ、背筋に悪寒が!


「だからそういう要素まで含めて、オレっち様は“紳士”だって言ってんだぜ?」

「……う、うん。まぁ、その辺りはちょっと感謝しとくよ」

「それに結構いい情報だっただろ?」

「そうだね。これでこれからの対策が立てられるよ。えっと、ありがと」

「なかなか有意義で紳士的な時間だったよな?」

「ふふ、まぁそうかもね」

「じゃあちょっとおへそペロペロさせてくんない?」

「あんま調子のんなよ変態」

「はい」

「殺すぞ」

「はい」


 私は深々と溜息をつくと、その動作の一環で視線を少し足元へと向けます。

 そして今の自分のあられもない服装が視界に入って、「はひゃうっ!?」と変な声を出してしまいながら自分の身体を抱きました。は、話に集中し過ぎて忘れてた!


「も、もういいよね! じゃあ私、着替えるから!」

「おう、もういいぜ! ちょうど今終わったとこだからな!」

「は?」

「あっ」


 機嫌よく筆を片づけていたオークキングを振り返ると、彼は「やべっ」みたいな表情を浮かべながら、顔色を真っ青にさせました。

 ちょうど今、終わった? なにが?


「ねぇ……そういえばさ、なんかおもむろに絵を描き始めてたみたいだけど……なにを描いてたの?」

「え、いや、これは……ですね……ええと、そう! ロクスウォードがどんな姿をしてたかを描いてたわけでして!」

「じゃあ見せて」

「え?」

「ロクスウォードがどんな姿をしてたのか気になるから、見せて。私に見せるために描いてたんでしょ?」


 私がジッとオークキングに視線を向けていると、彼の顔から水あめみたいにねっとりした汗がボタボタと流れ出します。


「……いやっ、あの……ちょっと失敗しちゃったかなぁ~って……だから書き直しても良いですかね? ほらオレっち様って完璧主義だから? 中途半端な作品は見せられないって言うかそういうのは芸術家としてのポリシーに反するっていうか? 敬愛する姫ちゃんにお目汚しさせちまうのはこちらとしても大変不本意なわけでございまして……」


 ごちゃごちゃ言ってるオークキングを無視して、私は魔法で瞬時にオークキングの目の前へと移動し、キャンバスを覗き込みました。


 そこに(えが)かれていたのは、改造エロメイド服を着て恥ずかしそうに、けれどもいじらしく頬を上気させながら、潤んだ瞳を上目遣いにさせてこちらを見上げる、私の姿でした。

 その表情は愛する恋人との逢瀬を思わせる色香を漂わせると同時に、それでいてまだ開花しきっていない無垢な少女らしさも内包しているかのよう。

 想像を絶するほど精緻にして写実的な、それでいてどことなく幻想的かつ神秘的なタッチが混在するその絵は、彼の恐るべき美的センスと被写体に対する並々ならぬ執念を証明しています。


「……絵、とっても上手なんだねぇ?」

「お、おうよ! オレっち様はこう見えて手先が器用でな!? 実を言うと姫ちゃんが今着てる衣装もオレっち様が手ずから仕立てた作品で、また姫ちゃんがここを訪れてくれた時のために用意しておいたものなんだぜ!?」

「……そう。それはすごいねぇ」


 キャンバスを覗き込んでいた私が、ゆっくりと振り返ると……恐怖を筆頭としたあらゆる負の感情をその顔で表現するオークキングが、汗でびちょびちょになりながら後ずさりしているところでした。


「じつは私も絵は得意なんだぁ。良かったら私の作品も見てくれないかな?」

「あ、あはは!? いやぁ見たいのは山々なんだがついさっき絵の具を切らしちまってよ!? だから今日のところは心苦しいがお引き取り願っ―――……」




「お前が絵の具になるんだよ」




 その日、ボボロザ樹海に“地獄絵図”が描かれたのでした。




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