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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第五章 【魔族領】
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2歳2ヶ月 7 ――― リルルを追って



 お昼過ぎ頃、獣人族の里まで一旦戻ってきた私たちは、大きな馬車のリビングにあたる部分で、ケイリスくんやロヴェロさんが作ってくれたという昼食を頂いていました。

 ちなみにレジィを除く獣人族は全員、狩りに出かけているそうです。


 私はケイリスくん特製の幼児食を口に運びながら、オーガ族の集落における聞き込み調査(物理)の収穫がなかったことを報告します。

 それと同時に、今後新たな調査対象として挙がったリルルについても言及しました。


 リルルの話になった途端、ロヴェロさんの目つきが少しだけ剣呑な光を宿します。


「そのリルルというのはもしや、かつて帝都でセフィリア様を襲撃したという者でしょうか?」

「はい、そうですね。くろいおんなのこです」


 私は余計な混乱を生まないよう、リルルがエルフ族だというのは意図的に秘匿しています。

 なのでエルフ族の事情に精通していない人たちは、リルルを人族だと認識していることでしょう。


 かつて共和国でリルルと顔を合わせたことのあるネルヴィアさんは、当時のことを思い出したのか不愉快そうに目を細めます。ケイリスくんもポーカーフェイスこそ崩さなかったものの、決して良い感情は抱いてなさそうです。

 そんな雰囲気を敏感に感じ取ってしまったルローラちゃんは、申し訳なさそうに顔を伏せています。


 リルルの捜索をすることについては、特に反対意見が出ることはありませんでした。

 ロヴェロさんは「混乱の種を放置しておくことは危険ですので、積極的に捜すべきかと思います」と同意してくれましたし、リュミーフォートさんもいつものように「そう」とだけ言って承諾してくれました。もう全部私の好きなようにやらせてくれるつもりなのでしょうか。

 食事中はさすがに空中に浮いていないソティちゃんも、かなり育ちの良さそうなテーブルマナーを披露しながら、「うん、いいと思うよ~」と同調してくれます。


 リルルに関する調査の承諾は得られましたので、今度はボボロザ樹海へ向かう件についての話を切り出しました。


「とりあえず、わたしひとりでいってこようとおもいます」


 消去法で最も合理的な意見を出した私に、しかし周囲の視線は冷ややかでした。


「たしかにセフィ様はお強いですが、慣れない敵地で単独行動は危険ではないでしょうか……」

「そうだぞご主人。ご主人は強すぎるせいで油断しすぎだ。警戒心ってもんが無さすぎる」


 おっと、私の身内から思わぬ苦言を呈されてしまいました。

 しかしみんなにはわざわざ伝えていませんでしたが、私にはエクセレシィと戦うにあたって開発した防御呪文があります。なのでよっぽど特殊な能力でもない限りは大丈夫だと思うのですが……


 それに獣人族全員を引き連れて移動するとなると時間がかかってしまいますし、あまり大人数で押しかけては相手を警戒させてしまうでしょう。何よりオーガ族の時みたいに無駄な戦闘をするなんてのは御免です。なので獣人族をここに残すというのはまず確定。


 そうなるとリュミーフォートさんという最高戦力を連れて行くのは、残されたメンバーの安全を考えると得策とは言えません。そしてリュミーフォートさんに残ってもらうのなら、その付き人であるロヴェロさんも必然的に残ることとなるでしょう。


 ケイリスくんを敵地のど真ん中に連れて行く理由はありませんし、ルローラちゃんを連れて行くのは今回に限っては少し抵抗があります。

 もし誰かを連れて行くとなると、ここはネルヴィアさんでしょうか? でも人見知りだしなぁ。


「じゃあ、私がついてくよ!」


 私があーでもないこーでもないと悩んでいると、そこへソティちゃんが快活な声を響かせました。

 私を含めたみんなの視線を集めながら、彼女はケイリスくん曰く「完璧」だという作法で食事を終えて、宙にふわりと浮かび上がりました。


「そのなんちゃら樹海っていうのが遠いのが問題なんでしょ? だったら私も移動魔法くらい使えるし、二人でバーって行ってジャーって帰って来ちゃおうよ」


 なんとも頭の悪そうな擬音語を披露してくれたソティちゃんは、困惑する私ににっこり微笑むと、


「私なら戦えるし、それに嘘を見抜くのも得意だよ? 油断もしないしね」


 そう言って、薄い胸を張るソティちゃん。そんな彼女の言葉に誰も異を唱えないということは、彼女の言葉が口だけじゃないことをみんなが認めているということでしょうか?

 ネルヴィアさんとかレジィは、相手を見ただけで力量をなんとなく感じ取ることができるそうですが……私はそういうの、全然ダメなんですよねぇ。だからソティちゃんが強いのか弱いのかもよくわかりません。


 本来なら素性も知らない魔術師と二人っきりになるのは危険なのでしょうけど……でも、なぜか不思議とこの子が私に敵対するイメージが湧かないんですよね。……って、こういうところが「警戒心が無い」って言われる由縁なのでしょうか?


 まぁ、万が一ここで二人っきりになったことで本性を現すようなら、逆に対処しやすくて助かります。

 ここは彼女の思い通りにさせてみるのも一興でしょう。


「うん、わかった。じゃあわたしとソティちゃんのふたりでいこう」


 私がそう言うと、ネルヴィアさんたちは少し心配そうな表情を浮かべますが……しかし他人の心情に敏感なルローラちゃんが何も言わないのを見て、口に出しかけた言葉を飲み込んだようです。

 私は仲間たちを安心させようと微笑みかけてから、ソティちゃんに向き直ります。


「それじゃあじゅんびしてくるから、ちょっとまっててね」

「は~い」


 それから私はボボロザ樹海へ向かうにあたって必要な、ある準備に取り掛かるのでした。



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