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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第五章 【魔族領】
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2歳2ヶ月 6 ――― 新たな光明



「ちっ、結局何にも手がかりがなかったな。こうなったら近くの魔族を片っ端からぶっ飛ばして、話を聞くっきゃないか」

「いや、ぶっとばさなくていいから……レジィはたたかいたいだけでしょ?」


 オーガ族の集落から離れた森の中を走るレジィがまた物騒なことを言い出したので、早めに釘を刺しておきます。

 私の指摘にレジィは「バレたか」みたいな顔をしていたので、やっぱりさっきオーガ族を挑発してたのは、単に戦いたかっただけなのでしょう。こいつめ。


 行きはアイルゥちゃんが私を背負っていたので、帰りは自分が抱っこするんだとレジィが駄々をこねたため……現在、私の顔のすぐ近くにレジィの顔があります。

 なので私はレジィのほっぺをギューっとつねってやると、レジィは「(いふぁ)(いふぁ)い」と言いながら嬉しそうな表情になりました。これは逆効果ですね。


 するとそこで、黒い甲冑の中からアイルゥちゃんがくぐもった声を響かせました。


「しかし、完全に手がかりが途絶えてしまったな……これでは本当に、レジィの言う通り地道に話を聞いていくしかないのではないか?」

「いや、手がかりならあるよ」


 アイルゥちゃんに背負われていたルローラちゃんが、俯きがちになりながらそう告げました。

 驚いて彼女へ視線を集中させた私たちに、ルローラちゃんはその表情を長い金髪で隠すようにしながら、その手がかりを口にします。


「前族長さんが殺されたすぐ後、レジィに接触してきた人がいたでしょ」


 そのルローラちゃんの指摘から一拍遅れて、レジィが「ああっ!」と大声を上げます。


「そういや、あの女……! リルル……とか言ったっけか? うちの前族長が殺されてみんなが沈んでた時、オレ様に会いに来たぞ!」


 その話は、もちろん私も把握しています。レジィからも、リルル本人からも聞いていたことですから。


 前族長を殺されて、しかもその犯人がおそらく魔族だという話になって、獣人族はこれからどうするのか、身の振り方に悩んだそうです。

 このままここにいても、人族と魔族の両方から命を狙われるのだとしたら、そのどちらとも面している獣人族の里は、あっという間に全滅してしまうでしょう。ましてや、敵は獣人族で最も強い部類の前族長を殺しているのですから。


 その混乱の中で、レジィは黒い髪をしたエルフ族の少女……リルルと出会いました。

 不気味な雰囲気ながらも物腰穏やかで、とても腰の低いリルルの話を、レジィは気まぐれに聞いてみたそうです。

 リルルが言うには、魔族の中には魔族を殺そうとする輩も少なからず存在しているらしく、そういう輩は非常に狡猾で、どれだけこちらが警戒していても卑怯な手でこちらの命を狙ってくる。奴らに目を付けられたのだとしたら、今後も次々と被害者は出続けるとのこと。


 それを防ぎたいのであれば、もはや人族に寝返るしかない。

 敵を殺さないことで有名な、戦神『鍛錬(バルビュート)』……つまりリュミーフォートさんですね。彼女と戦って、もしも勝てれば魔族内でも絶大な支持を得られ、負けたとしても大人しく降伏して軍門に下れば、魔族の情報を餌にして優位に立ち回れるはず。

 今、鍛錬(バルビュート)は帝都にいる。獣人族に次の犠牲者が出る前に、決断をしなければならない。

 ……と、そんな論法でリルルに唆されたレジィは、単身で帝都を目指し獣人族の里を後にしたのです。


 リルルの目的は獣人族最強のレジィに帝都を襲わせて、私に被害を与えることだったのでしょう。当時、リュミーフォートさんは帝都になんていませんでしたしね。

 しかし残念ながら、レジィの仲間たちが勝手に追いかけて来て騒ぎを起こしたせいで、獣人族が帝都に接近していることが早い段階で察知されてしまい、そこから私に壊滅させられたわけですが。


 そしてこの話の要点となるのは、リルルがレジィを唆したタイミングが、あまりにも狙い澄ましているところです。

 偶然かもしれません。

 しかし、偶然でないかもしれません。

 かつてリルルは、黒いドラゴンに共和国の小さな村を滅ぼさせたことがあります。……実際には、宗教街(ルーンペディ)という大きな街が丸ごと滅びそうだったのを知って、その目標を小さな村に変更させたというのが正確な経緯ですが……


 それと似たようなことを、今回の件でもやったのでは?

 いえ、今回は獣人族を帝都へ向かわせるという目的のために、意図して他の魔族に獣人族を襲わせたという可能性もあります。


 と、こういった最悪の可能性はルローラちゃんも考えているのでしょう。

 獣人族にとっての怨敵ともなれば、次に見つかった時ただで済むとは到底思えません。

 あんな面倒な事件ばかり起こす小物でも、ルローラちゃんは肉親の情をしっかりと持っているようです。そうでなければ、あんなに辛そうな顔はしないはずです。


 それでも、リルルに疑いをかけるようなことを自分から言いだすというのは、ちょっと意外でした。

 いえ、そうでもないのでしょうか? そういえばルーンペディでも率先してリルルを捕まえようとしていましたし、彼女がリルルの悪行を肯定するような言動をしたことはありません。

 他の誰かに捕まって悲惨な末路を迎えるくらいなら、自分の手で処断したいということなのでしょうか?

 まぁ、それはいいか。


 私は俯くルローラちゃんに視線を向けます。


「じゃあ、リルルをさがしてはなしをきくってことでいい?」

「……うん。もしかするとあの子が今回の件に関与しているのかもしれないし、そうでなくても何か情報を握っている可能性はあると思う」

「だけどどうやって? リルルがどこにいるか、ルローラちゃんにはわかるの?」

「いや、全然」


 私の問いにあっさりと首を横に振ったルローラちゃんは、出来の悪い生徒を教える先生のような口調で続けます。


「でもそれだったら、わかりそうな相手に話を聞いてみればいいんじゃないかな?」

「わかりそうなあいて?」

「あの子はよくわからない人脈を持ってるみたいだからね。少なくとも、ボボロザ樹海の二大魔族と交流があったことはハッキリしてるよ」

「あ、そっか」


 かつて私たちが黒竜と戦った、あの樹海。あそこを治めていたオーク族のオークキングと、吸血女帝とか呼ばれてたアペリーラって魔族。あの二人なら、リルルに関する情報を何か持っているかもしれません。

 あの黒竜との一件でリルルを見限っていたようですから、今さらリルルに義理立てして情報を出し渋るようなこともないと思いますし。

 それにリルルに関してだけじゃなくて、魔族領での怪しい動きなどについても話を聞けるかもしれません。

 もう二度と御免だと思っていましたが、あの樹海に行ってみる価値はあるかもしれません。


「とりあえず、それについてはみんなにそうだんしてからにしよう」


 ひとまず今回の調査の結果を持ち帰ったうえで、リルルに関してみんなと話し合ってどうするか決めましょう。

 ボボロザ樹海は多分ここからだと結構遠いので、行くとなれば私一人でってことになるかな?

 それなら他のみんなには別のところを調査しておいてもらうのも良いかもしれません。


 高速で背後へと流れていく森の木々たちを視界の端で見送りながら、私はレジィの腕の中でこれからのことについて思いを馳せるのでした。



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