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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第四章 【帝都魔術学園】
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2歳1ヶ月 2 ―――自治区・アルヒー山脈



 ベオラント城の謁見の間にて行われた叙爵式を無事終えると、私は城下で街の人たちに祝福されながら逆鱗邸へと戻りました。それからお父さんやお母さんを始めとした身内のみんなからも、改めてお祝いの言葉を頂きます。


 屋敷で昼食を済ませて午後になると、再び登城して次なるパーティに備えます。普段は舞踏会などに使われているらしいパーティ会場は、たくさんの食事や人で溢れていました。

 このパーティの主旨は……なんと私の生誕祭なのです。ちょうど良いからって、わざわざ叙爵式の日程を調整してまで一緒の日にお祝いをしようってことらしいです。めっちゃウキウキしながら日程を調整する陛下の顔が目に浮かびます……


「はぁ……はずかしいから、ひっそり祝ってくれればいいのに」


 次々と私の元を訪れる貴族たちのおべっかや祝いの言葉に愛想笑いを返しながら、私はげっそりと呟きました。

 するとそれを耳聡く聞きつけたのは、リスタレットちゃんを伴って近くまで来ていたクルセア司教です。


「そういうわけにもいきませんわ。貴方様は魔導師や公爵閣下である前に……勇者様なのですから」


 いつものぽわぽわした話し方を引っ込めた“司教モード”な彼女の言葉に、私はますます肩を落としました。そういえば私、勇者ってことになってるんでしたね。

 そんな私の反応にニッコリと微笑むクルセア司教は、さも当然といった口調で、


「もちろん、勇者セフィリア様の生誕をお祝いしたいと思っているのは、ここに集まる貴族たちだけではございませんわ。修道士たちは当然として、市井(しせい)の民も祝いの言葉を捧げたいと思っております」

「……そーですか」


 このベオラント城と逆鱗邸を行き来する最中、たくさんの人から「おめでとうございます!!」って言われましたが……あれって叙爵のことじゃなくって、誕生日のことだったのかも?

 やれやれ、これが終わってもすぐ帰宅というわけにはいかないようです。


「……みんなに、プレゼントは“しょくぶつのたね”がいいって、つたえておいてもらえませんか? ひとり一粒で」

「ふふっ。了解致しました」


 これだけたくさんの人から祝われて、もしもお誕生日プレゼントが殺到したら……ただでさえ満杯になりつつある“貢ぎ物部屋”からも溢れて、逆鱗邸がプレゼントで埋め尽くされます。

 ならば消え物が嬉しいのですが、それで食べ物なんて送られても困ります。ケイリスくんが全部毒味しようとするでしょうし、そもそも私たちはすぐに魔族領へ旅立つので食べられません。全部腐ります。

 その点、植物の種なら保存が効きますし、たくさんありますし、かさばらないし、単価はタダ同然。誰にとっても優しい選択と言えましょう。


 いろいろと気苦労は絶えませんが……でも誰にも祝ってもらえなかった前世に比べたら、贅沢な悩みというものです。これだけたくさんの人に誕生を祝ってもらえるだなんて、素敵なことじゃありませんか!

 そんな風に無理やりポジティブな結論を捻り出した私は、周囲に聞こえないように小さく低い声でクルセア司教に囁きます。


「……生徒たちのこと、よろしくおねがいしますね」

「お任せください、私も陛下も心得ておりますわ。セフィリア様の生徒、ご家族、同郷の者は、この帝国にとって最優先保護対象でございますから」


 私の関係者というだけで狙われることもあるでしょうし、ましてや生徒たちは魔術師の力も手にしています。悪意や害意がなかったとしても、利益のために彼らを利用しようとする者もいないとは言い切れません。

 だからこそ私が遠出して帝都に目が届かなくなるこのタイミングは、大変危険です。是非とも皇帝陛下や大司教には、目を光らせておいてもらいたいものです。


 本当であれば魔術師認定を受けた魔術師たちは、帝国軍人として魔術師団に入り、先輩魔術師と現場研修(OJT)を重ねて実力を高めていくそうなのですが……

 私の願いと陛下の厳命でもって、彼らには一切の戦闘行為を行わせないという約束が取り交わされています。なので彼ら生徒は引き続き、私の管理下に置いておくことができたのでした。まぁ、表向きは戦争も終わったことですしね。


 やがて私のお誕生日パーティ……いつの間にか『勇者生誕祭』なんていう仰々しい雰囲気が醸されつつあるこの会も、いよいよ大詰めのようです。

 遅れて会場に姿を現したヴェルハザード陛下は、魔導師様たちを伴いながらホール前方の段上から歩いてきました。

 帝国最強クラスの三人を背後に従えた陛下の金色の瞳からは、見る者に絶対的な畏怖を抱かせるカリスマ性が溢れています。


 仮にも主役である私はその近くに立っていたため、すぐに陛下と目が合います。

 私を含めた会場の全員がすぐさま陛下に跪く中、陛下は「良い」と苦笑交じりに起立を促しました。


「貴様の誕生を心より祝そう、セフィリアよ」

「ありがたきおことば、かんしゃいたします」

「そう他人行儀に振る舞うでない。余が“ベオラント姓”を与えたことの意味、よく考えるが良い」


 そう言って優しげに目元を細める陛下は、とても上機嫌なようです。やっぱり今日の陛下はなんかちょっとおかしい気がします。

 ベオラント姓を与えられたということは、つまり陛下と同じ苗字を得たということです。なんかそれって、まるで結婚して家庭に入るみたいですね。……いやまぁ実際は、帝都ベオラントに、ひいてはヴェリシオン帝国に忠義を尽くせよって意味で言っているんでしょうけどね。


「さてセフィリアよ。先ほど叙爵式でも少し触れたが、“直轄領”について話をしておこうではないか」

「えっと……土地がもらえるんですか?」

「そうだ。とはいえ、あまり大きな主要都市をねだられても困るがな」


 そりゃそうでしょう。主要な都市には現在そこを治めている領主がいるはずです。それを私が陛下にわがまま言って横取りなんてしたら、各方面からの反発を招くことは明白です。

 第一、公爵として……領主として土地を任されたりなんかしたら、それはそれで困ります。領主って要するに市長とか社長みたいなものでしょ? そんなの忙しいに決まってます!

 これは「働きたくない」っていうのがモットーな私の手には余る立場です!


「いえ、あの、べつにいらないんですけど……」


 そう遠慮がちに呟いた瞬間の陛下の顔は、なんとも言えないような、捨てられた狼のような切ない目つきでした。

 彼の後ろに控えている魔導師様たちは「あぁやっぱりね」みたいな顔で頷いていますが、もしかして彼らも同じように答えたのでしょうか?


「本当に要らぬと申すのか? よっぽどの大都市でない限り、どこでも良いのだぞ? あるいはヴィーニャさえ認めれば、湖上都市マリニオンを共同統治するという方式でも構わぬぞ」


 ヴィクーニャちゃんと共同統治……なるほど、それはちょっと魅力的かもしれません。

 現状では摂政のような人たちが彼女の政務の大部分を補佐しているそうで、だから最高責任者である彼女が長らく留守にしてもどうにかなっているのです。

 なのですでに運営体制が確立されているところにすっぽりと私が収まれば、とても楽できることでしょう。


 うーん……でもお飾り勇者を引き受けるヴィクーニャちゃんたちが可哀想ですね。面倒事の塊である私を引き取るのは嫌でしょうし。

 生徒である彼女に迷惑をかけるわけにもいきませんし、ここは遠慮しておきましょう。


 でも、どこかしら受け取っておかないと陛下も納得しなさそうですし……さてどうしたものでしょうか。


「……あっ!」


 と、そこで不意に名案を思い付いた私は、眉を顰める陛下に笑顔で言い放ちました。


「じゃあアルヒー村と、そのまわりのやまをください!」


 私が元気いっぱいにそう言うと、陛下は一瞬面食らったように目を細めます。


「アルヒー村と、その村がある山か? その程度であれば容易いものだが……むしろ貴様は今までも、あの村では好き勝手やって半ば私有地のようにしていたではないか。本当にそんなもので良いのか?」

「はい! ただ、わたしがそこで“なにをやったとしても”、陛下の名のもとにゆるしてほしいんです」

「自治権を認めよということか。……一体何を企んでいる?

「むふふ、べつになんにもしませんよ~?」


 にこにこと微笑む私に、陛下は胡散臭そうな視線をぶつけてきました。失敬な、私をなんだと思っているのでしょうか。

 ちょ~っと各地から学者や技術者を引き抜いて来て、私の知識と魔導具を貸し与えたら面白いことになるかな~なんて思っただけですよ?

 それに獣人族以外にも、人族領に移り住みたい魔族がいるかもしれませんしね。


 といったわけで、今日この瞬間からアルヒー村は私の統治下に置かれることとなりました!

 陛下はもっとおっきな街や肥沃な土地とかを与える心積もりだったようですが、それはさすがに私の手に余るというものです。

 ごくごく一般的な庶民の気質しか持ち合わせていない私には、あの小さな村くらいがちょうど良いのです。



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