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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第四章 【帝都魔術学園】
222/284

1歳12ヶ月 7 ―――レジィの誕生日



「レジィ!」

「んぁっ!?」


 いつものように早起きしてリビングに姿を現したレジィを、私はテーブルの上で腰に手を当てて仁王立ちしながら迎えました。いえ、宙に浮いているので正確には“仁王浮き”でしょうか。いや落ち着け、仁王は浮いたりしない。

 目を丸くさせながらそんな私を見つめていたレジィは、扉を開けてリビングへ踏み込もうとした体勢のまま固まっています。呆気に取られているためか、細くてふさふさした尻尾が足の間にぷらんと垂れ下がりました。

 そんな彼に、私は高まりきったテンションを隠そうともせずニヤリと笑うと、


「きょうはレジィの“おたんじょうび”だよね?」

「え? そうだっけ? 違くないか?」

「ちがくねーよ! ほかの獣人たちにききましたーっ! まちがいありませんーっ! ……こほん。レジィはきょう、おたんじょうびです。なのでこれから、お祝いをしたいとおもいます」


 にこにこと上機嫌な笑みを浮かべた私は、家長権限で決定した事項を通達しました。

 獣人たちには“誕生日”を祝うという習慣が特になく、そのため誕生日を忘れてしまってわからなくなるということもあるそうです。事実、レジィは誕生日なんて完全に忘れてるみたいでしたし。

 しかしレジィの場合、たまたま二日違いで生まれた獣人の子が誕生日を知っていたため、こうしてこのおめでたい日をお祝いすることができました。誰もレジィの誕生日を覚えていなかったら、レジィと私が初めて出会った日を勝手に誕生日と決定しようと思っていましたが。


 ちなみに誕生日を私に自己申告してくれた獣人の子は、ちゃんとお祝いをしてあげています。

 プレゼントは基本的に獣人族が見たこともないようなお菓子や、犬猫が喜びそうなおもちゃをあげると喜んでもらえるのですが……中でも一番喜ばれるのは、冷たい瞳で見下ろして言葉攻めをしながら踏んであげることです。

 私に踏まれた五歳くらいの猫耳幼女が、穢れ一つない無垢な笑顔で「みんなに自慢できますっ!」と言い放ってお礼を言ってきた時の私の心情たるや……


「誕生日……あっ!」


 誕生日と言われてもいまいち反応が鈍かったレジィでしたが、しかし何か閃いたような反応を見せると、ちょっぴり嬉しそうに頬を赤らめました。


「お祝いって、こないだのネルヴィアの時みたいなことか……?」


 ああ、なるほど。去年までは誕生日といっても何かあるわけではなかったので、「誕生日だから何?」って反応だったのですね。そして今年からはネルヴィアさんの時みたいに、ちゃんと祝ってもらえることに気が付いた……と。


「もっちろん! レジィもわたしのだいじな家族だもの。ちゃんとお祝いするよ!」

「……そっか」


 クリッとした快活そうな目を細めて、照れくさそうに笑うレジィ。

 そんな彼の反応によって嬉しくなった私はにっこりと微笑んで、


「さぁ、きょうはなにしたい? なにしてほしい? なんでも言ってね!」

「おう! じゃあご主人、手始めに踏んでくれ!!」

「ごめん“なんでも”と言ってから三秒しかたってないところわるいんだけど、ちょっとかんがえなおさない!?」


 相変わらずこの子は、強者に対してはドMっぷりを発揮する獣人族の習性に忠実みたいです……!

 しかもその性癖のアグレッシブ具合たるや、男子中学生もかくやといった代物。レジィも男の子なんだし、『男なんてみんな獣』というやつなのでしょうか……いやまぁ獣人(ケモノ)なんだけどさ実際!!


「ご主人……だめか?」


 潤んだ瞳を上目遣いにさせて、いつになくか弱い声で訊ねてくるレジィ。

 ああもう、そんな悲しそうな顔しないでよわかったよ踏むよ踏めばいいんでしょ!?


 私はいろいろと諦めた溜息をどうにか口腔内で押し留めつつ、理性という名のワイヤーで口角を吊り上げ、どうにかぎこちない笑みを作りました。

 ……まぁ、こうなることはわかりきっていたことですし。


 本当は人を踏むとかイヤなんですけどね。たとえ相手が望んでいることであっても、やっぱり倫理的に抵抗があるというか、忌避感があるというか。ほら私って模範的な常識人ですし?

 まぁどうしてもって私を頼ってくる子たちの期待に応えることは、吝かではないですけど。

 でも大切な家族を踏むっていうのは、やっぱり抵抗があるわけで。

 あー、やだやだ。


 さて、と……こないだ獣人用に買っておいたハイヒールはどこにやったかな……?



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