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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第一章 【アルヒー村】
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0歳10ヵ月 1 ―――魔法の実験

今回は魔法実験回です。例によって軽い気持ちで読んでいただければ幸いです。

もうそろそろ、セフィの初戦闘となります。


※携帯やスマホの機種によっては、呪文の一部が表示されないことがあるようです。

 いずれ余裕がある時に文字の置換を行う可能性はありますが、それまではPCで読むか、なんとなーくで読んでいただけると幸いです。



 私の家は村の外れの方にあって、家の裏には雑木林が広がっています。

 そこはあまり土壌がよくないのか、雑草もまばらで木も痩せていて、赤ん坊が歩くのにもさしたる苦労はありません。

 そんなわけで私はたびたび家を抜け出しては、林の奥の“ある場所”へと足を運んでいるのです。


「さて。はじめますか」


 草木がほとんど生えずに半径五メートルほどが(ひら)けているその場所こそが、私の“実験場”。

 もちろん火気を扱う際には細心の注意を払ってはいますが、ここでなら多少乱暴な魔法も試すことができるため、私は定期的にこの場所を訪れているわけです。

 今回実験を行うのは、私が『方位指定子』と名付けた構文です。


 ๏โฎ€ธๅ╞₀ͺ ₀╡


 この構文は、変動した数値の増減する“向き”を指定しているようなのです。

 どうやら括弧内にある数値を変えることで微調整を行うことができるらしく、デフォルトでは(0, 0)となっていますが、最大で(359, 359)まで調整することが可能なようです。

 括弧内の二つの数値は、左側が「横の角度」、右側が「縦の角度」を表していて、仮に(90, 90)と入力したときには「右に九十度、上に九十度」という命令になります。


 そして「変動した数値の増減する“向き”を指定」というのがどういうことかと言うと……


 つまり私が初めて発動した魔法である「大気の物質量を増加させて風を生み出す」という魔法に“方位指定子”を組み合わせると、「大気の物質量を“一定方位にのみ”増加させて風を生み出す」という魔法にすることができるのです。


 実験の結果、デフォルト値である(0, 0)と設定していると、どうやら「術者の頭」と「魔法の発動地点」を繋ぐ一直線上に方位が設定されるみたいでした。

 つまり、今の私は手のひらからしか魔法を発動することができないため、手のひらを頭の上にかざして(0, 0)と指定すれば魔法は真上に……腕を真横に付きだして(0, 0)と指定すれば、腕を向けた方向に魔法が発動するようです。


 この方位指定子を魔導書の呪文の海から拾い上げるまで、私の扱えるほとんどの攻撃魔法は「自爆技」となっていました。

 風はもちろんのこと、土も、水も、炎も、手のひらの中で物質量を増やそうものなら、それらは全方位へと平等に降りかかります。

 だからこそ、そういったリスクを回避する構文がどこかにあるはずだと、私は目を皿にして必死で探し続けました。


 そして先日、ついに見つけ出したのです……!


 私は一つ深呼吸すると、「的」として定めた木に狙いを定め、右の手のひらを向けます。




ฎธๅ 風の槍╞ ข๏ฎค ╡

ใฉธค ฎธๅ ฬฎธคƂ

ฬฎธค ฿ ฬฎธค - σ₀₀₀Ƃ

ฬฎธค•๏โฎ€ธๅ ฿ ๏โฎ€ธๅ╞₀ͺ ₀╡Ƃ

โ€ๅษโธ ฬฎธคƂ



|整数値を支配する魔法を生成し「風の槍」と命名せよ

    ╞ 何も受け取らない ╡

 我が手に触れし対象へ、整数値と「ฬฎธค」という名を与えよ。

 「ฬฎธค」の物質量へ5000を加算し、加算後の値を「ฬฎธค」へと代入せよ。

 物質量の加算方位はデフォルトとし、「ฬฎธค」のメンバへと代入せよ。

 処理後の「ฬฎธค」を返却せよ。




「『風の槍(クリアランス)』」


 私の手のひらに触れていた大気の物質量が増加し、「ビュオッ!!」と風が唸りました。

 そしてそれなりの勢いで風は前方へと突き進み、「的」である木に直撃。大きく枝をしならせ、葉っぱを吹き散らしました。

 ……まぁ、人間に当てれば よろめいて転ぶぐらいの風は生み出せましたかね。


 しかもそれでいて、私はほとんど風の影響をうけませんでした。せいぜい、ちょっと頬を風が撫でたかな? くらいのものです。

 これなら炎を放っても、手のひらが放射熱で少しだけヒリヒリするくらいで済むかもしれません。


 ちなみに、この風の魔法に使っている演算子である「-」は、「足す」という意味みたいです。

 そして「∸」が「引く」、「∺」は「掛ける」、「∹」は「割る」。

 概ね加減乗除と同じものと考えて良さそうですが、それぞれちょっとずつ意味が違います。


 特に加法と乗法では、物質量に与える影響の種類は大きく異なります。

 どうやら、空気を加算すると、増えた空気が、元々存在していた空気の周囲に発生するようです。

 そして空気を乗算すると、増えた空気が、元々存在していた空気と“重なるようにして”発生するのです。

 これは微々たる違いに見えて、その実かなり大きな違いです。


 なんせ、空気の量を乗算で一〇〇〇倍に増やせば、手のひらサイズの空間に、一〇〇〇倍もの空気が凝縮されて発生することになるのですから。

 ……これをもしも方位指定子無しで発動しようものなら、「ドパンッ!!」という音と共に私の腕が吹き飛ぶことでしょう。

 やっぱり方位指定子って偉大です。


 最近では、魔法を習得したばかりの頃は危なくて手が出せなかったタイプの魔法も練習しています。

 たとえばこの前のお風呂も、対象を凍結させる魔法を応用したものですし。

 命名した対象の保有情報(プロパティ)を操る文のうち、温度を支配する「•ๅ€๓ฦ」を使えば氷を生み出すことくらい造作もありません。

 そして温度を下げられるということは、温度を上げられるということでもあります。


 他にも、比較的安全に魔法の検証ができるので重宝した、重量を支配する「•ฬ€ฎอใๅ」。

 それから方位指定子と一緒に見つけた、物質が増加して発射される際の“幅”を絞ることができる「•╘๏¢ษญ╞₀╡」など、いろいろと有用な魔法を扱えるようになりました。


 私は前世における最下級奴隷(ブラックプログラマー)時代の職業病というか、後遺症のせいで……「一度見たコードが網膜に焼きつく」という体質になってしまいました。

 そのため、ある程度見慣れた呪文は、いちいち魔導書を見なくても発動することができます。

 ……あの魔導書はお父さんの大切なものなので、あまり持ち歩きたくはありませんしね。


 魔法を使うと、なんだか脳がクラクラするような感覚に陥ります。

 さながら、しばらく頭脳労働をした後、脳が疲れている感覚……とでも言えば伝わるでしょうか。

 たかが数行の文字列を思い浮かべるだけにしては疲労度が異常なので、きっとこれは魔法の発動に関する反動か何かなのだと思います。

 いわゆる、魔力の消費というやつでしょうか。


 私は前世で六日連続貫徹で仕事をし続けたこともあるくらいには、脳疲労への耐性があります。

 なので魔力量は多い方なのではないかと、勝手に思っていたり。


 それから私は様々な魔法を発動して、良い感じに脳がくたびれてきたところで実験は切り上げることにしました。

 「条件分岐(If)文とか条件継続(For)文が欲しいなぁ……」なんて魔術師(プログラマー)っぽい独り言を漏らしながら、寂れた雑木林を歩くこと数分……見慣れた私の家が見えてきました。


「……ん?」


 なにやら、私の家から少し離れたところの木陰に、何かが見えます。

 よくよく見れば、それは木に身体を隠すようにして潜む、人影でした。

 一瞬 足が竦みましたが、目を擦って良く見てみると、その人影には見覚えがありました。

 ……バシュハル村長です。


 へぇ……あんなにアレしてあげたのに、まだ懲りてなかったんだぁ……それとも、癖になっちゃった?

 私は速やかに表情から温度を消すと、ぐるっと大きく迂回してバシュハル村長の背後に回りました。


 さて、どうしてくれようかな……



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