↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第四章 【帝都魔術学園】
PR
216/284

1歳12ヶ月 1 ―――団欒



「私たちのなれ初め……?」

「うん!」


 場所は逆鱗邸の、私がお母さんに譲り与えた私室でのこと。

 部屋のベッドで寄り添い合っていたマーシアお母さんとラギナスお父さんは、共に幼さを残した顔つきを甘酸っぱく綻ばせて談笑しているところでした。……もっと有り体に言えば、イチャついてるところでした。

 パッと見だと高校生と中学生のカップルに見えるので、とても微笑ましい絵面です。


 仲がよろしいことは大変結構なので、私としても二人の桃色空間に水を差すのは憚られたのですが……しかしそんな二人だからこそ、「なれ初め」について訊いておきたかったのです。

 唐突な私たちの突撃インタビューに、お母さんは可愛らしいお顔をこてんと傾けました。


「それはいいんだけど、随分唐突ね? なにかあったのかしら?」

「んー、そういうわけじゃないんだけど、おにーちゃんがききたいんだって」


 そう言って私が傍らのお兄ちゃんを視線で示すと、なんだか落ち着かない様子のお兄ちゃんを一瞥したお母さんは目を細めて、どこか思わせぶりに「ふぅん?」と唸りました。

 そしてそんなお母さんの視線から居心地悪そうに目を逸らすお兄ちゃんに、お母さんはにっこりと微笑んで、


「子供が両親のなれ初めを訊く時っていうのはね……“恋”を自覚した時と、相場が決まっているのよ?」


 なんだか確信じみた態度のお母さんは、よく見ると微妙に笑っていない目でジッとお兄ちゃんを見つめました。一方、傍らのお父さんは、「へぇ?」と意外そうに目を丸くさせています。


 あはは、もうお母さんったら……お兄ちゃんはまだ六歳だよ? いくらなんでも気が早すぎ…………ってお兄ちゃんめっちゃ目ぇ泳いでるぅうううーっ!?

 オリンピック級のバタフライスイムを披露するお兄ちゃんの瞳に愕然としながら、私もお母さんと同様のギラついた光を“キュピーン!”と両の瞳に宿します!


「オ、オレやっぱりいいや……!」


 そう言いながら慌てて踵を返そうとしたお兄ちゃんでしたが、しかし彼の動きはすぐにピタリと静止します。いえ、させられます(・・・・・・)。

 ねっとりとした汗を額から伝わせるお兄ちゃんは、唯一動かせる首から上を私に向けました。


「セ、セフィ……? なんか、オレの身体が動かないんだけど……」

「そうなの? ふしぎだねぇ。わたしはちょろっとおにーちゃんの服の速度を消すくらいしかしてないんだけど」

「どー考えたってそれが原因だろうがっ!! なに人の服の速度を勝手に消してるんだよ!? っつーか服の速度を消すってなんだよ!?」

「わたしから逃げようなんて、ひゃくねん早いよおにーちゃんふふふ」

「怖えーよ!!」


 言っとくけどお兄ちゃん、超音速の飛行能力やワープ能力や時間停止能力まで持っていたエクセレシィですら、私の魔法から逃れることはできなかったんだからね? お兄ちゃんの服どころか、半径数キロにある物質や現象は、すべて私の支配下だよ。にっこり。

 私のエンジェルスマイルを見てなぜか身震いをしたお兄ちゃんは、魔法を解除されてからも大人しくこの場に留まっていました。賢明な判断です。


 私はお兄ちゃんの肩にポンと手を置くと、フッと柔らかく微笑みながら口を開きました。


「それでおにーちゃん……だれなのかな、その想い人っていうのは?」

「……」

「だんまりか……いいかげんラクになろうよ、おにーちゃん。田舎のご両親がないてるよ……」

「泣いてねぇよ目の前でくっそニコニコしてんだろうが」


 どうやら本当にお兄ちゃんは、その想い人とやらをひた隠しにするつもりみたいです。これは薄暗い取調室でカツ丼を振る舞っても、口を開きそうにはありませんね。


「……ちっ、しかたない。ここはいったんあきらめるとしようか」

「おまえ舌打ちって……いや、まぁ諦めてくれたんならいいけど」

「ところでぜんぜん話はかわるんだけど、わたし、ルローラちゃんにたくさん貸しがあるんだよね」

「おい全然話変わってねーぞ!! あの人、心が読めるんだろ!? マジでやめろよ!? そんなことしたら絶交だからな!?」


 さすがに本気で焦りと怒りを見せ始めたお兄ちゃんを、私は「ふふふ、冗談だよ。ふふふ」と笑顔で宥めます。

 お兄ちゃんは「本当かよ……」とかまったく信用していないみたいでしたが、まぁさすがに冗談です。私だってそこまで鬼ではありません。

 大事な仲間であるルローラちゃんの能力を悪用しようだなんて思いませんし、私は話してほしいことがあったらきちんと信頼関係を築いて正攻法で聞きだします。

 ……まぁ敵だったら気兼ねなく拷……げふんげふん! いえ、たとえ敵であっても平和的な話し合いで今まで解決してきましたしね!


 それでも少しやり過ぎたと反省した私は、お兄ちゃんに「ごめんね、からかいすぎちゃった。ほんとに冗談だからね……?」と上目遣いでしおらしく謝罪をしました。

 するとお兄ちゃんはちょっぴり気まずそうに目を逸らしてから「……わかってるよ」とだけ言って、私の頭をぶっきらぼうに撫でました。


 お兄ちゃん! 私が言うのもなんだけど、いくらなんでもチョロすぎるよ! もっと疑いの心を持って!?

 ああもう、お兄ちゃんってば穢れを知らない純真天使すぎる……これは私が近くで見守っといてあげないと、いつか悪い女に騙されちゃいます……!


 私が覚悟も新たに、庇護欲を燃え上がらせていると……


「あー、それで僕たちのなれ初め……だったかな?」


 逆立つ銀髪をくしゃりとかき混ぜながら、お父さんが苦笑交じりに話題を戻しました。

 しかし私は眉ひとつ動かさずにお父さんを手で制すと、


「あ、うん。それはもういいかな」

「ええっ!? セフィから聞いてきたのに!?」


 シレっと冷めた答えを返す私に、お父さんはちょっと涙目になりながら驚愕を露わにします。

 それに対してお母さんは、「困った人ね」みたいに微笑みながら、


「もう、なに言ってるのラギナス。今はログナの恋愛相談に乗ってあげるのが最優先でしょ!」

「え、ええー……? ねぇ見て二人とも、ログナのあの顔を。“さぁもう煮るなり焼くなりお好きにどうぞ……”って感じの顔してるよ? 僕あんな六歳児見たくない」


 それから子犬のような表情でやんわりと、しかし辛抱強いお父さんの説得に絆(ほだ)された私たちは、渋々といった具合にお兄ちゃんへの詮索をやめました。

 するとお兄ちゃんは「父ちゃぁぁぁんっ!!」と叫びながらお父さんの胸に飛び込んで、ギューっと抱き付きます。

 お父さんはそんなお兄ちゃんを「よしよし」と優しく撫でてあげながらご満悦の様子。

 私を抱え上げて胸に抱いたお母さんも、お父さんとお兄ちゃんの仲睦まじい様子を眺めながら、苦笑交じりに微笑みました。


 そしてその後、せっかくなのでお父さんとお母さんのなれ初めもしっかり聞くこととなったのでした。

 ……が、全部で十章……すべてを語り終えるまで、時間にして六時間もの大長編だとは思いませんでしたけどね……!!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。