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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第四章 【帝都魔術学園】
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1歳10ヶ月 2



 これは一見するとパッフルとチコレットがわがまま放題をやらかしている構図にも見えますが、しかしそもそもレジィに用があるのなら、たまに私たちがアルヒー村に帰ってくる時にでも言ってくれればいいわけで……いくら人魔戦争が終戦状態にあるとはいえ、人族の領地を獣人だけで歩くなんていろんな意味で危険すぎます。なので今回の件で言えば、アイルゥちゃんが正しいというのも違うのです。


 ……まぁ、とりあえずパッフルとチコレットの“本当の狙い”は見え透いているので、そちらから片付けていきましょうか。


 私は間近にある二人の顔との距離を目測して……次の瞬間、二人の頬を音高く引っぱたきました。


「……!」


 アイルゥちゃんが目を丸くさせているのを尻目に、私は笑みを浮かべたままグッと視線の温度を下げて、二人を冷たく見据えました。


「……かってに村を出るなんて、わるい子たちだね」


 それから私は、とびっきり感情を排した声色で彼女たちに命じます。


「『ひざまずけ』!!」


 直後、私の周囲に存在するあらゆるものが、深々と頭を垂れました。

 私を抱えていたパッフルとチコレットは堪らず私を手放して膝を折り、その後ろでアイルゥちゃんが「ふぎゃっ」というカエルが潰れたみたいな悲鳴を上げて転倒します。

 そればかりでなく近くを飛んでいた羽虫は墜落して這いつくばり、足元に生えている草花までもがその身を深く折りました。


 そんな異様な空間でフワリと着地した私は、期待に瞳を輝かせながら跪く二人の顎下にそっと手を差し込みます。


「イケナイ子には……こんど二人っきりになったとき、『おしおき』しなくちゃ……ね?」


 彼女たちの耳元で私がそう囁くと、二人はうっとりした恍惚の表情で私を見上げてきました。

 獣人族の『強者にはドM』という性質はみんな共通ですが、特にこの二人のマゾ具合は群を抜いていますからね……


 ふと気が付くと、なんとなくパッフルが物足りなそうな顔をしているような気がしたので、彼女が地面についている手を靴底でぐりぐりと踏んずけてあげます。すると彼女は「あぁん、ひどいです~!」と嬉しそうに頬を紅潮させました。

 ……私にはあまり理解できそうにない世界ですが、彼女たちが喜んでいるのなら何よりです。


 それから重力魔法を解除した私はすぐに天高く飛び上がって、逆鱗邸へと帰還しました。

 そしてレジィに事情を説明し、あからさまに嫌そうな顔をする彼を引きずって、再び外門の前へと移動します。


「レジィさ~ん!」

「レジィお兄ちゃんっ!」


 私たちを待っていたパッフルとチコレットの呼び声に、レジィは呆れたような表情を返しました。


「お前ら勝手にここまで来たんだってな? 『十戒』を忘れたか?」


 『十戒』というのは、獣人族がアルヒー村で暮らす上で守るように私が言いつけた、十個のルールのことです。戦争終結時に魔族領全域に触れ回った『十戒』とはまた違う内容なので、たまにちょっと紛らわしいですが。

 ちなみに獣人族の十戒、第九条には「アルヒー村のある山を勝手に下りてはならない」とあります。


「……つーかアイルゥ、お前まで来たのか」


 レジィの言葉に、少し離れたところにいたアイルゥちゃんが気まずそうに視線を逸らしました。

 かつて私がアイルゥちゃんと初めて出会った時、彼女は言動の端々からレジィへの恋慕を滲ませていたのを思い出します。そんな想い人に非難めいた視線を送られれば、そりゃあ気まずいはずですよね。


 しかし一方で寂しんぼコンビの二人はまったく悪びれる気配もなく、


「でもでも、十戒の第六条「騒動を放置してはならない」がありますから、勝手に山を下りようとしたアイルゥちゃんが悪いことしないように、パッフルたちは監視するために仕方なくついて来たんですぅ~!」


 パッフルのその言葉に、アイルゥちゃんは「なっ!?」と目を剥きながら叫びます。

 続いてチコレットも、愛らしい笑みにちょっぴりの黒さを滲ませながら口を開きました。


「それに第七条「孤独であってはならない」があったから、アイルゥちゃんが一人にならないように、チコたちがいっしょにいてあげたの」


 チコレットの言葉に、私とレジィは「なるほど」と顔を見合わせました。

 ちなみにアイルゥちゃんは口をあんぐりと開けて愕然としています。


 さっきの話を聞く限りでは、アイルゥちゃんは帝都へ向かうなんて一言も言わずに村を出たみたいでしたし、当然どんな理由で村を出たのかも説明していなかったようです。

 だったら理由も目的地も告げずに山を下りようとするアイルゥちゃんを心配して後を追うのは、それなりに筋の通った行動と言えましょう。


「えっと、うん。じゃあアイルゥちゃんがぜんぶわるいってことで……」

「ちょ、ちょっと待つのだ!!」


 私が下した判決に、アイルゥちゃんが血相を変えて異議を唱えてきます。


「さっきこやつら、貴殿に会うためだけに来たとか抜かしていたではないか!?」

「それはアイルゥだけ怒られるのは可哀想だと思ったからですぅ~」


 アイルゥちゃんの訴えに、「よよよ」とわざとらしく涙を拭うような仕草を見せるパッフル。チコレットも「うんうん」と微笑みながら頷いています。

 獣人族の『強者が絶対』という風潮とはなんだったのでしょうか……アイルゥちゃん、めちゃくちゃ強いんだよね? レジィと戦った獣人族の中で、唯一『引き分け』になった子なんだよね?


 ……まぁ、パッフルたちが冗談で言ってるのはわかってますけどね。


「ほら、ふたりとも? あんまりアイルゥちゃんをいじめないの」


 私がなだめると、二人は声を揃えて「はぁい」と返事をします。いじめてる自覚はあったのね。

 からかわれていたと気づいたらしいアイルゥちゃんは、顔を真っ赤にさせながら目尻を釣り上げていました。


「それで……アイルゥちゃんはレジィになんの用があったの?」


 ようやく今回のお話の本筋へと導入するような私の言葉に、アイルゥちゃんはその星空のような瞳をレジィへと向けました。


「……レジィは……これからもずっと、セフィリア殿と共に過ごすのか?」

「え?」


 アイルゥちゃんの言葉に、レジィは驚きの表情を浮かべました。

 彼女のその言葉にどういった意図があるのか判断が付かず、その場には沈黙だけが流れます。


 その沈黙をどう受け取ったのか、アイルゥちゃんは「……そうか」とだけ呟くと、


「……セフィリア殿。レジィをかけて、貴殿に決闘を申し込む!!」


 ビシッ!! と巨大な重手甲の人差し指を私に向けたアイルゥちゃんが、真剣なまなざしでそう宣言しました。



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コメント返しがようやく終わりました。半年もかかってしまい申し訳ありません。

私くらいになると感想欄を開くだけで胃に穴が空くので困ります。

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