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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第四章 【帝都魔術学園】
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1歳10ヶ月 1 ―――押し寄せる問題児たち



 今日はせっかくの休日なので、一日中『神器』の製作に打ちこむつもりだったのですが……その予定は脆くもあっさりと打ち砕かれることとなりました。

 その原因となったのは、慌てた様子で逆鱗邸へと駆けこんできた衛兵さんによる報せです。


「……セ、セフィリア様に帝都の外からお客様が……」

「お客? だれですか?」

「それが……獣人の娘が二体と、それから“アイルゥ”と名乗る重装歩兵のような出で立ちをした者が一名でして」


 その説明だけで私は、訪問者が誰であるかを即座に理解して頭を抱えました。

 私は衛兵さんにお礼を言うと、そのまま魔法で上空へと飛び上がって、帝都外周防壁の方へと向かいます。

 そしてすぐに空から訪問者たちを見つけた私は、帝都の外門近くにいたその三人の背後へと着地しました。途端に、甘ったるい歓声が二つほど湧き上がります。


「ご主人様~~~!!」

「ご主人さまっ!」


 声の主へと視線を向ければ、薄ピンク色の長いウサ耳を生やした肉付きの良い少女と、黒い犬耳をイアーマフのように垂らしたちっちゃな少女が、こちらに駆け寄って来るところでした。

 さらにそんな彼女たちのすぐ後ろには、物々しい真っ黒な鎧を着込んだ小柄な人影が立っていました。甲冑の兜で顔を隠したその人物は、右手の指先から肘までを覆う巨大な重手甲(ヘヴィガントレット)を装着しており……さらにその背中には、製作した鍛冶師の正気を疑うような巨大戦斧(バトルアックス)を担いでいます。……まさにこれから「一狩り行こうぜ」って感じの格好です。


 私は三人に手を振りながら、引き攣った笑みを浮かべます。


「ええっと……しばらくぶりだね、パッフル、チコレット。それから……アイルゥちゃん」


 私が声をかけると、途端にウサ耳少女のパッフルと犬の垂れ耳少女チコレットが競うように私を抱き上げました。


「ご主人様、お久しぶりです~~~! ご主人様が最近あんまり村に帰って来てくれないから、パッフル寂しくって来ちゃいました~~~!」


 瞳にハートを浮かべたパッフルは、ハァハァと荒い息を吐きながら危ない表情で頬を染めています。……強者を見ると発情してしまう性質は相変わらずのようですね。


「ご主人さま、勝手に来ちゃってごめんなさい……! でもチコも、さみしくって……」


 続いて、くりくりした可愛らしい瞳を涙で潤ませたチコレットが、短い尻尾を太ももの間にシュンと垂らして謝罪を口にしました。

 元々私は子供好きであることに加えて、大の犬好きです。なので犬獣人の子供なんて、私のストライクゾーンを狙い澄ましているとしか思えません。


 私はチコレットに「ううん、さみしいおもいをさせちゃってごめんね」と声をかけながら、彼女の白と黒が入り混じった髪をくしゃくしゃと撫でてあげます。するとチコレットは「ふわぁ……」と気持ちよさそうな声を漏らしながら、だらしない表情になっちゃいました。かわいい。

 その隣で「ああん、ずるいです~!」と騒ぎ始めたパッフルも撫でてあげていると……そこで彼女たちの後ろから、一歩ごとに足を地面へめり込ませながら近づいてくる黒い人影が。ただし、その重装歩兵のような姿に似合わず、身長は小学校高学年(ヴィクーニャちゃん)と大差ありません。

 そして黒い甲冑の兜の下から、くぐもった幼い声が響いてきました。


「いい加減にせんか、貴公ら。我々はそんなことをするためにここへ来たわけではあるまい」

「え? なに言ってるんですか、アイルゥ?」

「チコたちはこのために来たんだよ?」


 私たちの会話に厳かな語調で割り込んできたアイルゥちゃんに、『なに言ってんだコイツ?』みたいな表情を返すパッフルとチコレット。

 するとアイルゥちゃんはわなわなと身体を震わせ始めて、巨大手甲を嵌めていない左手―――とはいえ左手もゴツイ手甲を嵌めてはいるのですが―――で頭部を覆っていた兜を乱暴に剥ぎ取りました。


 長くボリュームのある銀灰色(シルバーグレー)のツインテールが溢れ出して、黒い甲冑の上を滑ります。

 身長に見合った幼い顔立ちは快活そうな少女そのものでしたが……他の獣人たち同様、明らかに人族と異なった身体的特徴がいくつも見受けられます。


 まず一つめは、エルフ族のように尖った耳の形。二つめは、全身を覆う『青い皮膚』です。光の加減によっては、灰色や銀色にも見えるかもしれません。そして三つめは、人間であれば白目にあたる部分が黒く、大きな瞳は落ち着いた深い藍色をしているところ。まるで星空みたいな瞳です。

 最後に四つめは、さながら“鬼”のように額から生やした、二本の巨大なツノです。左右のツノは太さも長さも異なりますが、向かって左側の大きい方のツノですと、その長さは三〇センチほどにもなります。さっきまで甲冑で頭部を覆っていましたが、当然ながら二本のツノは余裕で甲冑を突き破っていました。パッと見だと、そういうデザインの兜みたいにも見えましたが。


 黒目がちな瞳をキッと釣り上げたアイルゥちゃんは、マイペースなパッフルとチコレットを睨み付けながら可愛らしい声で叫びました。


「我々はレジィに用があるのだろうが!」

「そうだっけ?」

「さぁ?」


 しかしアイルゥちゃんの叫びは残念ながら二人の心には響かなかったようで、二人はキョトンとした顔で首を傾げていました。

 これにはアイルゥちゃんもひくひくと目元を痙攣させ、今にも怒りを爆発させそうになってしまいます。流石にあのレジィが実力を認める、最強クラスの獣人であるらしいアイルゥちゃんが暴れ出したら大変です。私は慌てて彼女のフォローに回ることにしました。


「え、えっと、レジィに用があったの? ごめんね、わたしに用があるみたいにきいてたから……」

「そこの阿呆どもが独断専行したのだ」


 ……うん、まぁ、この子たちをコントロールするのは並の苦労じゃないでしょうけどね。

 現在はアルヒー村に住んでいる彼女たちがこの帝都へ辿り着くまで、おそらく丸一日以上はかかったことでしょう。そのあいだずっとこの子たちの面倒を見続けていたのだとすれば、アイルゥちゃんの苦労が偲ばれるというものです。


「それじゃあ、レジィを呼んでくるからちょっとまっててね」


 そう言って私が空へ飛び立とうとすると、しかし私を抱え上げていたパッフルとチコレットは私の身体を離そうとしません。

 不思議に思って私が二人の顔をジッと見つめると、パッフルが「じゃあ、レジィさんのところに行きましょうか!」とか言って歩き出そうとし始めました。

 私は驚いて、思わず大きな声を出してしまいます。


「いやいやいや! ほら見てアイルゥちゃんのかっこう! あれで帝都をあるいたりしたらたいへんだよ!」

「え? じゃあ、アイルゥは置いていきましょう」


 焦って二人を制止した私の言葉に、パッフルは事もなげにそう返してきます。その隣では、チコレットも真顔で頷いていました。

 今度はその言葉にアイルゥちゃんが慌てる番です。


「いや待て! おかしいだろう! レジィに用があるのは私なのだぞ!? お前たち、勝手に私について来たが、私の目的を知っているのか!?」

「チコレット、知ってる?」

「ううん、しらないです」

「ほら見たことか! それにセフィリア殿がレジィをここへ連れてくると言っているのに、どうしてお前たちまでついて行こうとしているのだ!?」

「だって、パッフルたちもレジィさんとお話ししたいですし。しばらくお話ししたら、またここに戻ってきますから」

「ちょっと待て! なにを当たり前のように私を一人で長いこと待たせようとしているのだ!?」


 強者(リーダー)が舵を取らなければ協調性の欠片もない獣人族同士の論争は、どんどんカオスの様相を呈してまいりました。

 とはいえ傍から聞いている分には、どうやら最初にアイルゥちゃんがレジィに会うためにアルヒー村を発とうとして、それを聞きつけたパッフルとチコレットも「私も私も」みたいな軽いノリでついて来てしまったようです。

 ……私は頭を抱えながら、深々と溜息をつきました。



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