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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第一章 【アルヒー村】
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0歳4ヶ月



 赤ん坊というのは、おっぱいを吸うか、泣くか、寝るか、漏らすか……それくらいしかすることがありません。


 しかし私は当然ながら、むやみに泣くようなことはありません。もうイイ歳ですからねっ!

 そしておなかがすいたら勝手におっぱいをしゃぶりますし、漏らしたら慌てず騒がず自己申告します。


 これもう、下手したら悪魔の子でしょ……と私自身 思わないでもないのですが、しかし私がちょっと笑顔を振りまいてやったら、天使扱いを受けました。

 むふふ。大人ってチョロい。


 うちの村は貧しく、建ち並ぶ木造の家にはガラス窓の一枚だってありません。

 当たり前ですが、防音設備の“ぼ”の字もないような有様。

 そのため、どこかの家で赤ん坊が生まれると、近所の人たちは夜泣きで眠れないことを覚悟しなければなりません。


 しかし! そこへ行くと、私のなんと静かなことでしょう。

 私の記憶している限りでは、これまで私が泣いたことは一度たりともありません。

 お母さんも最初は私の夜泣きを警戒して眠りが浅かったようですが、今ではもうぐっすりです。おっぱいをしゃぶったって起きません。

 そのためか村の人たちはとても上機嫌で、私をちやほやしてくれます。


 みんなにちやほやされるというのは、私がそうなるように仕向けた面もありますけどね。

 というのも、私の『神童としての余命』は残り七年もありません。

 そのため私は、多くの人に愛嬌を振りまくことで周りに人を集め、必死で言語を吸収していったのです。


 そして成果は上々!

 現在、私は生後四ヵ月目にして、周りの人たちの会話はほとんど理解できるようになりました。

 前世では外国語なんてまったく習得できなかったのに……自分でも驚きです。人間、死ぬ気になれば何でもできるのですね。

 あるいは、赤ん坊の脳が持つ吸収力の為せる技だったりとか?

 いえ、じつは私に隠された天才的な能力が…………いや、うん、ないな。


 あ、それから、言葉を話す練習も欠かしてはいません。

 最初こそ乳児の口や舌に戸惑ったものの、どうにか舌っ足らずなりに言葉っぽいものを発声できるようにはなった気がします。

 とはいえ生後4ヵ月で「お母さん、私は空腹です。速やかに乳房(ちぶさ)を露出してください」とか喋るわけにもいきません。

 幼児が発していい言葉は、「ハーイ」と「チャーン」と「バブー」しか認められていないのです。……なんだか日曜夕方に奇怪な足音を立てそうな幼児ですね。

 ちなみに私が練習のため最初に口にした言葉は『天上天下唯我独尊』です。

 ……べつに他意はありませんよ? ええ、私は謙虚ですからね!


 いずれは文字の読み書きも習得したいのですが……非常に残念なことに、うちの村でまともに文字を読める人間はいないようでした。

 きっと最低限、簡単な標識や看板くらいは読めるのかもしれませんけど……村で最年長のバシュハル村長でも、本の解読までは無理でしょうね。


 ですから私はたびたびお父さんの部屋に忍び込んでは、デスクの引き出しにしまってある一冊の本を、頑張って読もうとしているのです。

 しかしお母さんが言うには、お父さんも文字は読めなかったそうです。この本はお父さんの友達の形見らしく、だからべつに内容自体に意味はないのだとか。

 そうなると、この本が何の本なのかさえ分からないわけで、そんなものをノーヒントで解読できるはずもありません。

 ……神は死んだ。


 とはいえ、他に何かすることがあるかといえば、そんなこともありません。せいぜい、おなかが減ってきたのでお母さんを探すことくらいでしょうか。

 乳児期に動きすぎて将来マッチョになる懸念を感じながら、私はお母さんを探してずりずり家の中を這いずります。

 するとお母さんの代わりに、私はもう一人の家族を見かけました。


 蜂蜜みたいに濃厚な金髪と、鋭い目つきをした小さな男の子。

 私のお兄ちゃんである、ログナくんです。


「…………」


 お兄ちゃんは私を視界に捉えると、睨むかのようにジーッと見つめてきます。……もしかして嫌われてる?

 べつに私が陰ながら嫌がらせをしてるとかそういう事実はないですけど、きっと子供らしい嫉妬心を感じているのではないでしょうか。


 お兄ちゃんは現在、五歳とちょっとです。まだまだ甘えたい盛りの子供なのに、お母さんの目は生まれたばかりの私に向いてしまっています。

 それでも私は異常なほどに手のかからない子供なので、お母さんはよっぽどお兄ちゃんにも構ってあげてると思うのですが、それでも彼はお気に召さないのでしょうか。

 まぁ、今までは美人なお母さんを独り占めだったんですもんね。しかたないね。


 それに私はお兄ちゃんと違って、村人全員から超ちやほやされまくっていますからね。

 なんせ、常に愛嬌を振りまいてますから。それはそれはもう、「テロかよ」ってくらい振りまいてます。愛嬌テロです。

 おかげで私は村の人気者……いや、アイドル……むしろ天使!

 私の幼児(せんとう)力は、53万です。いつもムスッとしていて愛想の悪いお兄ちゃんとは、格が違うのですよ。ほーっほっほ!


 今日だって、ちょっと離れた家からもお爺ちゃんお婆ちゃん、年配の奥様方、うちのお母さんと同年代の女の子、そしてまだ小さな子供たちまでもが私を可愛がりにきます。

 お兄ちゃんからしてみれば、自分より後に生まれた弟が、お母さんや村の人たちを全部掻っ攫ってしまったように見えているのかもしれませんね。


 私は前世においては誰にも愛されず、誰にも助けてもらえず、孤独のうちに過労死するという人生を送ってきました。

 そのため、愛されることに関しては誰よりも必死です。

 そして一つ学んだのが、『人はこちらから全力で愛を示せば、だいたい向こうも愛してくれる』ということ!

 ですので私は、あまり私のことを好きではないんじゃないかと思う相手を中心に甘えまくって、メロメロ骨抜きにしてやるのです。


 そこまで全力で生きてる私からしてみれば、お兄ちゃんは愛され努力が足りないと言わざるを得ませんね。

 お兄ちゃん、世の中は適者生存なのです。媚びることを知らない人間は、淘汰とうたされちゃうんだよ? ふっふっふー。


 かくして今日も私は、村のみんなに好き好きオーラを出しまくって魅了するのでした。食らえ、愛されビーム!

 さぁ、みんな私を愛するがいいのです! あっはっは!



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