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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第四章 【帝都魔術学園】
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1歳9ヶ月 5 ―――久しぶりの授業



 前線から戦士たちが帰ってきたことに伴い、しばらく休校となっていた帝都魔術学園。

 その授業がしばらくぶりに再開されて生徒の皆さんの顔を見られたとき、私は言いしれない安心感を覚えました。


 学校が始まるまでお兄ちゃんは久しぶりのアルヒー村でのんびりと過ごしていましたし、メルシアくんは私やボズラーさんの他に、時々ルルーさんとも過ごしていたみたいです。……そのおかげで、ルルーさんと顔を合わせるのが気まずい私はメルシアくんたちを避けるようになり、今日久しぶりに顔を合わせた時にムスッとした顔を向けられてしまいましたが。

 リスタレットちゃんは騎士修道会の集まりに参加していて忙しかったと聞いていますし、ヴィクーニャちゃんも自分の治める領地へと帰還してきた兵士たちを労うために、いろいろと忙しくしていたとのこと。


 みんなそれぞれ休み明けに顔を合わせた時、見た目こそ大きく変わった様子はありませんでしたが……このお休みの間にそれぞれが経験してきたことによって、内面的には結構変わっている子もいるのかもしれませんね。


 さて、久々の授業はお休み前にやっていたことの続きです。

 魔法をちょっと扱えるようになったメルシアくんとリスタレットちゃんは、ボズラーさん監督の元、屋外で実技のお勉強。まだ魔法が扱えないお兄ちゃんとヴィクーニャちゃんは、魔法発動のために教室で座学のお勉強です。


「先生、ちょっといいかしら?」

「うん?」


 すると、お兄ちゃんと机を並べて勉強していたヴィクーニャちゃんが、教卓にちょこんと座っていた私に向かって挙手をします。

 私が促すと、彼女は紅茶の注がれたティーカップを優雅な所作で一撫でしながら、整った唇を厳かに開きました。


「先生は言っていたわね。魔法によって支配する物質には、自身がより理解していたり、思い入れが深かったりするものを選定することで、魔法発動のハードルを下げることができるかもしれないと」

「えっと、はい。そもそも呪文へのりかいもひつようっていうのは大前提として……ぶっしつへのりかいとか、そうぞうりょくとか、そういうものもだいじみたいですからね」

「メルシアは元々、風に対して造詣が深かった。リスタレットは支配対象を血液とした途端、魔法を発動できた。これらはきっと、その人間の思い入れが深いものの方が直感的な理解や、発動に際して必要となる想像力の補填という面で有用ということなのでしょうね」


 魔法を発動するための鍵は、「何を、どうしたいのか」ということをどれだけ明確に指示できるかにあります。

 だから魔法発動の際には頭の中で、この魔法が発動したらどんな現象が発生してどんな影響を周囲にもたらすのかといったことを、かなり鮮明に想像できなければならないようです。


 あるいは私のように、呪文への理解と、物質や現象への理解が深ければ、想像力が足らなかったりしても補うことができます。いえ、私なら物質や現象への理解が多少足りなくても、魔力量でごり押しして発動することもできるでしょう。

 しかし彼らはまだ子供で、魔力……すなわち脳のスタミナも少ないですし、魔法に関しても初心者です。私のように強引な手段を用いることはできないため、正攻法で発動するしかありません。

 物質や現象への理解が不足しているのであれば、それを呪文への理解や、想像力で補う必要があります。


 今日までの授業を通してのお兄ちゃんとヴィクーニャちゃんを見ていると、恐らくですがお兄ちゃんには呪文への理解が、ヴィクーニャちゃんには想像力が足りていないように思います。

 しかし同じく想像力が不足しているように思われたリスタレットちゃんが、「血液」に適性を見せて見事に魔法を発動できたのを見ると……きっとヴィクーニャちゃんも、自分に合った支配対象を見つけることができれば一気に魔法の習得が進むと思うのですが……


 そう思っていた矢先に、ヴィクーニャちゃんがちょうどおあつらえ向きな提案をしてくれたものですから、私は大いに期待を募らせました。


「そこで私は、この連休の間に自らの適性について考えてきたわ」


 そう言って彼女は、いつもの余裕たっぷりな笑みを浮かべます。

 そしてヴィクーニャちゃんは薄い胸を張りながら、堂々とその考えとやらを言い放ちました。


「ずばり……“炎”よ!」

「却下」


 ヴィクーニャちゃんがこれ以上ないってくらいのドヤ顔で語った内容を、私はほとんどノータイムで棄却しました。

 どうやら連休中に一生懸命考えてきてくれたらしい秘策を一瞬で破り捨てられてしまったヴィクーニャちゃんは、先ほどのドヤ顔のままピシリと固まってしまいます。


「さて、じゃあきょうの授業をはじめましょうか。まずは前回のふくしゅうから……」

「ちょ、ちょっと待ちなさい先生!」


 何食わぬ顔で授業を進行させようとする私に、ヴィクーニャちゃんは珍しく焦りも露わに立ち上がりました。


「な、なぜ却下なのかしら? なぜ炎はダメなの?」

「だって、あぶないでしょ?」


 そりゃあ、空気の増加とか、ましてや血液の増加が危なくないとは言いませんけれど。

 それでも空気や血液は、そのもの単体では大した脅威ではありません。皮膚に触れても怪我をするわけではないのですから。

 しかし火は危険です。どんな方式であれ火を増やすというのは、怪我を伴う可能性が大いに高まるのは言うまでもないことでしょう。ただでさえヴィクーニャちゃんは魔法の初心者なのに、それで何か間違いを犯してしまって火の魔法が暴発したら、目も当てられません。


 しかも火というのは物質ではなく現象であって、単純な物質量支配によって火炎自体の増幅を実現することはできません。あえてそれを実現しようと思うなら、可燃性の物質や助燃性の物質を増幅する……とかでしょうか。

 そして広範に火炎を撒き散らしたいのであれば、習得すべきなのは物質量の増加だけではなく温度の増加も必要です。それでいて、うっかり火が燃え広がってしまった時のために、セットで温度を下げる魔法も習得せねばならず、難易度が非常に高いのでオススメはできません。


 さらに言えば、この教室では『人を殺傷しない魔法の習得』を目標としています。

 それなのに火炎の魔法って……そんなの日常でそう使う場面もありませんし、気軽に使えるものでもありません。

 メルシアくんの風魔法は人をなるべく傷つけない制圧魔法と考えられますし、リスタレットちゃんの血液増算は、極めれば輸血の代わりとして重宝されることでしょう。

 でも、炎はねぇ……殺傷能力も高いし、二次災害を引き起こすし、良い側面が思いつきません。


 ……という、以上三つの観点から『炎』がダメな理由を懇々と説いていたら、リスタレットちゃんはあからさまに凹んだ様子で俯いてしまいました。

 うぅ、ご、ごめんね? 一生懸命考えてくれたんだよね?

 でも炎は物質じゃなくて現象だから、これを操るには燃焼のプロセスを学習しなくちゃ……


 ん……? 現象?


「そうだっ!!」


 私がおもむろに手を打ちながら発した叫びに、お兄ちゃんとヴィクーニャちゃんは目を丸くして顔を上げました。


 そうですよ、何も魔法は物質量増算だけではありません。

 物質の制御が上手くいかないのであれば、現象の制御を試してみてもいいではありませんか。


「ログナくん、ヴィクーニャちゃん。ちょっと『現象』をあやつる魔法もためしてみませんか?」

「現象を操る魔法?」


 仲良く声を揃えた二人に、私はにっこりと微笑みながら頷きました。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 普通に面白いしよんでてたのしい! [気になる点] 誤字報告機能がオフ?になっているのかできないのでここで ヴィクーニャのはずが一か所リスタレットになっています 名前は正確には覚えてないです…
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