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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第四章 【帝都魔術学園】
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1歳6ヶ月 6 ―――お兄ちゃんの憂鬱



 ……翌朝。

 その日も明け方まで魔導具の開発に勤しんでいた私は、薄っすらと白み始めた空を見て一日が始まったことに気が付きます。

 それからいつものように早起きしているケイリスくんにまとわりついてお喋りしたり、寝ぼけまなこをぐしぐし擦りながら起きてきたレジィを散歩に連れて行ってあげたりしてから、ようやくお待ちかねの朝食にありついたのですが……


 しかし今日はいつもと違うことが一つありました。

 そろそろ学校に行こうかという時間になっても、お兄ちゃんが起きてこないのです。


 心配になった私は、お母さんと一緒にお兄ちゃんの部屋を訪ねてみました。


「おにーちゃーん! はいるよー?」


 私がそう声をかけてから、お母さんが扉を開きます。

 すると扉の向こうのベッドには、いまだにお兄ちゃんが横になっていました。しかも顔が半分隠れるくらいにしっかりと布団をかぶっています。


「ログナ? もう学校の時間よ?」


 お母さんがそう言っても、お兄ちゃんは「うん……」と小さい返事を漏らすだけで布団から出てこようとはしません。

 私とお母さんは二人で顔を見合わせてから、目元しか見えないお兄ちゃんに顔を近づけます。


「どーしたの、おにいちゃん?」

「ログナ、具合でも悪いの?」


 心配になった私たちがそう訊ねると、お兄ちゃんは私たちから視線を逸らしながら小さく頷きました。


 ええーっ!? 具合が悪いって、風邪!? 熱!?

 いくら私の魔法でも病気ばっかりは対処できないから、常日頃から家族の体調管理にはかなり気を配っていたつもりなのに!


 サァァ、と自分の顔が青ざめていく様が手に取るようにわかりました。見れば、私を抱いているお母さんも同じように顔面蒼白になっちゃってます。

 心臓がうるさいくらいバクバクと暴れ出して、私は半ばパニックに陥りながら涙目になっちゃいます。


「た、た、たいへん!! おかーさん、すぐにお医者さんを!!」

「ええ! セフィはログナのこと見ていてあげて!!」

「ううん、それよりわたしがはしったほうがはやいよ! まってて、すぐにもどってくるから!」


 てんやわんやの私たちが取り乱しながらそんなやり取りを繰り広げていると、ガバッと起き上がったお兄ちゃんが「い、いや、それは大丈夫だ!」と叫びました。

 私たちはそんなお兄ちゃんをすぐに横にさせると、布団を肩までかけてあげながら、


「で、でも……! たいへんな病気とかだったらどうするの!? 風邪だったとしても、ひきはじめが大事なんだよ!?」

「だ、大丈夫だって! おなかが痛いだけだから、ちょっと寝てれば治るから!」

「そんなのわからないでしょ!? ねんのために、お医者さんにみてもらったほうがいいよ!」


 私の脳裏に、『盲腸』や『大腸癌』といった不吉な単語がチラつきます。

 この世界では治療法の確立されていない病気なんてたくさんあるでしょうし……私の胸が締め付けられるように痛みました。


 しかし頑として譲らず病院に連れて行こうとする私たちに、なぜかお兄ちゃんはムキになって抵抗します。

 そして、いよいよ無理やりにでも医者に見せようと私たちが強行手段に出ようとした時、お兄ちゃんが突然布団を蹴っ飛ばしながら体を起こしました。


「あーっ、治った! さーて学校行くかなー!!」


 呆気にとられる私たちに構わず、お兄ちゃんは軽快な身のこなしでベッドから飛び降りちゃいます。


「え……っと……おにーちゃん? おなかは、だいちょうぶなの……?」

「は? なにが? ぜんぜん平気だけど?」


 なぜか自棄になったような調子でぶっきらぼうに言い切るお兄ちゃんに、私とお母さんは再び顔を見合わせました。

 そしてようやく冷静な思考が戻ってくると共に、お兄ちゃんが何を望んでいたのかを私たちは察します。


「ログナ、おなかが治ったなら、学校にいく?」

「…………う、うん」


 たっぷり間を置いて、しかも一瞬だけ下唇を噛みながら頷いたお兄ちゃんの様子に、私たちは確信(・・)します。


「……おにーちゃん、むりはだめだよ。今日はゆっくり休も?」

「え?」

「そうよログナ、今日は日頃の疲れが出ちゃったんだわ。きちんと安静にして、明日に備えましょう?」


 私たちはニコニコしながら、困惑の表情を浮かべるお兄ちゃんを再びベッドの中に押し戻しました。

 そうしてお兄ちゃんに寄り添いながら、「朝ごはんを持ってきてあげるわね」とか「学校のことは心配いらないからね」などと精一杯の優しい声色で語りかけてあげます。


 それから私は「今日は、はやめにかえってくるからね」と言い置いて、お兄ちゃんのことはお母さんに任せて家を出ました。

 本当は私も家に残りたかったけど、さすがに授業をすっぽかしたらお兄ちゃんも負い目を感じちゃうでしょうし。


 ……さて、今日は家に帰ったらどうするのか考えながら授業しなくちゃ。



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