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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第四章 【帝都魔術学園】
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1歳6ヶ月 4 ―――男友達



 雲一つない、ぽかぽか陽気の昼下がり。

 帝都ベオラント城前の通りをまっすぐ進んだところにある噴水広場に私が着いたときには、すでに彼はベンチに腰掛けて私を待っていました。


「ごめーん! 待ったー?」


 私がそんな風に呼びかけながら小走りで駆け寄ると、ベンチに腰掛けていた彼―――ボズラーさんは私の今の姿(・・・)を見て一瞬狼狽えたような反応をしつつも、立ち上がって首を横に振りました。


「いや、俺もさっき着いたところだ」

「そっか、よかった! じゃ、行こっか」

「ああ」


 ポケットに手を突っ込んで歩き出したボズラーさんの隣に、私は寄り添いながらついていきます。

 今の私は呪い(リルル)の首輪のおかげで、じょ……男子高校生くらいの外見年齢になっているので、魔法を使わなくてもボズラーさんの歩幅について行くことができるのでした。


「……マジで年齢まで操れんのな、お前……」

「これは私の魔法じゃないけどね?」


 ボズラーさんは呆れたような目で、私の頭のてっぺんからつま先までじっくりと視線を這わせました。


 なーんだ、思ったより反応薄いなぁ。つまんないの。

 まぁ、そもそもそこまで私に興味ないか。御前試合で恥をかかされた怨敵だしね。


 私は背中で手を組みながら、ボズラーさんを下から見上げつつ顔を寄せます。


「ね、今日はどこいくの?」

「この近くに、俺の行きつけのカフェがある。そこでいいか?」

「うん! ボズラーさんの行きつけかぁ。楽しみかも」

「静かでいいところだぜ」

「へぇ~」


 ボズラーさんが私の歩幅に合わせてくれるので、私たちは二人並んでゆっくりと馬車道沿いを歩いていきます。

 馬車の行き交う音を近くに聞きながら、私はさりげなく歩道側に誘導されたことをちょっぴり面映(おもは)ゆく思ったりしつつ、やがて目的のカフェに辿り着きました。


 私たちはドリンクとスイーツをそれぞれオーダーすると、あまり人気(ひとけ)のないカフェの奥で向かい合いました。


「その格好……」

「うん?」


 ボズラーさんがポツリと呟いた言葉に私が聞き返すと、彼は自分の赤みがかった金髪の前髪を指で弄びながら、


「髪型とか服装は、自分でやってんのか?」

「ううん、違うよ? うちの執事のケイリスくんがやってくれるの」

「ああ、なるほどな。……まぁ、通りで、センスが良いわけか」


 ボズラーさんは私の方を見ないで、そっけなく呟きました。


 いつも自宅で年齢を上げる時はせいぜい中学生くらいまでなので、今日みたいな高校生バージョンだと服のサイズがちょっとだけ小さくって際どいかなぁ……なんて思っていたので、ボズラーさんのその言葉は素直に嬉しかったです。

 髪型も、今日はちっちゃな三つ編みをアクセントにしたストレートヘアなので、少しは大人っぽく見えるかな。


 妙な形で帝都の有名人になってしまっている私は、こうやって外でゆっくりしたい時なんかは変装……もとい変身が不可欠になります。

 ですからついでにボズラーさんをびっくりさせてやろうと思った私は、ケイリスくんに「ボズラーさんとお出かけするから大人っぽい感じでお願い」とお願いしたのです。

 ……そしたらケイリスくんが不機嫌な顔してたのは、結局なんでだったんだろ?


 私は、ボズラーさんがばっちり着こなしているジャケットに目を向けました。


「そう言うボズラーさんは、なに着ても似合いそうだから羨ましいかも」

「んなことはねぇよ。仮にも貴族として恥ずかしくないように、結構悩んでるしな」

「ふふっ、そうなの?」


 鏡の前で衣装合わせを頑張っているボズラーさんを想像して、私はおかしくなって笑ってしまいました。

 ボズラーさんも思わず苦笑したところで、店員さんがドリンクを持ってきてくれました。


 そのドリンクは赤茶色をしていて、私の前世で言うところのコーヒーのような飲み物らしいです。


「お前、前に豆を()いた苦い飲み物の話をしたら、飲んでみたいって言ってただろ?」

「あ……覚えててくれたんだ」

「まぁ、たまたまな」


 授業が終わって生徒たちが帰ったあと、私とボズラーさんは二人っきりで学校に残って次の日の授業の打ち合わせをしたりしています。

 その時の雑談の一つを、彼は律儀にも覚えてくれてたみたいです。まぁ私相手だし、覚えてたのは本当にたまたまなんでしょうけど。

 でももしかして、今日ここに連れてきてくれたのって……


「……ありがと」


 私はちょっと早口でお礼を言うと、早速そのドリンクに口をつけました。

 おお~、少し風味が違うけど、なんとなくコーヒーっぽい。とっても懐かしい苦味です。


 私が「すごくおいしい」と言って笑いかけると、しかしボズラーさんは目を丸くさせて、テーブルの隅に置いてあった小瓶に手をかけたまま固まっていました。

 そしてボズラーさんは、小瓶からそっと手を放します。


 …………。


「それ、もしかしてミルクかなにか?」

「……ん? ん、んん……まぁ、そんなようなものかもな……」


 ボズラーさんの綺麗な青い瞳が、ススーっと泳ぎました。

 私はこっそり溜息をつきながら苦笑して、


「じつはコレ、ちょっぴり苦いな~、なんて思ってたんだよね。ムリしちゃった。えへへ」

「……! ……ったく、しょうがないやつだな。ほら、好きなだけ入れろ」


 私はボズラーさんに手渡された瓶のミルクをドリンクに注ぐと、それをボズラーさんに手渡しました。

 そして私がドリンクを口にしながらカフェの外に顔を向けると、視界の端でボズラーさんがドリンクにミルクをドボドボ入れまくっている音が聞こえてきます。

 ふふっ。もう、ええかっこしぃなんだから。


 前世において極限の疲労や睡魔と戦い続けていた地獄出身者である私は、ブラックコーヒーと栄養ドリンクのちゃんぽんなんて日常茶飯事でした。

 なので本当はブラックが好きなんだけど……まぁ、たまにはこういう甘ったるいのも悪くないかな。


 私はすっかり色の薄くなったボズラーさんのドリンクに気が付かないフリをしながら、店員さんが運んでくるデザートに目を向けました。

 そして私の目の前に置かれたデザートのピンクを基調としたカラーリングを見て、ふと大事なことを思い出しました。


「そういえばレーラ閣下、来月くらいには一度帝都に戻ってこられるらしいね」


 私がルルーさんの情報を口にした瞬間、ボズラーさんは露骨にピクリと反応して動きを止めました。


 どうやら聞くところによると、ボズラーさんが魔術師になる前の修行時代に師事してもらったのが、あのルルーさんだったそうなのです。

 ボズラーさんはあまり詳しく話してはくれませんが、なにやら昔、ボズラーさんがすごく困っている時に手を差し伸べて、支えてくれたのがルルーさんだったらしく、魔法を教えてもらえたのもその縁でなのだとか。


「へ、へぇ……そうなのか」


 ボズラーさんは興味なさげに素っ気なく言ったつもりなのでしょうが、明らかにそわそわしている様子を見れば、ルルーさんに会えるのを楽しみにしてるのはバレバレです。

 私はちょっと彼をからかってみたい気分になって、ニヤリと笑いました。


「ボズラーさんが療養中で前線に出られなくって、レーラ閣下も寂しがってるだろうね」

「そ、そんなことはないだろ……」

「そうかなぁ? 御前試合の時、陛下の命令でレーラ閣下が私の面倒を見てくださったんだけど、その時ボズラーさんのこともたくさん話してたけど」

「師匠が俺のことを!? なんて言ってたんだ!?」

「『ボズラーは本気のアンタと戦いたいのよ、だから手加減なんてやめなさい』って、ずっと説得されてたんだよ? よっぽど大事に思われてるんだね」


 私がそう言うと、ボズラーさんは思わずニヤけてしまう表情を隠しきれない様子でした。


 ちなみにどうして私がルルーさんの帰国情報を仕入れているかというと、私がヴェルハザード陛下にルローラちゃんとの一件を話して、忙しいルルーさんがなるべく早く帝都に帰ってきてくれるように手を回してほしいとお願いしたからなのです。

 ……同じタイミングで、私のお父さんのこともお願いしたのですが……それはとある事情により叶いませんでしたけどね。


 見るからに浮かれているボズラーさんに私は苦笑しつつ、


「私はレーラ閣下にあんまり好かれてないみたいだから、ボズラーさんにルローラちゃんのことはお願いしちゃおっかな?」

「は? 師匠に好かれてないのか?」

「うん。いつも汚いものでも見るかのような目で睨まれちゃってるよ」


 その私の言葉に、ボズラーさんは困ったような笑みを浮かべました。


「いや、師匠がそういう目をする時は、相手を気に入ってる時だぞ?」

「え?」

「師匠としばらく一緒にいれば、そのうち分かるさ」


 そんな意味深なことを言うボズラーさんの表情からは、なんとなく“わかる人にしかわからないルルーさんの心情”に通じていることへの優越感みたいなものを感じて、私はちょっぴりムッとしました。

 だから私はフォークを手に取ると、ボズラーさんの前に置かれたデザートのてっぺんに乗っていたフルーツをざっくりと刺して、そのままパクッと一口で食べてやりました。


「ああっ!? なにすんだお前! それ最後までとっとこうと思ったのに!」

「ふーんだ。そんなの知らないもんね」

「てめっ、そういうこと言うならこっちだって……ってお前、自分のデザートだけ魔法でバリアすんなよズリぃぞ!?」

「ふふっ、あはははっ!」


 私のケーキの周りに張られた結界をボズラーさんがフォークでガンガン殴っているのを見ながら、私は思わずお腹を抱えて笑っちゃいました。

 まぁちょっと可哀想だったので、私のデザートも分けてあげましたけどね。結局はお互いのデザートを半分ずつくらい分け合って食べました。


 と、こんな風に、本来の目的である“魔術に関するお互いの基本的な知識を教え合う”という目的も忘れてふざけあっていたせいで、私たちがようやく魔術の話を始めたのは夕飯前くらいになった頃でした。

 きっと遅くなるだろうと思って晩御飯は食べてくると家族には言ってあったので、私はそのままボズラーさんのお屋敷にお邪魔して、メルシアくんを交えてまた雑談に花を咲かせました。

 そしてメルシアくんを寝かしつけてからは、私たちはボズラーさんの寝室に移動して、二人で一晩中語り明かしました。


 ……そして翌朝 私が逆鱗邸に帰ると、どうやら一睡もせずに玄関で待っていたらしいネルヴィアさんたちに怒涛の質問攻めをくらってしまったのでした。



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