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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第四章 【帝都魔術学園】
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1歳5ヶ月 5



 ケイリスくん経由で面接の結果をセルラード宰相にお伝えしてから、数日後。

 今日はボズラーさんと一緒に、『帝都魔術学園(予定地)』となる校舎の下見へ行くことになっています。まぁ生徒数は四人なので、学園っていうより塾って感じですけれど。

 ついでなので、うちのお兄ちゃんとメルシアくんも一緒に連れて行くことになっています。


 今はちょうどお昼時なので、ケイリスくんお手製のご飯で腹ごしらえをしてから出かけるつもりです。

 そのため私は、先月から逆鱗邸に居着いているお兄ちゃんを呼ぶために、屋敷の中を歩いていました。

 ちなみにお母さんとお兄ちゃんには、逆鱗邸で余っていた一室をそれぞれプレゼントしてあります。余り部屋と言っても、部屋一つだけでアルヒー村にある私たちの実家とほぼ同じような広さなので、二人は「広すぎて落ち着かない」とか言っていましたけどね。


「……ん?」


 廊下を歩く私は、ふと前方に人影を見つけました。ネルヴィアさんです。

 彼女はとある一室の前で右往左往しては、時折扉をノックしたりしています。


「おねーちゃん。どうかしたの?」


 私が声をかけると、ネルヴィアさんは「セフィ様!」と表情を輝かせました。

 そしてそのまま私がネルヴィアさんの足元に歩み寄ると、そこで彼女は「あっ!」と声を上げて、嬉しそうに破顔しました。


「その首飾り……!」

「あ、きづいた?」


 そう、じつは今日の私は首飾りを着用しているのです。普段の服装だと、一歳児が首飾りというのも妙な感じなのですが、しかし今のように帝国魔術師に支給される軍用外套の上から着用すると、黒い外套に金色の首飾りが映えて、良い感じになることに気が付いたのです。


「よくお似合いです、セフィ様!!」

「えへへ、ありがと」


 ネルヴィアさんは頬を紅潮させながら私を抱き上げて、私の顔と首飾りを交互に見つめてうっとりとしています。

 彼女がどうしてここまで喜びを露わにするのかというと、じつはこの首飾り、ネルヴィアさんが私のために選んで買ってくれたものだからです。


 共和国から帝都に戻り一段落して、やっとこさ愛しの逆鱗邸に帰ってきた私が、マイベッド&マイ枕の素晴らしさを再認識していると、そこにネルヴィアさんが現れたのです。

 いったいどうしたのかと思っていると、ネルヴィアさんは遠慮がちに、後ろ手に隠していたものを私に差し出しました。それがこの、金色の首飾りだったのです。


 聞けばどうやら、私たちが帝都に帰る前日、私がルローラちゃんを連れてミールラクスに会いに行っているあいだに、プラザトスの商店に残ってお土産を買っていた三人が私のために選んで買ってくれたものみたいです。

 ちょっとおかしな表現ですが、三人から私への“共和国土産”ってところでしょうか。

 まったく、嬉しいサプライズをしてくれるじゃないですか……!


 ネルヴィアさんがくれたのは鉱山都市(レグペリュム)製の首飾りでしたが、他の二人もそれぞれ私のためにお土産を選んでくれていました。

 レジィからは動物の尻尾を模した、手触りの良いふわふわなストラップ。ケイリスくんからは、透き通った水色の宝石が嵌め込まれている綺麗な髪留めです。

 レジィのストラップは軍用外套の胸の部分に留めていますし、ケイリスくんの髪留めも今朝、髪を梳いてもらうついでに着けてもらいました。

 つまり今の私は完全装備! 誰にも負ける気がしません!


 私はネルヴィアさんにひとしきり褒められて気を良くしながら、さっきまで彼女がノックしていた扉に目を向けました。

 この部屋は、私がルローラちゃんに与えたお部屋ですね。


 私の視線に気が付いたネルヴィアさんは困ったように笑いながら、


「ルローラちゃん、昨晩も今朝もご飯を食べてないんです。だからちょっと心配になって……」


 ルローラちゃんがご飯を抜くのは珍しいことではありません。放っておいたら一日中ベッドの上ってこともありますからね。

 とはいえ彼女はエルフの里から預かっている大事な客人ですので、万が一のことがあってはいけません。


「おねーちゃん、ドアあけて」


 私がお願いすると、ネルヴィアさんは遠慮がちにドアノブに手をかけて、「ルローラちゃん? 開けますよー?」と声をかけてから、扉をそっと開きました。


 室内にはいろんな衣類が雑然と散らばっていて、ネルヴィアさんはそれらの服を踏まないように気を付けながらベッドに近づいていきます。

 そして辿り着いたベッドの上では、二十歳くらいの女性がパンツ一丁でクッションを抱きしめながら幸せそうに眠りこけていました。

 ……二の腕とクッションの隙間からちょっとだけ見える膨らみは、ルローラちゃん本人が気にする程ぺったんこではないように見えるのですが……まぁ、たった今 私の左半身に当たっている豊満なコレを見たら、自信を無くして卑屈になってしまうのも無理はないのかもしれません。


「えぇ~……そこまでおっきくないよぉ……むにゃ……」


 なにやら幸せそうな顔で漏らされたルローラちゃんの寝言に、私は思わず涙がこみ上げます。

 ……そこまでちっちゃくないよ! だから夢に見るくらい、胸のサイズを気にすることは無いんだよ、ルローラちゃん……っ!!


 私が悲しみを背負っているあいだに、寝言の意味がわからなかったらしいネルヴィアさんが、容赦なくルローラちゃんの肩を揺すってしまいました。も、もうちょっと幸せな夢を見させてあげようよ……!


 しかし現実は残酷です。「ふぁ……?」と目を開けたルローラちゃんは、まず自分を起こしたネルヴィアさんと私の顔を交互に見て……

 それから、ふと自分の胸部に視線を落として、「あ……」と悲しそうな表情になりました。


 うわぁぁぁ! そんな切ない顔しないでよ! 私までちょっと悲しくなったじゃない!


 ルローラちゃんは澱んだ瞳で乾いた笑みを浮かべると、


「ねぇ、ゆーしゃ様……世界って……不公平だね……」

「そ、そんなことないよ!? それにルローラちゃんはすっごく美人さんだよ!」


 そんな私の言葉にも、ルローラちゃんは遠い目をして曖昧に笑うだけでした。

 あぁ、今の彼女にはどんな言葉も届かない……


 いや実際、エルフ族に共通する神秘的なまでの容姿とか、彼女の身長よりも長い綺麗な金髪とか、本当に美しいと思います。お肌も透き通るような白さだし、手足もすらっと長いし。

 でも百人のエルフ族に聞けば、おそらく百人全員がネルヴィアさんの方が美しいと答えてしまうのでしょう……


 すると私とルローラちゃんが生み出した切ない空気を読まずに、ネルヴィアさんはおっとりとした笑顔でこの部屋を訪れた趣旨を口にしました。


「ルローラちゃん、そろそろお昼ご飯ですよ。昨日のお昼から、何も食べてませんよね?」

「……えぇ~……べつにいいよ……たった今、食欲なくなったから」

「もう。ご飯を抜いてばっかりいると、大きくなれませんよ?」


 ネルヴィアさんが何気なく口にした言葉に、ルローラちゃんの普段は気怠げ(アンニョイ)な目が“クワッ!!”と見開かれました。

 そしてベッドから飛び起きたルローラちゃんはネルヴィアさんの肩を激しく揺すりながら、


「それはどーゆー意味だー!! 大きくなれなくて悪かったなー! 小さくて悪かったなーっ!!」

「え、ええっ!? 急にどうしたんですかルローラちゃん!?」


 わりとガチ泣きしながらヤケクソになっているルローラちゃんを、私は「どうどう! おちついてルローラちゃん!!」と必死で宥めます。

 そしてネルヴィアさんの胸からルローラちゃんの胸に飛び移った私は、彼女の頭を優しく撫でてあげながら、


「いまのはおねーちゃんがわるかったよね。ごめんね、ルローラちゃん」

「うぅ……ぐすん……ゆーしゃ様ぁ……」

「ほら、きっとおなかがすいてるから、いやな気持ちになっちゃうんだよ。いっしょにお昼ごはんをたべよう? ね?」

「うん……いっぱい食べて大きくなる……」


 いや、うん……大きくなるかどうかは知らないけど……


 すんすんと鼻をすすりながら、ルローラちゃんは私をベッドの上に下ろしました。それから床に落ちていたワンピースを頭から被るようにして着ると、枕元に置いてあった髪留めで長い金髪を頭の後ろにまとめます。

 その間に少しは冷静になってきたのか、ルローラちゃんはオロオロと困惑しているネルヴィアさんのことを上目遣いに見つめて、


「……ごめん、ネルヴィア。ちょっと取り乱した」

「い、いえ! お気になさらず……!」


 そしてその後ルローラちゃんは、私から事情を聞いたうちのお母さんに「よしよし」と慰められていました。

 見た目中学生くらいのうちのお母さんは、“貧者同盟”の筆頭ですからね……ルローラちゃんもそのうち、「お姉様……!」と瞳を輝かせて懐いちゃってました。


 そして“貧者同盟”の結束を高めるべく、今度ルローラちゃんとお母さん、そして私の三人で外食にでも行こうかという話になっているらしく……

 ……って、なんで私まで同盟に加えられてるの!? 私は違うって言ってるじゃん! ちょっとぉー!?



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