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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第四章 【帝都魔術学園】
160/284

1歳5ヶ月 4

/*

ぇぐぞう様にレビューしていただきました!

ありがとうございます!

*/



「はぁ……」


 私は自室のベッドで枕を抱きしめながら、多量のストレスを含んだ溜息を吐きだしました。


 せめて教え子がメルシアくんだけだったら、過保護でブラコンなボズラーさんをあしらうだけで平和的に先生ができたのになぁ。

 お兄ちゃんはまだ良いにしても、謎のシスターちゃんと大公女様って……胃が痛いってレベルじゃありません。


 まぁ、あの皇帝陛下と大司教様が私に嫌がらせをするとは思えませんから、きっとこれにも何かしらの理由があるのでしょう。

 帝都に絶大な影響力を持つ二人と深いかかわりを持つ子供たちを立派な魔術師に育て上げることができれば、私の先生としての“箔”も付くってものでしょうしね。

 教育に成功すれば「あのお二人に教育を任されるだなんて、さすがセフィリア卿!」みたいに口コミが広がって、本格的な魔法学校を開設した時に有利でしょうし。

 もし失敗しても、あの二人がわざわざ私の悪評を広めるとも思えませんし、リスクは最小限に抑えられていると言えます。


 でもなぁ~……絶対に事故を起こしちゃいけないというプレッシャーが、このちっちゃな肩にのしかかってくるのは中々に負担です。

 まぁ誰が生徒でも、事故が絶対に起こらないようにすることには違いないんですけれど。


 とはいえ、私の専門分野の知識を子供たちに教えてあげるだけで公爵位が叙爵できるなんて、ローリスク・ハイリターン過ぎます。

 私にとっては近所の子に将棋を教えてあげる程度のことですから、私の忌避する『労働』とは程遠いですし、とにかく事故だけは起こさないように気をつければいい簡単な任務です。

 時間も無制限なわけですから、何ヶ月もかけてゆっくりと教えていくとしましょう。


 無理やりポジティブな結論を導き出した私は、すっかり日の暮れた窓の外を眺めて立ち上がりました。

 よし、気分転換にお風呂にでも入ろうっと!


 私は鼻歌交じりに部屋を出て、お風呂場に向けて廊下を歩いて行きます。

 そして脱衣所の扉を開けた時、そこで衣類を手に抱えたケイリスくんを見かけました。


 脱衣所に通じているお風呂場からは、シャワーの水音が聞こえてきます。ちなみにシャワーは私の自作した魔導家電シリーズ。

 私はケイリスくんに向き直って、


「だれか入ってるの?」

「はい、レジィ様が」


 なるほど、じゃあケイリスくんはレジィの着替えを用意してあげてたってわけね。レジィは放っておくとかなり過激な露出度で屋敷内をうろつくからな~。

 お風呂に入ってるのはレジィか……じゃあ、べつに待つ必要もないね。


 私はケイリスくんに背を向けると、身に纏っていた部屋着を脱いでカゴに投げ入れます。

 そして、自室から持ってきていた“首輪”を自分の首に嵌めました。


 ふっふっふ。共和国でこの魔導桎梏(くびわ)を外した後、じつはルグラスさんにお願いして貰っておいたのです。

 一緒に貰っておいた鍵も首輪にぶら下げてあるので、簡単に着けたり外したりが可能となっています。


 私は首輪を嵌めて何度か回転させることで、自分の身体を中学生くらいにまで成長させました。

 そして首輪をカチッと外してタオルを体に巻き付ければ、準備完了!


 さーて、私もレジィと一緒にお風呂に入ろっと。


「ちょ、ちょっとお嬢様!?」


 なぜかケイリスくんが血相を変えながら、お風呂場に向かおうとする私の腕を掴んで止めました。

 え、なに? どうかしたの?


「ま、まさか一緒に入るつもりですか?」

「そうだけど?」


 私より頭一つほど背の高いケイリスくんが、少し頬を赤らめながら私の両肩にがっちりと手を置きました。


「……お嬢様は、もう少し自分の外見に頓着して、いろいろと自覚を持つべきだと思います……!」


 え? どういうこと?

 私は状況が呑み込めずに首を傾げていると、そこで不意にお風呂場の扉が開かれました。


「おいケイリス、今なんか言っ―――うわぁぁああっ!?」


 そしてしっとりと濡れそぼったレジィが顔を出すと、彼は私と目が合った瞬間に顔を真っ赤に染めて、叫びながら扉を勢いよく閉めました。

 むっ、人の顔を見るなり叫ぶなんて、失敬な!


 私が頬を膨らませて憤りを主張していると、ケイリスくんは自分のジャケットを私に羽織らせて背中をグイグイと押し、私を脱衣所から追い出しました。

 そして私を廊下の壁に追い込んだケイリスくんは、私の顔のすぐ横に手を付きながら、鬼気迫る表情で顔を近づけてきました。


「前にも言いましたけど、成長した姿でお風呂に入るのは禁止です!」

「え~? なんで?」

「なんでもです! わかりましたねっ!?」


 普段は物静かなケイリスくんの激しい剣幕に押された私は、「……はぁい」と渋々頷きました。

 ちぇっ。赤ん坊の姿じゃ、私の憧れる“仲良し家族シチュエーション”の一つである『背中流しっこ』ができないじゃないですか! いいじゃん、男同士なんだから!


 ちなみに私が年齢を自在に変えられることは、お兄ちゃんとお母さんが知ったらいろいろと面倒なことになりそうなので内緒です。

 だから背中流しっこは、レジィかケイリスくんとしかできないのに……


 いや、待てよ……? 今は反対しているケイリスくんも、一度強引にでも一緒に入ってしまえば、以降はなぁなぁで許されるかも?

 名付けて、『お風呂DE既成事実☆大作戦』!


 …………よし。



 その日の夜更け、一通りのお仕事を終えたケイリスくんがお風呂に入っているタイミングを狙って、私は成長した姿でお風呂場に突撃してやりました。



 ……そして本気で怒ったケイリスくんにお風呂場で正座させられた私は、懇々(こんこん)と一時間ほどお説教を受けたのでした。



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