表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
156/284

1歳4ヶ月 17 ―――帰還



 翌日。

 セフィリア(じるし)の魔術結界に守られた宿の大部屋で、私たち五人は一緒に朝を迎えました。


 私はあくびをしながらケイリスくんに髪を()いてもらいつつ、ほかのみんなの様子に目を向けます。

 ネルヴィアさんは「ルローラちゃん、朝ですよ~」などと言ってルローラちゃんを起こそうと肩を優しく揺すっていますが、ネルヴィアさんが前かがみの姿勢をとっているため豊満な胸部が強調されてしまっています。朝は特に寝起きが悪いルローラちゃんが朝イチでそんなものを見たら、八つ当たりで揉みしだかれちゃうよ?

 レジィは朝起きたばっかりで体力が有り余っているのか、室内を落ち着きなくウロウロしていました。私が「帝都に戻ったら、すぐにお散歩しようね」と言ってからは、尻尾をブンブン振りながら大人しくなりましたけれど。


 帝都に戻ったら……かぁ。もうすぐプラザトスとも……いえ、共和国ともお別れなんですよねぇ。

 私が魔法を取り戻したからには、また来ようと思えば気軽に来れますけど……それでもなんとなく感慨深いものがあります。


 昨日はミールラクスが逮捕されたり、故グラトス元大統領の冤罪疑惑が濃厚になったり、首都を襲撃しようとしていた魔族の軍勢が追い払われたりと、プラザトス民にとって明るいニュースが目白押しでした。

 その影響でプラザトスはお祭りムードとなっていたそうで、いつぞやのルーンペディの時と同様、ダンディ隊長が私たちも一緒に騒がないかとお誘いをかけてくれたりもしたものです。


 でも魔王説とかが浮上してるらしい私なんかが参加したら、せっかくの盛り上がりが一転してお通夜と化すことは目に見えています。ダンディ隊長は「そんなことはない、セフィリア殿を恐れているのはほんの一部だけだ」なんて言ってましたけど、いやいやそんなことはないと思いますよー? 私、嫌われ慣れてますからね。

 ケイリスくんはプラザトス民に今でも人気っぽいですし、ネルヴィアさんは騎士団関係者から絶大な支持を得ていますから、「せっかくなら行ってきたら?」と言ってみたのですが……私が行かないなら行く理由がないと言って、結局五人で仲良く晩御飯を食べました。


 と、まぁ、そんなわけで。


 私たちは支度を済ませると、プラザトスの関所に移動しました。

 お見送りは正直期待していなかったのですが、騎士団全員とダンディ隊長、それからルグラスさんと幼馴染のメイドさん、そして私たちの出立を聞きつけた街の皆さんが駆けつけてくれました。

 わ、私が帝都を発つ時さえ誰もお見送りしてくれなかったのに……いえ、私が帝都の人たちと顔を合わせないようにこっそり出発したのが原因なんですけど。

 それでもやっぱり、お見送りしてもらえるというのは嬉しいですね。ほとんどは怖いモノ見たさとか野次馬でしょうけど、少しくらいは私に好意的な人もいるって思いたいものです。


「セフィリア殿……共和国のため、プラザトスのため、何から何までありがとうございました」


 そう言って深々と頭を下げるルグラスさんに、私は慌てて首を振りました。


「い、いえいえ! こちらこそ、ありがとうございました」


 首輪の件がスムーズに運んだのも、ダンディ隊長やルグラスさんの協力があってこそです。それに、グラトスさんの冤罪を証明できたのだって、ルグラスさんや騎士団の皆さんの協力はとても助かりました。

 私たちは自分のやりたいことをやりたいようにやっただけですから、お礼を言われるような筋合いなんてありません。


 ……それに、ミールラクスの現状がルグラスさんの耳に届いていないわけがありません。それでも彼が私に何も言ってこないで、こうして笑顔で送り出してくれるだけでもありがたいことです。

 私は証拠を何ひとつ残さず事に及びましたが、よくよく考えてみたら証拠を何ひとつ残さなかったことが、きっと何より雄弁な証拠でしょうしね……


 仮にも父親であるミールラクスを、二度と悪さができないように闇討ちした私へ、恨み言の一つでもぶつけたってバチは当たらないというのに……ルグラスさんは(かげ)り一つない精悍な顔つきで私と向き合っています。


「いずれこの恩は、何かしらの形で帝国にお返ししたいと思います」


 う、うーん、真面目さんだなぁ……この人本当にミールラクスの息子さんですか?

 話が国家スケールになっちゃって怖くなった私は、ルグラスさんの言葉を曖昧な笑顔でやり過ごしました。


 そしていよいよ私以外のみんなが馬車へ乗り込もうとしたところで、整列する騎士団が敬礼しながら声をかけてきました。


「竜騎士殿! またいつか ご指導の程、お願いいたします!!」


 その声に、ネルヴィアさんは顔を赤くしながらぺこぺこと頭を下げています。

 続いてルグラスさんが、優しい微笑を浮かべながらケイリスくんと目を合わせました。


「ケイリスくん、私が言えたことではないが……キミの幸せを願っているよ」


 ケイリスくんは柔らかい表情で、こくりと頷きます。そして二人はちらちらと私を盗み見ながら、また口パクで何事か言葉を交わしていました。だからそれ怖いからやめてってば!! ルグラスさん何ニヤニヤしてるの!? ケイリスくん顔赤いけど何を言われたの!?


 私はもやもやした気持ちを抱えながらも、見送りに来てくれたプラザトスの人たちに視線を向けます。

 えっと、私には何かないの? ほら、なんでもいいよ? 「また来てねー」とかでも大歓迎だよ!

 そんな期待の篭った私の視線に応えるかのように、プラザトスの人たちは笑顔で私に声をかけてくれました。


「プラザトスを守ってくれてありがとう、魔王様~!」


 勇者だっつってんだろ! 滅ぼすぞ!!


「また契約するから、遊びに来てね~!」


 悪魔じゃねぇっつってんだろ! 魂抜き取るぞ!!


 もういいもん! 次は助けてやらないからな、おのれら! 覚悟しとけよー!!

 私が半泣きで拗ねながら馬車へ向かおうとすると、「ありがとうー!」とか「また来てね~!」みたいな言葉が私の背中にかけられました。


 …………。


 ま、まぁ……もう一回くらいなら、街の一つや二つ救ってあげてもイイけどっ!?


 私はちょっとはにかみながら、みんなに向かってちっちゃく手を振って……それから馬車に手を触れて魔法を発動しました。

 現在、馬車には私の仲間たちとお土産類がぎっちりと入っています。そしてもう一つ、小さくて古い馬車を頂いて、その中には今日まで私たちの馬車を頑張って引いてくれた二頭の馬が入っています。

 そして魔法の効果で重量をほぼゼロにされた二つの馬車を、私は自分の体にロープで連結しました。

 さぁみんな、シートベルトはちゃんとしめた?


「それじゃあ、ばいばい!」


 私はそう言い残すと、速度指定子と重量指定子、それから風魔法を使って駆け出しました。

 帝都まで馬車で一ヶ月? 途中でルーンペディとかエルフの里に寄り道する時間を含めたって、今日の夜までには着いてやりますとも!



 こうして私たちはプラザトスを後にして、それからこの日の夜、帝都ベオラントへと無事帰還を果たしたのでした。




/*

 ブクマ、評価、感想ありがとうございます! とっても励みになっております……!


 これにて共和国編は終わりになります!

 次回から新章突入です!

*/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ