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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
153/284

1歳4ヶ月 14 ―――震天動地の魔王



 私は足元に落ちていた小石を二つばかり拾って右手に握りしめると、「絶対領域(アイアンメイデン)」と呟きました。


「この小石がくっついてるあいだ、バリアがはられるから。いざとなったらつかってね」


 そう言って、私はケイリスくんに小石を手渡します。

 小石同士が接触している間、私がこの旅の中で重宝した防御魔法絶対領域(アイアンメイデン)が発動するようにプログラムしました。

 人体と光以外のあらゆる速度を遮断するこの結界があれば、たとえミールラクス一派の残党が襲ってこようと返り討ちにできることでしょう。


 それから私はルグラスさんを振り返って、


「ルグラスさん。ケイリスくんとルローラちゃんのこと、よろしくおねがいしますね」

「ああ、任せてくれ」


 真剣な表情で頷いてくれたルグラスさんに軽く微笑みかけてから、私は脳内にプログラムを構築していきます。

 そして私の大切な仲間たちに向けて、元気いっぱいの声を響かせました!


「いってきます!」


 私の言葉に、ケイリスくんは深々とお辞儀をしながら「行ってらっしゃいませ」と、ルローラちゃんは軽く手を振りながら「いってらっしゃーい」と、それぞれ温かく送り出してくれました。


 私はそんな二人に後押しされながら、構築した魔法を解き放ちます。


「『燃えない蝋翼(ナイトオウル)』!」


 直後、私は烈風を巻き起こしながら垂直に飛び上がり、すぐにプラザトスが一望できるほどの高度まで到達しました。周りに群がっていた野次馬たちが、歓声とも悲鳴ともつかない声を上げるのが遠く聞こえてきます。


 さて、魔族の軍勢とやらは……あっ、あれかな? 薄暗くて良く見えないけど……

 わっ、冷たっ!? 雨降ってきてるし!

 ああもう、なんで今日に限ってこんな天気なのー!?


 暗いので上空からだと敵味方の区別がつかなくて危ないし、暗さと雨のせいで向こうからも私が見えないから味方も敵も逃げてくれません。

 あの雲のせいで、これじゃあ殺さずに魔族を追い返すっていう私の目的が……


 私はプラザトスの上空を飛びながら、騎士団と魔族の軍勢が戦っているであろう場所へと近づきながら、ポツリとつぶやきました。




「……(アレ)……じゃまだな」




ฎธๅ 天海の奇蹟╞ ข๏ฎค ╡

ฉßญ๏ำษๅ€ ฎธๅ ¢๏ำค╞ ó₀₀₀ͺ ₀ͺ ╕₀₀₀₀ͺ ¿₀₀₀ͺ ¿₀₀₀₀ͺ ╕₀₀₀₀₀ ╡Ƃ

โ๏๏ค ฿ โ๏๏ค ∺ ₀Ƃ

โ€ๅษโธ โ๏๏คƂ


整数制御魔法「天海の奇蹟」╞ 受け取る値は無し ╡

我が身より横軸3000、縦軸0、高度軸20000の地点を基準として、

横幅6000、縦幅600000、高度幅200000を満たす領域に整数値と「โ๏๏ค」という名を与えよ。

โ๏๏คの物質量に整数値0を乗算し、その値をโ๏๏คへと代入せよ。

処理後のโ๏๏คを返却せよ。



「『天海の奇蹟(ブルーライン)』」



 上空を飛行する私のさらに上、雨粒を零し始めた黒雲が、真っ二つに切り取られました。


 プラザトスから六〇〇メートルに渡りまっすぐ切り裂かれた雲は、まるで薄く開かれたカーテンのように青空を覗かせる天空の“道”のようにも見えます。

 雲の隙間から漏れる光って、たしか“天使の梯子”とか言うんですよね? じゃあ、そこから舞い降りてきた私は、つまり天使? むふふ、ついに処刑人とか悪魔とかは卒業ですね!


 いやぁ、明るくなったから視界が良好です。これでみんな濡れなくて済むし、一石二鳥だよね?


 景色が明るくなったことで、上空からでも地上の戦況がよく見えるようになりました。

 まず、プラザトスの外周防壁には弓兵隊がずらりと並んで弓を構えていました。戦線を越えてくる魔族がいたら、狙い撃ちにする算段なのでしょう。……でもなんで貴方たち、悲鳴をあげながら私に矢を向けてるの? 私は味方だよ~? 怖くないよ~?


 そして外周防壁から数百メートルほどのところでは、剣を構えた歩兵や騎兵の騎士たちが左右に広く展開して魔族に応戦していました。でも上空(わたし)を振り返った一部の騎士が、腰を抜かしてへたり込んじゃってます。こら、しっかりしなさい。


 そしてそんな騎士団の前方、最前線では、ネルヴィアさんとレジィが魔族の軍勢を千切っては投げ、千切っては投げといった感じに大暴れしていました。

 う、うん……無理は絶対にしないでと言ったはずだけど、二人にとってその程度のことは無理じゃないと言うのなら、もう私は何も言わないよ……


 いきなり空が切り裂かれたことで振り返ったネルヴィアさんとレジィが、ゆっくりと舞い降りてくる私の姿を認めた瞬間、一目散に後退を始めました。

 うっすらと「全員、巻き込まれる前に後退してください!!」とか「死にたくなければ下がれお前らー!!」という声が聞こえてきます。そんな、人を災害みたいに……


 ちょっと意外な登場の仕方をした私の存在に、魔族たちは後退する騎士団を追いかけることもできずに固まってしまっています。

 さて、どうやって彼らを傷つけずにお引き取り願ったものでしょうか。


 魔族たちがボサっとしているあいだにネルヴィアさんやレジィ、そして騎士団が十分に後退したため、騎士団と魔族軍勢のあいだに一〇〇メートルくらい間隔が空きました。

 えーっと、とりあえず私たちの目的は、魔族たちがプラザトスへ侵攻するのを阻止することだから……


 とりあえず、まずは“線”を引こっか。



ฎธๅ 背徳の粛清╞ ข๏ฎค ╡

ฉßญ๏ำษๅ€ ฎธๅ ¢๏ำค╞ ó₀₀₀ͺ σ₀₀₀ͺ -Î₀₀₀₀ͺ ¿₀₀₀ͺ ╕₀₀₀ͺ Î₀₀ ╡Ƃ

ำฎธ€•ๅ€๓ฦ ฿ ำฎธ€•ๅ€๓ฦ - Î₀₀₀Ƃ

ำฎธ€ ฿ ำฎธ€ ∺ Î₀₀Ƃ

ำฎธ€•๏โฎ€ธๅ ฿ ๏โฎ€ธๅ╞ ₀ͺ ç₀ ╡Ƃ

ำฎธ€•╘๏¢ษญ ฿ ╘๏¢ษญ╞ σ•¿ ╡Ƃ

โ€ๅษโธ ำฎธ€Ƃ


整数制御魔法「背徳の粛清」╞ 受け取る値は無し ╡

 我が身より横軸3000、縦軸5000、高度軸-10000の地点を基準として、

 横幅6000、縦幅2000、高度幅100を満たす領域に整数値と「ำฎธ€」という名を与えよ。

 ำฎธ€の温度メンバに整数値1000を加算し、その値をำฎธ€の温度メンバへと代入せよ。

 ำฎธ€の物質量へ100を乗算し、乗算後の値をำฎธ€へと代入せよ。

 物質量の乗算方位は水平軸を0度、垂直軸を90度とし、ำฎธ€の方位メンバへと代入せよ。

 絞り値は5.6とし、ำฎธ€の絞り値メンバへと代入せよ。

 処理後のำฎธ€を返却せよ。



「『背徳の粛清(レッドライン)』」



 魔族たちがプラザトスへたどり着くための道筋を阻む“線”を引くようにして、地面が大爆発を起こしました。

 一〇〇〇度まで熱せられた地面が噴火すると、オレンジ色に輝く溶岩の壁が出現します。

 すぐに壁は重力に従って落下していきますが、幅が約三〇メートルほどにまで及ぶマグマの境界線は思ったより粘り気があるみたいで、ボコボコと煮え立ちながら輝く山みたいになっちゃいました。


 あー、爽快っ!! エルフの里でも、ドラゴン退治でも、自分の実力が満足に発揮できないことが非常にストレスでした。本来だったら三分あれば片付けられる問題を、何時間もかけて回りくどい方法で解決しなければならないジレンマ!

 それが、ついに解放されたのです! 大きな魔法を使った後の、この脳が疲労してクラクラする感覚さえ愛おしい!

 腹の底から愉快な気分がこみ上げてきて、思わず笑っちゃうくらいです!


「うふっ、ふふ、あはははははははっ!!」


 私は自身から一定範囲を適温に保つ魔法『適正の壁(ベビールーム)』を発動しながら、煮え立つ溶岩の山にゆっくりと降り立ちます。

 そして景色が歪むほどの超高温となった、オレンジ色に光る山の上から魔族たちを見下ろしました。ふーん、もっといろんな種族がいるのかと思ったけど、案外同じような種族ばっかりに見えるなぁ。獣系が多い印象です。

 まだ足の遅い魔族たちは辿り着いていないって話ですし、これからいろんな種族が来る予定なのでしょう。


 今の爆発でほとんど魔族がひっくり返っていますが、彼らは私の視線に気が付くと慌てて立ち上がって身構えました。その態度や表情からは怯えの色がありありと見て取れて、なんだかこっちが悪者みたいな気分です。そ、そんな怯えながら後ずさりしないでも……


 んーと、言葉は通じるのかな? 一応オークとかも言葉は通じるみたいだったし、大丈夫だとは思いますけど。

 まぁ言葉を理解できない魔族がいても、誰か一人でも逃げ始めれば連鎖的に逃げる“流れ”ができ始めることでしょう。


 私はちょっぴり悪役っぽい笑みを浮かべながら、冷え切った声色を彼らに投げかけます。


「今すぐおうちへ帰るなら、みのがしてあげる。それいがいは、みんなころす」


 私の放った最後通告に、見るからに動揺と恐怖の反応を見せる魔族たち。

 戦場の“前線”を食い破ってきたってことは、つまり彼らは「人族との戦いにおける矢面に立たされるくらい立場の弱い魔族」ということです。レジィ曰く、立場の強い魔族たちは魔族領の奥に住んでいるそうですからね。

 そんな彼らのモチベーションはおそらく、「ここで一旗揚げて、俺らの地位を向上させようぜ!」というものであるはずです。決して「魔族の未来のために、命を賭して共和国の首都を攻め落とすんだッ!!」というような熱い想いではないでしょう。


 私は小声でこっそり「『生命の洗濯(ラストアーク)』」と呟いてから、大きな声でカウントダウンを始めました。


「十……九……八……」


 いきなり始まったカウントダウンに魔族たちは狼狽えますが、中には果敢に立ち向かおうとするような意思を見せる魔族も見受けられます。

 しかし私が先ほど発動した魔法によって、彼らの足元の地面に亀裂が走りました。


「七……六……五……四……」


 亀裂は徐々に広がってゆき、ところどころで地面が隆起したり陥没したり、地面の奥底から不穏な地響きが聞こえてきます。


 私はさらに大きな声で、彼らを追いつめるように冷たい声色で叫びました。


「さん! にぃ! いち!!」


 そして最後に、私が「ぜろ」と言い切る前に……魔族の軍勢は悲鳴をあげながら踵を返して、一人残らず来た道を引き返していきました。うん、わざわざこんなところで命を懸ける理由はないもんね。報われるかわからない功績なんかよりも、自分の命が大事に決まっています。


 あの様子からして、多分ちゃんと魔族領まで逃げ帰ってくれるとは思いますけど……

 念には念を入れる意味を込めて、私はもう一度『天海の奇蹟(ブルーライン)』を発動し、まるで彼らを追いかけるかのように雲を切り裂いてみました。すると彼らの逃げる速度が明らかに上がったので、これできっと大丈夫でしょう。


 彼らがちゃんと帰ったか、そして後続の魔族たちも引き返してくれたかは、あとで移動魔法を使って偵察してくるとして……

 今はひとまず、この勝利を仲間たちと分かち合うとしましょう。



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