0歳9ヵ月 2
それからしばらくしてお昼時になると、ペリアちゃんを含めた近所のお姉ちゃんたちは、昼食のためにお家へと帰っていきました。
去り際に私の耳元で、「大変だねぇ」と囁いていった彼女は、一体何者なのでしょうか……?
それはさておき。幸せそうな顔のお母さんを眺めながら私がおっぱいを吸っていると、お母さんは私の白金色の髪を撫でつけながら、思い出したように言いました。
「そういえばさっき聞いたんだけどね。この村に今度、騎士様がいらっしゃるみたいよ?」
「きしさま?」
「帝都の偉い人よ。騎士修道会っていうところに所属しているんだって」
騎士修道会……なんだか嫌な響きです。
つい先日、うちの狂信者を成敗……ごほんごほんっ、平和的に説得したばかりなので、そういう宗教的なお話は聞きたくないのですが。
一応、わずかな可能性に賭けて確認しておきましょう。
「……それって、『ゆうしゃしんこう』の?」
「う、うん。そうみたい」
ですよねー。
そりゃあ最大宗派ですもんね。帝都にもがっつり影響を及ぼしてますよね。
しかも今は戦時中……最も勇者の登場が望まれる時ですし。
「で、でもね、今回の騎士様の派遣は、盗賊退治のためらしいの」
「とーぞく?」
ああ、そういえばそんな話もありましたね。二ヶ月くらい前でしたっけ?
すっかり話を聞かなくなったので、もう捕まったのかと思ってましたけど……まだいたんですか。
「それって、なんにんくるの?」
「それが、一人だけみたいなのよね」
一人!? 盗賊退治に派遣するのが、たったの一人!?
なんですか、それ……もしかして、領地内で盗賊が暴れてるのをいつまでも放置してるのは体裁が悪いので、形だけでも対応しておこうって腹積もりなんでしょうか。
もしそうなら帝国は真っ黒ですね……貴族にはならないほうが良いかも。
あ、ちなみに私はまだ、魔法が使えるということを村の人たちには明かしていませんし、もちろん帝国にも報告していません。なので当然、爵位も持っていません。
最初、私が魔法を使った時なんかはお母さんが狂喜乱舞していたので、これはもう戦争に行くハメになるかな……と半ば諦めていたものです。
でもお兄ちゃんが、私が魔術師になるのを猛反対してくれたのと、
「まじゅつしになったら、おかーさんともずっと会えなくなっちゃうね……」
みたいなことを言ったら、お母さんはすごい勢いで真顔になって「このことは誰にも内緒よ」と言い出しました。……手のひら返しが速すぎて、ソニックブームが発生しそうな勢いでした。
とはいえ、お母さんも本気で私を魔術師にしようとは考えてはいなかったみたいです。
しかしどうしても私がすごいことをするとテンションが振り切っちゃって暴走してしまうのだとか。
とまぁ、そんなわけで、まだ現時点では貴族になるかどうか、決めかねている状況なのです。
そういう意味でも帝国の犬である騎士がこの村を訪れるのは歓迎できないというのに、さらに勇者教の修道士!
……その騎士が来る前に、縛り上げて倉庫にでも放り込んでおくか……いえ、誰をとは言いませんけどね。バシュハ……げふんげふん!
そして三日後。
うちの村を訪れた騎士様を見て、私はとっても驚きました。
「あ、ああああの、そのっ、ょ、よろしく、おねがいしまひゅ……!」
その騎士様は、まだ高校生くらいの気弱そうな女の子だったのです。