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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
146/284

1歳4ヶ月 7



 プラザトスに着いてから二日目の昼下がり。

 ケイリスくんの絶品手料理でお腹を満たした私たちは、夕方に再びルグラスさんを訪ねるまでの数時間をどう過ごそうかと話し合っていました。

 ちなみに一歳児の姿に戻った私は現在、ベッドに寝そべるルローラちゃんの背中を枕にしています。


『ねぇ、ケイリスくん。プラザトスには名物とかってないのかな?』

「名物ですか……ボクがいた頃は、グルーヴェという果物と、それを使ったジュースやお酒なんかが有名だったと思います。グルーヴェは糖度が高いので、甘くて美味しいんですよ。お酒は女性にも人気です」


 おぉー。じゃあお土産に買って帰ったら喜ばれるかな? うちのお母さんにお酒を飲ませるのは絵的にマズいので、ジュースにしておきましょう。お兄ちゃんも一緒に飲めますしね。

 あ、果実を持って帰っても良いかも!


「ほかには……やっぱり鉱山都市(レグペリュム)の工芸品でしょうか」

『たしか、専門店があるんだよね?』

「ええ。多少値は張りますが、どれも一級品ですよ。日常的に使う食器なんかも、安いものよりずっと長持ちしますから、結果的には得という声も良く聞きます」


 なるほど、“安物買いの銭失い”という言葉もありますもんね。

 長持ちして、しかも質の良いものなら先行投資として買っておくのも良いかもしれません。

 包丁とか買って帰ったら、お母さん喜んでくれるかな? お兄ちゃんは騎士に憧れてるみたいだから、短剣でもプレゼント……いや、だめだな。危ないし。けん玉とか知恵の輪みたいなものにしとこっと。


 ……んんっ!? 長持ちして、性能の良い道具……!?

 きゅぴーん! 私のお金儲けアンテナが、ビジネスチャンスを受信しました!

 魔法で性能を強化した日用品とか流行りそうじゃない!? 絶対に切れ味の落ちない包丁! 絶対に汚れないお皿!

 さらにそこへ、魔導家電シリーズも組み合わせちゃったりなんかして!


 なんとこちらのまな板、劣化知らずの汚れ知らず! おまけにスイッチ一つで温度を操作できて、お鍋の下に敷いて加熱すれば火が必要ありません! さらに保存しておきたい食材といっしょに密閉器に入れて温度を下げれば、冷蔵庫に早変わり! 今なら密閉器と圧力鍋も付けて、このお値段! 先着二〇〇名様だけの特別セールだよ!!


 ぼ、ぼろ儲けですわぁ……。


 と、瞳の中に¥マークを浮かべて涎を垂らしていた私は、ふと強い視線を感じて振り返りました。

 見るとそこには、さっきから不服そうな顔つきでこちらを睨んでいるネルヴィアさんが。


 ……じつはルグラスさんとの話し合いの中で、私がこの街に渦巻く陰謀についてネルヴィアさんとレジィに黙っていたことが明るみに出てしまい、そのせいでヘソを曲げちゃっている……と、さっきルローラちゃんにこっそり教えてもらいました。

 レジィは大して気にしていない様子だったのですが、しかしネルヴィアさんはそうはいきません。彼女は私に危険の及ぶような命令は無視する傾向があるくらいの過保護さんなので、今回みたいに仲間に黙って危険な橋を渡ろうとしていた私の行動にご立腹なのです。

 うぅ~ん、どうしよう……どうすれば機嫌を直してくれるかなぁ。


 私はルローラちゃんの背中から頭を浮かせると、ベッドに腰掛けるネルヴィアさんに四つん這いで近づいて行きました。

 そしてネルヴィアさんの顔を覗き込んで、ジーっと見つめてみます。

 ネルヴィアさんは「うっ……」と狼狽えるような反応を見せますが、辛うじて踏みとどまって顔を背けます。

 続いて私はネルヴィアさんのお膝に頭を乗っけて、甘えるように上目遣いで見つめてみました。すると彼女はチラチラと私に視線を向けるものの、これもギリギリで踏みとどまったみたいでした。


 ……むむむ、手強い。でも、あと一押しかな。

 ここで私の最強の武器である“涙”を使えば、押し切れそうではあります。しかし敢えてここは篭絡四十八手『もう知らないもんっ!』を使って距離を取ってみるのも効果的かもしれません。いや、でもそれは可哀想かなぁ。

 んー、今回悪いのは私だし、ネルヴィアさんの喜びそうなプレゼントを約束するとか? あ、でもそれだと不公平になっちゃうから、レジィにも何か考えてあげないと。


 私は身体を起こしてネルヴィアさんの太ももに跨ると、首輪を回して身体を成長させます。私の部屋着はワンピースみたいにゆったりしているので、身体がおっきくなってもそこまで窮屈ではありません。……若干きわどい格好にはなりますが。


 そして目を丸くさせたネルヴィアさんと視線を合わせると、彼女の頬に手を添えて、ケイリスくんに口元が見えるようにして囁きます。


『おねーちゃん、いつも私のことを心配してくれてありがとう。お礼に―――』


 私がその先を言いかけた、その時。


『セフィリア殿、首輪の件でお話が。入ってよろしいか』


 私たちの部屋の扉をノックする音と共に、低くて渋い声が廊下から響きました。どうやらダンディ隊長みたいです。

 私は慌ててネルヴィアさんから離れると、ケイリスくんに向かって頷きました。


 ケイリスくんが「どうぞ」と返事をするのを同時に扉が開き、その向こうからダンディ隊長が顔を見せます。


「急で申し訳ない。首輪の件で報告したいことが…………ネ、ネルヴィア殿? どうされたのだ?」


 振り返ると、ネルヴィアさんがすっごい形相でダンディ隊長を睨み付けていました。

 ちょ、ちょっとネルヴィアさん……!? 女の子がしちゃいけない顔してるよ!?


 どうにか私はネルヴィアさんを(なだ)めながら、ダンディ隊長を部屋に招き入れました。

 そして首輪に関する報告を聞こうとして……しかしちょうど良かったので話の前に、


『あ、隊長さん。そこのクローゼットに入ってるモノ、もう要らないから引き取ってくれない?』

「む?」


 ダンディ隊長は私の言葉を受けて、部屋の奥にあるクローゼットへと歩み寄り、そして開きました。


「…………こ、これは、一体……?」

『私たちのことを、こそこそ嗅ぎまわってたおじさん。ミールラクスの手の者だったよ。もう情報は搾り取ったから要らないんだけど、処分に困ってて』


 私がネルヴィアさんの頭を撫でながらそう言うと、ダンディ隊長は「……う、うむ。了解した」と言ってクローゼットを静かに閉めました。


 あれ、どうしたの隊長さん? 顔色悪いけど、大丈夫? おなか痛いの?



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