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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
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1歳4ヶ月 4



 急に知らない土地で自由行動を許されてもちょっと困ってしまうものですが、しかしプラザトス出身であるケイリスくんもいることですし、彼の行きたい場所やオススメの場所なんかを巡ってみるのがいいかもしれません。とりあえずは現時点で一つ、目的地は決まっていますけどね。


 魔族が戦場の前線を食い破って首都(ここ)へ侵攻中というゴルザスの言葉もあって、若干の不安を感じないでもありませんが……さきほどダンディ隊長が騎士団に指示を出していたのは迎撃準備でしょうし、私が心配するようなことはないはずです。

 何より私たちは、ドラゴンを倒した上に討伐隊を無傷で首都へと返上したのです。それだけでも戦況的にはMVP級の大貢献でしょう。

 やむを得ない理由があるわけでもなく、正義感だけで戦争に参加するのは狂気の沙汰です。そこまで頭のネジが飛んではいない私は、平和的に観光でもしながら、首輪が外れるのをまったり待つとしましょう。

 ……さすがにケイリスくんの手前、プラザトスのすぐ近くまで魔族が迫ってきたら見て見ぬフリはしませんけども。


 とはいえダンディ隊長が私の首輪を外す手続きを優先できる程度には、魔族の侵攻具合は余裕があるのでしょう。

 大群の移動というのは足の遅い者に歩幅を合わせなければならないので、えてして時間がかかるものですからね。


 といったわけで現在、私たちはプラザトスの宿の一室に集まっていました。


 五人が一部屋にまとめて宿泊できる宿を探すのは苦労しましたが、おかげでベッドが三つもある広い部屋をとることができました。

 なぜ五人一緒の部屋をとったかというと、それは警戒のためです。ここは敵地の中心……ケイリスくんはもちろんのこと、獣人であるレジィや、エルフ族であるルローラちゃんの正体が知られていれば命を狙われる理由には十分です。それに私とネルヴィアさんは、先ほど師団長に喧嘩を売っちゃいましたしね。

 そのため万が一にも襲撃があった時、即座に対応できるようにしておかなければなりません。だからこその五人部屋なのです。


『ここから先は、なるべく一人で行動しないように気をつけようね』


 私の言葉に、ネルヴィアさんとレジィは即座に頷いてくれます。……でもこの二人、なまじ戦闘能力が高いだけに危機感が薄そうなんですよねぇ。私の指示だからとりあえず頷いてるって感じがします。

 とはいえ、その危機感の欠如は、プラザトスでかつて起きた惨劇についてを私が知らせていないことも原因の一つだと思います。

 ……この二人は結構、理屈ではなく感情で動く性質がありますからね。あまり悪感情を発起させるような情報を伝えると、どんな行動に出るかわからないところがあるのです。……まったく、いったい誰に似たのでしょう。


 広々とした宿の一室で、三つ並んだベッドのうち、私は一番扉に近いベッドに腰掛けていました。

 ちなみに私の現在の外見年齢は中学生くらいです。……しかし実際には、これが私の十余年後の姿であるという保証はありません。なんせ私のお母さんは、大学生ほどの年齢でありながら見た目はどこからどう見ても中学生!

 その遺伝子を受け継ぎ、乳児期から身体の小さかった私が、真っ当に成長する保証なんてどこにもないわけで……


 私の腰掛けるベッドから二つ隣、一番奥のベッドにちらりと視線を向けると、そこではルローラちゃんがマイクッションを抱いておやすみ中でした。

 彼女の外見年齢は九歳くらいになっているので、もう私やケイリスくんがおんぶして運ぶにはちょっと重いくらいですね。もっぱらルローラちゃんの運搬は、ネルヴィアさんにお願いしちゃってます。

 私の計画では、この後ルローラちゃんにはたくさん働いてもらうつもりですからね。今はそれに備えて、ぐっすり眠っておいてもらいましょう。


 私は腰を下ろしているベッドに、そのままごろんと仰向けに転がりました。

 はぁ~、一週間ぶりくらいのふかふか快適な感触!

 これで温かいお風呂にでも入れたら言うことなしなのですが……まぁ、それも首輪が外れるまでの辛抱です。

 前世では何ヶ月もまともに帰宅できないなんてザラでしたが、この世界に来てからは随分と贅沢な暮らしに慣れてしまったものです。


 帝都で暮らしていた頃はネルヴィアさんとかお兄ちゃんと一緒にお風呂に入ったりしていましたが、そういえばレジィやケイリスくんとは一緒に入ったことがありません。

 帝都へ帰った暁には、是非ともみんなで一緒に入りたいものです。家族みんなで入浴……考えただけでワクワクします! その時はルローラちゃんもお招きしちゃいましょう!


 ……そういった“デザート”が後に控えていることを思えばこそ、この街に渦巻く陰謀の闇に、首を突っ込んでやろうって気にもなれるというものです。


 私はベッドの上をもぞもぞ這うと、枕を引き寄せてぎゅっと抱きしめながら、隣のベッドに腰掛けているほかの三人に向かって、ごろんと身体を向けました。


『ここでしばらく休憩したら、さっき街で聞いた『ルグラス・トリルパット』に会いに行こうね』


 私がそう言うと、例によってネルヴィアさんとレジィが元気な返事を返してくれます。

 そしてその隣に座っているケイリスくんは、ちょっぴり緊張した面持ちでぎこちなく頷きました。


 ルグラス・トリルパット―――陰謀の大統領、ミールラクス・トリルパットの一人息子です。


 歳はゴルザスとそう変わらないくらいの、三十歳前後。幼少時からミールラクスによって英才教育を施され、現在は政治家として活躍しているそうです。

 しかしルグラスは清く正しい政治家を目指してお仕事に励んでいるようで、汚くあくどい政治家であるミールラクスとは度々衝突しているのだとか。

 伯父(ミールラクス)の息子ということは、もちろんケイリスくんの従兄にあたる人物です。

 ケイリスくんも昔、何度か顔を合わせたことがあるそうですが……真面目で実直そうな好青年だったそうです。


 どうして私がルグラスさんに会いに行くかというと、それには二つの理由があります。


 一つは、このイースベルク共和国における政治規則の中に『大臣以上の政治家が何らかの不測の事態によって政務を遂行できなくなった時、二親等以内に政治家がいた場合には、その者が政務を代行すること』という条文があるためです。

 この規則があるために、大統領や大臣となった人は身近な血縁者へと熱心な英才教育を施して政治家にさせることがあります。そして日頃から密接に意見を交換したり議論を交わしたり、懇意にしている政治家とコネクションを築いておいたりと、いざという時に政務を代行できるように備えておくのです。

 とはいえこの条文が作られたのはかなり昔で、現代においてはほとんどの人が意識さえしないほど影の薄い条文なのですが……


 大統領選などの正攻法以外でミールラクスが大統領の座から引きずり下ろされることになれば、当然その後を継ぐのはルグラスさんということになります。

 そのため、彼が噂通りの善良なる政治家であるかどうかを確かめておきたいと考えたのです。


 私はケイリスくんと話し合った結果、ダンディ隊長にも五年前の真実を伝えていました。

 最初はひどく狼狽えていたダンディ隊長でしたが、すべてを聞き終えた時、彼は私たちの話を信じてくれて、ミールラクスの不正を暴き鉄槌を下すことを約束してくれたのです。

 もちろんその折には私も協力を惜しみません。欲に憑りつかれた醜い罪人には、お似合いの末路をプレゼントしてやるつもりです。

 そういった事情もあって、これからミールラクスを相手取るにあたって、ルグラスさんが敵となる得るかどうかを確かめておきたい、というのが二つ目の理由になります。


 表情を強張らせているケイリスくんに、私は枕を抱いたまま体を起こして、まっすぐに彼と向き合いました。

 そして私は自分の三つ編みを撫でながら、彼の綺麗な瞳をジッと見つめます。


『もうこの街で、ケイリスくんに辛い思いはさせないから』


 そんな言葉をかけられたケイリスくんは、自分が意図せず緊張を露わにしていたことに気が付いたのでしょう。

 彼は真っ白な頬をほんのり赤く染めると、嬉しそうに三つ編みを撫でながら、無言で小さく頷きました。



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