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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
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1歳4ヵ月 1 ―――首都プラザトス



 帝都を出発してから、約一ヶ月。

 ケイリスくんの過去が明かされたあの夜から数えるなら、ちょうど三日目の昼頃。


 私たちはついに旅の目的地である、イースベルク共和国の首都“プラザトス”に辿り着きました。


 対外的には身元不確かな私たち五人は、まず街へと入ることが第一の課題だったのですが、その辺りの交渉はダンディ隊長にすべて丸投げしちゃいました。むしろこのために騎士団と一緒に行動していたのですからね。

 私たちが馬車の中でポケ―っと待っていると、プラザトスの関所に詰めていた守衛さんたちが馬車を覗きに来ました。私たちの顔ぶれを見た彼らの、「えっ、まじで?」という反応も無理ありません。黙っていたら普通の少年少女ですからね。

 とはいえ、私たちの一見無害そうな外見が功を奏したのか、どうにか関門を通過させてもらえました。


「わぁ~。帝都とはいろいろと違うんですねぇ」


 馬車の窓から首都(プラザトス)の街並みを眺めるネルヴィアさんの無邪気な感想に癒されながら、私は他の三人の様子を窺いました。

 まずレジィ。一切興味なし。

 次にルローラちゃん。彼女はそもそも人間の街に入ったのが人生で三度目くらいなので、ちょっと物珍しげに窓の外へ視線を向けています。ちなみに彼女の現在の外見年齢は九歳くらい。


 ―――そして。


『……ケイリスくん。大丈夫?』

「あ、はい。平気です」


 ケイリスくんが外の街並みに物憂げな視線を向けていたので、心配になって声をかけてみたのですが……振り返った彼の表情は意外と本当に平気そうだったので、ちょっと拍子抜け。

 そんな私の心情が顔に出ていたのか、ケイリスくんは私に向き直ると、


「きっとボク一人で抱え込んだままだったら、こうはいかなかったと思います」


 そう言ってケイリスくんは、私の白金色の三つ編みに優しく手を触れました。


 それはつまり、()は……


 私たちはそれ以上の言葉は必要ないとばかりに、微笑み合いました。


 ケイリスくんが喜怒哀楽をストレートに表現することは非常に珍しいため、そんな彼の笑顔を見たネルヴィアさんたちはちょっと意外そうな表情でした。

 しかし三日前、私の口から―――つまり結局はケイリスくんの口を経由したわけですが―――ケイリスくんの事情は説明してあるので、私とケイリスくんの間で何かがあったことはみんな察しているとは思います。


 ちなみにネルヴィアさんとレジィには、ケイリスくんがプラザトス出身だとか、現大統領と因縁があるとか、そういったかなり簡潔なことしか説明していませんが……今後のことを考えて、念のためルローラちゃんにはすべて包み隠さず事情を説明してあります。


 ……この陰謀渦巻く首都で、何事もなく要件を達成できればいいのですが。


 私たちの馬車はしばらく騎士団の後ろを追随していましたが、やがて目的地に着いたようで、なにやら石造りの大きな建物の前に馬や馬車を停めていました。

 そして私たちの馬車を御してくれていた若い騎士が、さながら従者のように扉を開けてくれます。


「皆さま、ここはプラザトス第三騎士団本部です。申し訳ありませんが、ゴルザス第三師団長殿へドラゴン討伐に関する報告を行いますので、どなたか同行していただけますか?」


 あ、やっぱり私たちも行かなきゃいけないんですか?

 それはそうですよね。ドラゴンと戦ったのって実質私たちだけですし、それを誤魔化そうにもドラゴンと戦って損害ゼロって、どうやって戦ったんだって話になりますし。

 下手に誤魔化すと絶対マズイことになりますから、ここは正直に報告するのが良いでしょう。


 ……ただし、いくつか問題があります。

 まず、これから会うのはゴルザス第三師団長……つまりケイリスくんの兄です。なのでさすがにここでケイリスくんを連れて行くのは、どう考えてもマズイでしょう。まだその段階ではありません。

 そして今まではケイリスくんやレジィの帽子とかマフラーは、わりと皆さん寛大に許してくれていましたが、親殺しのゴルザスに寛大さを期待するのは無謀でしょう。しかもレジィが獣人だと知れば、何をしでかすかわかりません。というわけで、レジィも連れて行けません。

 同じような理由で、ルローラちゃんもアウトです。耳さえ見られなければ良いとは言っても、ゴルザスが何をしてくるかなんてわかったものではありませんからね。


 しかし、ネルヴィアさんは筋金入りの人見知りです。そんな彼女を一人でゴルザスなんかのところへ送り込むのは不安で仕方ありません。

 そして前述の事情から鑑みて、ネルヴィアさんに同行するのは消去法により私ということになります。


 ……でも、さすがに“赤ん坊を抱いた少女騎士”という絵面は、どう考えても舐められそうですよね。


『ここは私とネルヴィアおねーちゃんで行ってくるから、三人は待っててね』


 私の言葉に、ケイリスくんは少し申し訳なさそうに、ルローラちゃんは当然だろうと言わんばかりに、レジィはよくわかってないけどとりあえずといった感じに、三人それぞれが頷きました。

 そして私は自分の首輪を指さしながら、


『ケイリスくん。ちょっと変身するから、あの服を出してくれる?』


 私のその言葉に、ケイリスくんはすぐに馬車後方の収納スペースから私の服を取りだしてくれました。

 そして私が今着ている服を脱ぎだすと、気を遣ってくれたのかケイリスくんとレジィがそそくさと馬車の外に出て……

 って、おかしくない!? 出て行くのはネルヴィアさんとルローラちゃんでしょ!?


 ……もう面倒なので全員追い出して、私はさっさと服を着替えました。



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