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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
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1歳3ヶ月 60 ―――竜騎士ネルヴィア



 翌朝。

 私たちがクリヲトちゃんの様子を見に孤児院を訪れると、以前お会いした院長代理のお婆ちゃんが、疲れた顔をして出迎えてくれました。

 ちなみに現在の私は一歳児に、ルローラちゃんは二歳児になっていましたが、同一人物だとは気づかれていないらしく突っ込みはありませんでした。


 彼女の話によると、昨日ドラゴン討伐から帰ってきたクリヲトちゃんは、それからずっと自室に閉じこもってしまっているのだとか。

 心配で何度声をかけても返事はなく、一応室内にはいるみたいなのですが、今朝も朝食を食べには現れなかったそうです。


 現在の彼女はドラゴンによってすべてを失い、そのドラゴンへ復讐をするという唯一の目的も永遠に叶わなくなり……きっと途方に暮れているはずです。

 昨日は一人にしてほしいと言われたので孤児院に送り届けましたが、それが正しい対処だったのかはわかりません。

 とりあえず心配なので、私たちはクリヲトちゃんに与えられているという個室を訪問しました。


 ……なぜかその途中、ちょうど朝食を終えたらしい子供たちに囲まれてしまい、クリヲトちゃんの部屋まで一緒にぞろぞろと付いて来られちゃいましたが……まぁ、いっか。


「クリヲトちゃん。昨日の方々が会いに来てくださいましたよ」


 軽く扉をノックしてから掛けられた言葉に、けれども返事はありません。どうやら鍵もかかっているようなのですが、そのカギはしばらく前から見当たらないとのことです。

 院長代理の声に続いて、私たちの周りでちょろちょろしている子供たちも、「クリヲトちゃーん!」「でておいでー!」と声をかけていましたが、それにも反応は無し。


 困ったように溜息を吐く院長代理を見ていると気の毒になって、私はケイリスくんにお願いしてドアノブにもっと近づいてもらいました。

 そして魔法を発動。黒い立方体を押し当てて、扉の鍵をドアノブもろとも この世から消滅させました。


 すると、ぽっかりと四角い穴が空いた扉は一人でに開き、その奥には布団にくるまってこちらに驚きの表情を向けているクリヲトちゃんがいました。目元は真っ赤に泣き腫らしているみたいです。


 彼女が本物の勇者ではないことは、いずれ広まって行くかもしれません。

 それはルーンペディの司教様の働きかけ次第でしょうが……勇者として生きていくか、それとも普通の幼児として生きていくか、どちらの方がクリヲトちゃんにとって幸せなのかはわかりません。

 しかしどちらにしても、司教様や院長代理と接した感じからすると、彼女がこの孤児院を追い出されるようなことはないと思います。それに魔法も使えるらしいので職にあぶれることもないはずです。


 ……ただし、彼女自身が生きる希望を失っているのなら話は別です。

 ましてやこんな状態の中、一人で部屋に閉じこもっているなんて、まず間違いなく心が腐ってしまいます。

 鍵のかけられた扉は、クリヲトちゃんが他者を拒絶する心そのものなのですから。


 ……前世の私が働いていた地獄では、たくさんの人間が壊れていく様子を間近で見てきましたからね。壊れそうな人間を見る目は、無駄に肥えちゃってます。


 部屋の扉が開くと、私たちの周りに群がっていた子供たちが室内に雪崩れ込み、クリヲトちゃんを取り囲んで口々に彼女を心配する言葉をかけました。

 クリヲトちゃん、結構人気者なのですね。これまで私が見てきた彼女はドラゴンへの復讐に憑りつかれている姿だけでしたが、子供たち相手には優しく接していたのかもしれません。


『クリヲトちゃん』


 私は扉の鍵を破壊したものの、室内には入らずに声をかけます。


 ここで彼女の心を一発で立ち直らせるような、魔法の言葉をかけてあげることなんて私にはできません。

 私が考え付く程度の言葉なら、そこで私が扉に開けた穴を嬉しそうに眺めている院長代理がかけてくれることでしょう。


 ですから私にできることは、ここで部外者として無責任に扉を壊してしまうことと、それから……


『この子たちを守ってあげられるのは、クリヲトちゃんだけだよ』


 まぁ、これくらいは言っておいてもばちは当たらないでしょう。


 私は目的を果たすと、ケイリスくんに引き上げの合図を出します。

 それから孤児院を後にする前に、ざっくりとリルルの正体に関する話を院長代理に説明して、クリヲトちゃんのことを支えてあげてくださいとお願いします。

 院長代理はしわくちゃの顔を穏やかに綻ばせて、それから強い意志の籠った瞳で「任せてください」という頼もしい言葉を返してくれました。


 ここまで中途半端に首を突っ込んでしまった手前、クリヲトちゃんのために私にできることがあれば、それをしてあげたいものです。

 しかし魔法で解決できないことに関しては、私はどうしようもなく無力です。

 適材適所に則って、より相応しい力を持った人に任せてしまいましょう。


 孤児院を出た私たちは宿屋に戻ると、すぐに出立の準備を始めます。

 昨日、ダンディ隊長の申し出によって、彼ら騎士団と一緒に共和国首都・プラザトスへ向かうことになったのです。

 共和国への道のりはケイリスくんが知っているそうなので、べつにそのお誘いをどうしても受けないといけない理由はなかったのですが……しかし私の首輪を外す上では、ドラゴン討伐という多大な恩を売っておいた彼らと共にプラザトスへ向かうというのは悪くない選択肢です。

 それにまだプラザトスまでの道のりは一週間ほどありますし、夜の見張りを立てなくていいというのは魅力的でした。


 荷物を整理して馬車に乗り込み、途中で買った朝食を食べながら、私たちはダンディ隊長と約束した合流地点である関所の前にやってきました。

 まだ出発までは時間がありますが、すでにある程度の騎士たちが集まっています。


 そして私たちが来たことに気が付いた彼らは、なぜか見るからにテンションを上げて、


「おおっ、あれが噂の……」

「そうだぜ、あの金髪の可愛い嬢ちゃんだ」

「信じられねぇ、うちの娘とおんなじくらいの歳じゃねぇか」

「でもお前らだって、あのドラゴンの竜鱗をぶっ壊すとこは見ただろ?」

「隊長の話じゃ、俺らと合流する前からずっと戦ってたそうだしなぁ」

「ああ。俺たちが見た時にはドラゴンの奴、すでにほとんど死に体だったもんな……」


 なにやらネルヴィアさんを見て、騎士団の人たちがヒソヒソと囁き合っています。

 人見知りのネルヴィアさんは大いに困惑して、不安そうにオロオロしちゃってますが……あの感じだと、悪意的なものは感じませんね。それどころか、むしろ……


 その後も次々に集まってきた騎士団の人たちの話に聞き耳を立てていると、彼らがネルヴィアさんのことを、次のような名称で呼んでいることがわかりました。



 ―――曰く、『竜騎士ネルヴィア』と。




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