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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
123/284

1歳3ヶ月 50



 颯爽と登場してドラゴンを吹き飛ばしたネルヴィアさんでしたが、しかし見るからに腰が引けていました。その様子を見るに。さっきの威勢が強がりであることは明白です。

 むしろ昨日の夜にあれだけドラゴンを恐れていたのですから、今ここでいきなり恐怖を克服しろというのは無理な話でしょう。ついさっきまでは、余裕ぶっこいていた私でさえ怯えちゃってましたしね。


 私が周囲に視線を走らせると、少し遠くの木陰でルローラちゃんが馬に乗ったまま待機していました。

 ……って、その姿でも乗馬できるんだ!?


 ドラゴンはなぎ倒した木々を踏み潰しながら体を起こすと、その血走った瞳でネルヴィアさんをギロリと睨み付けました。

 その凶悪な視線に晒されたネルヴィアさんは、「う、ぁ……」と小さく呻きながら、一歩、二歩と後ずさってしまいます。


 するとドラゴンは、わざとらしく鼻を鳴らしながら不機嫌そうな声で、


『匂ウ……匂ウゾ……先程ノ逃ゲタ者達ガ、仲間ヲ連レテクルツモリカ……? ナラバ、先ニソイツラカラ葬ッテクレル……!!』


 そう言って、その巨体を深く沈めながら駆け出そうとするドラゴン。

 その言葉にハッとしたネルヴィアさんは、思わずといった感じで私の顔色を窺います。


 今回の私たちの目的は、できれば私たちだけでドラゴンを行動不能に追い込むことです。

 共和国の騎士たちが正面からドラゴンとぶつかれば、勝敗はどうあれたくさんの犠牲者が出ることは間違いありません。

 ですから昨晩の作戦会議でも、一度ドラゴンを見つけたならば、逃がすことなくその場で決着をつけるということを基本方針として定めました。


 そしてそれを実現するにあたって最も重要なのが、ネルヴィアさんの働きです。

 私とレジィには決定的な攻撃力が無く、二人だけで勝とうとすると周囲に甚大な被害が発生する可能性が極めて高いのです。

 当然、そうなると樹海を焼き払われた魔族たちが共和国に雪崩れ込んできて、未曾有の大惨事となります。


 それはネルヴィアさんにも説明してあるため、彼女は今のドラゴンの言葉に焦りを覚えたのだと思います。


「そ、そうは、させません……!」


 ネルヴィアさんは弱弱しくそう言うと、この場を離れようとしていたドラゴンに向かって突撃していきます。


 直後、ドラゴンの巨大な尻尾が風を切る音を響かせました。

 横薙ぎに振るわれたそれに対して、ネルヴィアさんは魔剣(フランページュ)で受けますが……ドラゴンに比べてあまりにも小さなその身体はあっさりと、数メートルほど吹き飛ばされてしまいます。

 それでも彼女は地面に叩きつけられることなく、器用に受け身を取って衝撃を殺すことには成功したようですけど……その顔にはありありと恐怖が貼りついています。


 ……やっぱり、いきなりドラゴンと戦えだなんて荷が重かったですね。思慮が足りていませんでいた。


 私はレジィを伴いながら、小走りでネルヴィアさんの元へ駆けつけます。

 そして地面に膝をついている彼女に手を差し出しながら、右手の人差し指で空中に丸を描きました。

 これは事前に決めておいた合図の一つで、『あとは私たちに任せて』という意味です。

 ネルヴィアさんの攻撃がドラゴンに通用しなかったりした場合のことを考えて、私とレジィの二人だけでも成立する作戦があるのです。それに移行するから、ネルヴィアさんはルローラちゃんと遠くに離れていてくれ、という意味が、この合図には込められています。


 しかしそれを見たネルヴィアさんは露骨に表情を強張らせると、「ま、まだやれますっ!! 私にお任せくださいっ!!」と焦ったように大声をあげました。

 そしてその反応に私が面食らっているあいだに、彼女はドラゴンに向かって猛然と走りだしてしまいます。

 ちょっ、ネルヴィアさん……!?


 再び突撃してきたネルヴィアさんに対して、ドラゴンはまた尻尾を横薙ぎに振るってきます。

 けれども今度は剣で受け止めるのではなく、ネルヴィアさんは襲い来る尻尾に対して剣を叩きつけるようにして迎撃しました。

 勢いよく迫っていた尻尾はネルヴィアさんの一撃を受けると、重く金属的な音を響かせつつ弾かれて、その軌道を大きく逸らされてしまいます。


『……!!』


 その光景に目を見開いたドラゴンは、今度は鋭い爪を備えた前足を振りかぶりました。


 私はレジィに『サポートしてあげて』という合図を送りながら、ハラハラしつつネルヴィアさんの戦闘を見守ります。

 ……本当は、私が隣に寄り添って戦ってあげれば安全なのです。が、それだと一切攻撃が通らなくなったドラゴンが戦闘を諦めて、逃亡したり、騎士団を襲いに行く可能性があるのです。

 そのため適度に隙があるネルヴィアさんに矢面に立ってもらっているのですが……彼女が傷つかないか、もう気が気じゃありません……!!


 一応、ちょっとでも危ないと思ったらすぐに申告するように強く言ってはありますけど……

 や、やっぱり共和国への二次被害よりも、ネルヴィアさんの安全を優先すべきでしょうか……!?



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