表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
121/284

1歳3ヶ月 48 ―――黒竜の猛追



「全速後退ッ!! プランBへ移行せよ!!」


 ダンディ隊長のバリトンボイスが樹海に響き渡り、先遣隊全員が回れ右をして駆け出した瞬間。

 轟音と共に、立ち並ぶ木々を紙切れのように引き裂き、なぎ倒しながら、ついさっきまで私たちがいた場所に、巨大な黒い影が凄まじい勢いで飛び出してきました。

 イメージとしては、狭い路地の壁を突き破りながらダンプカーが突っ込んできたような感じです。それでいて、その破壊をもたらした存在が有機生命体なのだから洒落になりません。


『グォォオオオオオオオオッ!!!』


 ソレは、漆黒の鱗に覆われた……映画なんかでよく見るような、まさしくイメージ通りの“ドラゴン”そのものでした。ただし翼は退化しているのか小さくて、空を飛べそうにはありませんでしたが。

 金色の瞳だけを闇の中に炯々(けいけい)と輝かせながら、ドラゴンは闇に溶ける巨大な体躯をこちらへと向けました。

 ワニのように身体を伏せているため大きさはよくわかりませんが、恐竜博物館なんかで見たティラノサウルスの実物大模型と同じか、あるいはそれ以上の大きさに見えます。


 そんな巨獣が突如として現れ 咆哮をあげた段階で、騎馬の制御を失わずに走らせることのできた彼ら先遣隊は、間違いなく一線級の実力者でしょう。

 騎士さんたち全員が笛を高く鳴り響かせる中で、隊長さんはその音に負けないくらい大きな声で叫びました。


「散開ッ!!」


 すぐに騎馬隊は散り散りの方向へと駆け出していきます。ドラゴン相手に固まっていては、すぐに全滅してしまうのは目に見えているからです。

 各個撃破による多少の犠牲はやむなしと判断し、その上で一人でも多くの人員が生き延びることを最優先とした作戦。


 ……とはいえ、待機している騎士団と合流するためには笛を鳴らし続けていなければならず、ドラゴンにとっては全員の居場所が手に取るようにわかってしまいます。

 その上、リルルの言っていた『ドラゴンの足は速く、馬では追いつけなかった』という言葉からもわかるように、一度捕捉されれば逃げ切ることは不可能。

 さらに、一応騎兵隊の皆さんには事前に「逃げる際には木々の隙間を縫うようにして、ドラゴンの巨体を翻弄せよ」という指令が下ってはいますが、ついさっきドラゴンは余裕で木々をなぎ倒しながら現れました。そんな小細工が通用するとは思えません。


 樹海に潜む魔族たちを必要以上に刺激して最悪の事態になることを避けるための先遣隊ですが、このままでは全滅は必至。

 一応、魔術師も二人だけ騎兵隊に同乗しているみたいですが、こんな状況では焼け石に水でしょう。


 私はいつ動くかの判断に迫られながら、後ろを振り返ってドラゴンの様子を観察していました。

 するとどうやらドラゴンは、まず一番近くにいた私たちに狙いを定めたようです。巨大な手足を凄まじい勢いで動かして地面を抉りながら、こちらへ一直線に突っ込んできます。ひぇぇ!!


 しかしこの黒馬は凄まじい馬力のようで、すぐに追いつかれることはありませんでした。とんでもない速度で景色が後ろに流れて行き、もはや木から突き出された枝が凶器と化すようなスピードです。

 とはいえ、全速力で走っているというのにじりじりと距離を詰められていることには変わりないのですが……


 隊長さんは、なるべく丈夫そうな木々が密集している場所をすり抜けるようにして走行することで、ドラゴンとの距離を辛うじて保っていました。

 それでもただの突進で木々が吹き飛ばされていく様は、恐怖でしかありませんけどね!


 しばらく走っていると、私たちをまっすぐ追いかけていたドラゴンが少し脇に逸れました。

 ちょうど私たちが 特に太い樹木が生えたところに差し掛かったところだったので、さすがに追跡を諦めたのかも……?


 ―――と思ったのも束の間、


「左だ!!」


 レジィがそう叫んだ直後、ドラゴンが真横から爆砕音を響かせながら飛びかかってきました。ドラゴンは大きな口を全開にしており、まるで私たちをひと呑みにせんばかりの勢いです。


『ひゃああああっ!?』


 間一髪のところで黒馬が反対方向に跳んだことで、ドラゴンの凶悪な牙は私たちを捉えることはありませんでした。……が、代わりに食らいつかれた大樹の太い幹は、スプーンを差し込まれたカップアイスのように抉れてしまっています!

 もうやだ、おうち帰りたい!!


 私が恐怖で半ベソかいていると、ダンディ隊長が焦りを滲ませた声色で、


「……この状況で悲鳴ひとつ上げないとは、大した胆力だな、キミたち」


 いやごめんなさい、さっき思いっきり悲鳴上げましたけどね!? 首輪のせいで聞こえなかったでしょうけども!!


 ダンディ隊長の勘違いに心の中でツッコミを入れつつ、私は目を凝らして周囲を確認しました。

 さっきの奇襲が失敗したドラゴンとは現在、少しだけ距離が離れています。しかしあまり距離が離れすぎても、隠れられたり逃げられたり、あるいは別の人たちが狙われてしまいかねないので危険です。


 さらに注意深く周囲を見渡していると、そこで近くから笛の音が聞こえてきました。

 けれども、今まで他の騎兵隊が響かせていた笛の音は「ピーーー」という感じだったのに、この音は「ピッピッピー」というリズミカルなものでした。

 その方向へよくよく目を凝らしてみると、暗闇の中で微かに輝く金髪を見つけました。

 ……ネルヴィアさん!?


 もしも今 ネルヴィアさんたちがドラゴンに狙われてしまったら、少しマズいことになるかもしれません。彼女たちの騎馬は、この黒馬と違って普通の馬みたいですし、速度もそこまで出ていません。むしろよくここまで追いつけたものだと感心するほどです。

 それでいて、彼女たちは私と違い防御手段がありませんから、私のサポート無しで戦わせるのは非常に危険です。


 ……他の騎兵隊たちからも十分距離を取れたでしょうし、そろそろいいかな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ