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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第一章 【アルヒー村】
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0歳8ヵ月 1 ―――魔導書の解読

※携帯やスマホの機種によっては、呪文の一部が表示されないことがあるようです。

 いずれ余裕がある時に文字の置換を行う可能性はありますが、それまではPCで読むか、なんとなーくで読んでいただけると幸いです。



「えっ!?」


 久しぶりに魔導書の解読に臨んでいた私は、思わず叫び声をあげてしまいました。

 私の発した叫び声に、お兄ちゃんとお母さんは驚いて振り返ります。


「……セフィ?」

「どうかしたの、セフィ?」


 私を心配する二人の声色を聞きながら、しかし私はそれらに反応することさえも忘れて、“それ”を食い入るように睨み付けました。


 い、いや……

 でも……そんな、まさか……




 私はその日、お母さんが外から拾ってきてくれた“炭の塊”と“干からびた皮”をプレゼントされていました。

 やはり文字を目で追うだけでは見えないこともあるだろうと思って、以前 木の棒で地面にノートをとっていたのを覚えていてくれたのでしょう。ペンと紙なんて高級品ですからね。

 なんだかストーリー序盤で敵キャラがドロップする安アイテムみたいなプレゼントでしたが、しかしお母さんの気持ちはとても嬉しかったですし、実際それらはとっても役に立ちました。

 ……むしろ役に立ちすぎて、困ったことになってしまったくらいです。


 念願の筆記用具を手に入れた私は、まず魔導書の最初のページから順番にめくっていって、すべての文字を一文字ずつ書き出していくことにしました。

 この世界の文字は、全部で何文字あるのか。それを知ることが、解読への第一歩だと考えたのです。

 アルファベットなら二十六文字で、大文字と小文字を合わせると五十二文字。

 日本語なら、ひらがなやカタカナだけで百文字をゆうに超えて、漢字まで含めたら大変なことになります。

 とはいえ幸いにも、魔導書の文字列にざっと目を通した限りでは、どうやら文字数はそこまで多くないように感じました。せいぜいアルファベットくらいだと思います。


 私は砕いた炭の破片で、干からびた皮に一文字ずつ書き記していきました。

 ちなみにそれを見たお兄ちゃんはポカンと口を開けていて、お母さんなんかは感動して発狂し、思いっきりむせていました。……お母さん、お願いだからもっと落ち着きを持ってね。

 五ページほど進んだところで、どうやらすべての文字を書き記し終わったようでした。

 続けて、ざっくりとどんな文法なのかを調べるために、文字の並びに規則性を見出そうと思い、パラパラと本をめくっていきました。

 と、そこで。


「……ふぇ?」


 私は、あるページで思わず手を止めました。

 そのページに書かれていた文字は、さっき書き出したすべての文字の、どれにも当てはまらない文字で書かれていたからです。

 しかしそれは左側のページだけであって、右側のページは私がすでに書き出した文字だけで構成されています。

 逆に言えば、左側のページの文字が、右側のページに登場することも一切なかったのです。

 しかも、ざっくりと見ただけの所感ではありますが、文法構造もまるっきり違うように見えます。


 ……この本には、“二種類の言語”が記されている?


 そこまで考えた時、私はこの本の持ち主がどういった存在であったかを思い出しました。

 この本を持っていたのは『魔術師』。

 そしてこの本は『魔導書』。


 本をめくっていた手に、腕に、ざわざわと鳥肌が立ちました。


 調べてみると、最初の数ページに書かれていた言語は、本全体の九割以上を占めていました。

 もう一方の言語は、十数ページに一度くらいの頻度でしか登場しません。

 もしかするとこの本は、『とある難解な言語を、より一般的な別の言語で説明している』という内容なのではないでしょうか。

 ……もっと端的に言ってしまえば、『魔法の呪文を解説している』内容なのでは?


 今までは「魔術師様が遺した本ということだから、きっと魔導書なのではないか」という、漠然とした推定でした。

 しかしここへきて、ついに私はこの本が本当に魔導書であると、ほとんど確信を持ちました。

 俄然、解読へのモチベーションが燃え上がるのを感じながら、私は興奮によって震える手でページをめくります。


 開いたのは、『呪文』が記されているであろうページ。

 解説のページを見る意味は、今の段階ではあまりないでしょう。だって読めないですし。

 もちろん呪文は読めるかといえば、そんなことはありません。

 しかし同じ読めないのなら、呪文に目を通しておく方が先決です。


 呪文のページの下部には、小さく絵が描いてありました。

 よくよく見てみると、それは『炎』のように見えます。

 他のページの下部には違う絵が描いてあり、どうやらこれはどんな結果をもたらす呪文なのかを図示したもののようでした。

 今までは何が描いてあるのかさっぱりわからなかったのですが、これが呪文を説明している絵だという前提で見れば、なんとなく『炎』に見えたり『水』に見えたりするのですから不思議なものです。

 そう言う意味では、これが何の本なのかを理解しないと読み取れない、絶妙な絵であるとも取れますね。……単にこの本の著者が画伯だっただけかもしれませんけど。


 とりあえず簡単そうな短い呪文を探してみると、どうやらそれは『風』の呪文みたいでした。なんか手みたいなものから「ぶわぁ」って感じのが出てる絵ですし、多分これは風だと思います。少なくとも「手が納豆臭くなる呪文」とかには見えません。

 早速、そのページに目を通してみます。


ฎธๅฬฎธค_ญใฉม€โ╞ข๏ฎค╡╠ใฉธคฎธๅฬฎธคƂฬฎธค฿ฬฎธค-σ₀₀₀Ƃโ€ๅษโธฬฎธคƂ╢


 うーん、何が書いてあるのかさっぱりわかりません。

 あ、でも良く見ると、文字と文字の間が微妙に離れてるところがあります。ここが文の最小単位なんでしょうか?

 とりあえず単語ごとに区切って離してみたら、ちょっとは見やすくなったりするかもしれません。


 私は干からびた皮に呪文を書き写すと、それを細かく千切って並べ直しました。


ฎธๅ ฬฎธค_ญใฉม€โ ╞ ข๏ฎค ╡ ╠ ใฉธค ฎธๅ ฬฎธคƂ ฬฎธค ฿ ฬฎธค - σ₀₀₀Ƃ โ€ๅษโธ ฬฎธคƂ ╢


 ……まだ全然わかりませんね。

 でも同じ文字の並びが何度か出てきていることはわかりました。


 あれ? なんか、括弧(かっこ)みたいな使われ方をしてる文字があるような……これ、もしかして文字じゃなくて記号なんでしょうか?


 バラバラにした呪文を、括弧で括られていない文字と、括弧で括られている文字に分けてみることにしました。


ฎธๅ ฬฎธค_ญใฉม€โ ╞ ข๏ฎค ╡

╠ ใฉธค ฎธๅ ฬฎธคƂ ฬฎธค ฿ ฬฎธค - σ₀₀₀Ƃ โ€ๅษโธ ฬฎธคƂ ╢


 むむむ。ちょっと全体の構造が見えてきた気がします。


 あっ、下の括弧の中で、単語の後にくっついて何度も登場してる文字がある!

 偶然なのかな? それとも、もしかして句読点みたいな記号なのでしょうか?

 じゃあこれもちょっと分解して……


 ついでに見やすいように位置や高さを微調整しちゃおっと。


 ……あれ?



ฎธๅ ฬฎธค_ญใฉม€โ ╞ ข๏ฎค ╡

 ใฉธค ฎธๅ ฬฎธคƂ

 ฬฎธค ฿ ฬฎธค - σ₀₀₀Ƃ

 โ€ๅษโธ ฬฎธคƂ



「―――っ!?」



 この文章を見た瞬間、私は冒頭の悲鳴をあげてしまったのです。


 腕どころか、全身に鳥肌が立ちました。


 喉が干上がって、飲み込んだ唾液が「ごくり」と大きな音を立てます。


「よ……」


 私は並び替えた呪文を見ながら、震える唇で無意識に言葉を漏らしていました。




「……よめる(・・・)……!!」




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