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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
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1歳3ヶ月 46



 ドラゴンをおびき出す『()()』の役割を果たす先遣隊は、騎士団本隊から選抜された精鋭たち十人でした。

 そこへ急遽 私たち四人が飛び入りで参加したため、先遣隊の合計は十四人となります。


 ちなみにリルルは、ドラゴンの大まかな居場所を私たちに耳打ちすると、まるで役目は終えたと言わんばかりに勇者(クリヲト)ちゃんを抱いてそそくさと待機組へと混ざりました。

 ……まぁ、クリヲトちゃんを先遣隊に同行させたら、間違いなく無茶をするでしょうからね。


 そしてどうやら先遣隊を率いるらしいダンディ隊長は、馬車から降りるなり私たちに目を向けると、


「そういえば、キミたちは馬に乗れるのか?」


 と、やや疑わしげな語調で訊ねてきました。


 すぐにネルヴィアさんが「一応……」と小さく返事をしましたが、私を含めた他の三人は黙って俯くしかありません。

 エルフの里には馬もいたみたいですし、もしかしたらルローラちゃんも乗馬はできるのかもしれませんが、少なくとも現在の肉体年齢は五歳ほどなので無理でしょう。

 レジィは馬に乗るよりも走った方が速いですから、乗馬なんてしたことはないに違いありませんし。

 そして私は……


 近くにいた馬に視線を向けた私が一歩足を踏み出すと、それだけで馬は背中に乗っている騎士を振り落とさんばかりの勢いで暴れ狂って、逃げ出してしまいました。

 うん……レジィの言うところの『死の匂い』とやらは、相変わらず絶好調のようです。


 私を中心に馬たちが逃げ惑う様子を見た騎士さんたちは青ざめて、まるで怪物でも見るかのような顔つきになっていました。

 ふ、ふふふ……懐かしいじゃないですか、その視線。帝都では紫外線の次に多く浴びていましたよ。


 昨日の作戦会議では、私とレジィは馬に乗れないため、レジィが私をおんぶして移動するという予定だったのですが……さすがに馬と同じ速度で走るのはマズイでしょうし、これじゃあ先遣隊と一緒に行動できません。


 もういっそ、先遣隊が樹海に入って行くのを見送ってから、私はレジィと二人きりで突入しちゃおっかな……などと考えていたところで、ダンディ隊長が指を口に突っ込み、甲高い音を響かせました。

 わぁ、指笛! かっこいい!


 私がそんな暢気な感想を抱いていると、少し離れたところから突然、大きな黒い影が現れました。

 そしてそれは物怖じもせずに、まっすぐ私たちの方向へと歩いてきます。


 黒い影の正体は、とても大きな黒馬(こくば)でした。

 他の馬とは一回りも二回りも体格に差があり、見るからにムキムキで強靭な肉体を誇っています。

 ……なんというか、世紀末の覇者が乗っていそうな馬ですね。あっ、ヴェルハザード陛下も似合うかも。


 その漆黒の巨馬は悠然と私たちを睥睨すると、迷いのない足取りで私に近づいて来て……

 そして、目を伏せながらゆっくりと私に(こうべ)を垂れました。


 ……えっ?、なに? これはどういう意図のアレなんですか?

 じつは見た目によらず、意外とフレンドリーなのかもしれません。えっと、撫でたらいいのかな?


 良くわかりませんが、私の目の前に黒馬の頭が来たので、とりあえず撫でてみました。初めて動物に怖がられなかったので、ちょっと舞い上がっちゃいますね。

 いきなり暴れ出したらどうしようとか考えながら、念のためにいつでも魔法を発動できる状態で待ち構えるチキンな私。

 しかし私の危惧していたようなことは起こらず、それどころか黒馬は身体を横に向けると、その場にペタッと伏せちゃいました。

 途端に周囲の騎士さんたちから、どよめきが上がります。


 いや、だから何なんですかこれ!? 誰か説明してくださいよ!


「……只者ただものではないとは思っていたが、まさかこれほどとはな……」


 ダンディ隊長は低い声でそう呟くと、地面に伏せている黒馬に跨りました。

 それから彼は私に手を差し出して、


「さぁ、これなら馬に乗れるだろう」


 ええっと……よくわかりませんけど、この黒い馬は私を怖がってはいないようです。それどころか、むしろ友好的(フレンドリー)ですらあります。

 まぁ、乗せてくれると言うのなら乗せてもらいましょう。


 私はダンディ隊長の後ろにおっかなびっくりといった感じでちょこんと座ってみます。

 うわわっ、ちょっとバランス悪い! これ馬が走ったらやばいかも……!

 でも、さっき会ったばっかりのおじさんに思いっきりしがみつくのも、なんだかなぁ……などと考えていると、私のさらに後ろにも誰かが乗った気配を感じます。


 振り返るとそこには、息がかかるくらい近くにレジィの顔がありました。

 レジィは私を後ろから抱きしめるみたいに腕を回すと、私が座っているサドルみたいなのを掴みます。途端に私の身体はがっちりと固定されて、安定感が抜群に増しました。

 おおっ、動物番組でこういうの見たことがあります! 私が落ちないように支えてくれるって事でしょうか。


 私はレジィに唇の動きだけで『ありがと』と言うと、レジィはちょっと照れくさそうにそっぽを向いて、小さく頷きました。()い奴め。


 少し遠くで、馬を借りてルローラちゃんと二人乗りしているネルヴィアさんが、ほっぺを膨らませてこちらを恨めしげに睨んでいるのが見えましたが……私は見えないふりをしてやり過ごします。

 ……あとで好きなだけ甘えていいから、今は我慢してね。


 と、こうして私とレジィが動物に嫌われるという問題はクリアできたので、晴れて私たち先遣隊は馬を駆り、ボボロザ樹海へと踏み込んでいったのです。



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