1歳3ヶ月 44
//PP様よりレビューを書いて頂きました。ありがとうございます。
私たち四人は、ダンディ隊長と勇者ちゃん、それからリルルを含めた計七人で大きめの馬車に乗って樹海を目指していました。
座席は最大四人が並んで座れるタイプのものが向かい合っている形だったのですが、誰を隊長さんの近くに座らせるかで悩まされることになりました。
というのも、まず私は声を出せませんし、ルローラちゃんは魔法の使用でさっきより露骨に幼くなっちゃってますし、ネルヴィアさんは重度の人見知りですし、レジィはたまに人族の常識から外れた言動をしてしまうということで、誰が隊長さんに話しかけられてもマズイのです。
ああ、こんな時ケイリスくんがいてくれれば……いえ、私が街に残るように言ったんですけどね。
私は結局 馬車の窓際に座ることとなったため、ケイリスくんお手製のマフラーをクイッと引き上げて口元を隠すと、腕と足を組んで馬車の外に怜悧な視線を向けるという「話しかけんなオーラ」を全開にしました。
このオーラを自在に扱えるようになることが、企業戦士として過酷な労働環境で戦っていく上では必須テクなのです。これができなかった同僚は、次々と失踪していきましたからね。……まぁそれでも死ぬ時は死ぬんですけど。
とはいえコミュ力の高いリルルと、それなりによく喋る隊長さんのおかげで会話が途切れることはなかったため、気まずい空気にさらされることはありませんでした。
そんな会話の中で、私とは反対側の窓際に座った隊長さんが、馬車を取り囲むようにして行軍する数百人の兵士たちを眺めながら、しみじみと呟きます。
「ドラゴン討伐という危険な任務にこれだけの規模の兵を動員できたのは、ひとえに勇者様のおかげだ。普段なら尻込みするような者たちも、勇者様がいれば手柄をあげられると意気込んで参加してくるほどに、勝利を信じているのだろう」
「戦争でどこも人手不足なのに、急ごしらえでここまで人を集められるなんて素晴らしいですよねぇ。リルちゃんもびっくりしちゃいましたぁ」
ドラゴンは一般に『三〇〇人級』……つまり一体を討伐するのにも三〇〇人の熟練兵が必要とされる、非常に強力な魔物です。そんなものと戦うくらいなら、前線で戦っている方がよっぽど安全なはずでしょう。
それでもドラゴン討伐にこれだけの人数を動員できたのですから、『勇者』というネームバリューの凄まじさが窺えます。
「それに勇者様を保護してくれたリルル殿の功績も大きい。……その上、ここにいる彼女たちも連れてきてくれたことだしな。この彼女たちは以前から知り合いだったのかね?」
「この人たちは、リルちゃんの知り合いの伝手でお呼びしたんですよぉ。ちょっと見た目は頼りないですけどね~」
リルルのその言葉に、ネルヴィアさんとレジィは露骨に目を細めて不機嫌そうになりました。
強者絶対主義のレジィが、実力を軽んじられるような発言に気を悪くするのは当然です。しかし自己評価の低いネルヴィアさんまで反応するのは、少し違和感を覚えました。
あるいは、もしかしてネルヴィアさんは私が軽んじられたことに怒ってくれたのかもしれませんね。
いえ、そもそもネルヴィアさんは相当にリルルのことが嫌いらしいので、リルルの発言なら何だって不愉快なのかもしれませんけど。
私がリルルと一時的に共同戦線を張ると決めた時も、珍しく反対していましたしね。
ネルヴィアさんとしては、せめてきちんとリルルから謝罪をさせるべきだという考えみたいです。それも無しにリルルを許してしまう私はあまりに優しすぎると、苦言を呈されてしまったくらいです。
うーん、別に許したわけではなく、実際のところはルローラちゃんに免じて目を瞑ってやっているって感じなんですけどねぇ。
まぁ、直接的な被害者は私だけだったので、そもそもそこまで気にしていないというのもありますが……カルキザール司教たちへの間接的な被害は、ちょっと看過できませんね。
しかしリルルみたいなタイプに謝罪を要求することは逆効果というか……。きっとリルルなら、謝罪を要求すれば謝ってくれることでしょう。表面的には、とても真摯に。
けれどもその内実は、誠意なんてまったく籠っていないでしょうし、心の中では舌を出しているに決まっています。しかし表面的には真摯に謝られてしまったら、今後責める要素が少なくなってしまいます。
特にうちの子たちは優しいので、もしかしたら騙されてしまうかもしれませんし。
あとで心置きなく『悪者』として吊し上げるためにも、あえて“謝らせない”というのは社会人なら普通に使うテクニックなのです。どうせこれが終わったら、リルルは帝都の牢獄に叩きこむ予定ですしね。
前世では、どれだけ殺してやりたいと思う相手とでも笑顔で仕事をするなんて、日常茶飯事でした。
……うちの会社や取引先の魑魅魍魎たちに比べれば……リルルなんて可愛いもんだと思えてしまうのです。




